師走を迎え、今年もあと1ヶ月。映画好きの間では、今年1番よかった作品は何か?という話題が増えてくる頃だろう。しかし、今年のNo.1を決めるのはまだ早い。ハリウッドでは、オスカー狙いの作品が続々と封切られ、来年2月10日(日本時間)におこなわれる授賞式では一体誰がオスカー像を手にするのかと、予想が盛り上がってきたばかりだ。本日のWorld Newsでは、本年のアカデミー賞の変化と有力候補作について、最新情報をお届けしたい。

ところで、アカデミー賞がどのように決められているかご存知だろうか?
まず、第92回の応募資格を得るためには2019年の間に最低7日間以上、ロサンゼルスで一般の観客に向けた劇場公開をしなくてはならない(カテゴリーによってはこの限りではない)。また、配信やテレビ放映より劇場公開が先でなくてはならない。ただし、審査料は無料である。
そうして応募された作品は約7000人のアカデミー会員に審査される。2014年の調査では、アカデミー会員の平均年齢は63歳で、94%は白人、76%が男性と報じられたが、アカデミーはその後約1000人ほど会員を増やしており、その過程では人種、性別などの多様性が重視された。しかし、最新の調査でも女性はたった31%、有色人種は16%だと報じられている。このように、まだ課題はあるものの、そうした会員の変化が近年の授賞結果にも少しずつ表れていることは、皆さんの記憶に新しいところだろう。
2020年1月13日(日本時間)に発表されるノミネーションは、それぞれの分野のプロフェッショナルに審査される。つまり、俳優は演技賞に、監督は監督賞にのみ投票できる。ただし、作品賞だけは誰でも投票可能だ。そして、ノミネーション発表後、候補作から受賞作を選ぶ投票が再びおこなわれる。今度は、会員全員がどの賞にも投票できる。

今年、審査において変化があったのは、アカデミー会員のためにオンラインで試写のシステムが整えられたことだ。これまでもドキュメンタリー、アニメーション、ショートフィルムはオンラインでの視聴ができたが、今年からは長編映画に関してもオンラインスクリーナーの提供を始めたということだ(先ほど審査料は無料と記載したが、このオンライン試写システムを使うために配給会社は約150万円ほど支払わなくてはならないようだ)。
ちなみに、このシステムはApple TVで利用できるとのこと。これは、前回のアカデミー賞でのNetflix製作の『ローマ』の評価を受けて、スティーブン・スピルバーグ監督が映画の「劇場体験」を重視した議論を巻き起こしたことを考えると、大変な皮肉である。アカデミー賞の審査をする当の会員たちは、オンラインで候補作を見ることができるのだ。ちなみに、これまでもアカデミー会員は支給されるDVDによって自宅で作品を鑑賞することができた。2015年に行われた調査によると、作品賞の候補作を自宅で見た会員は56%、一般の劇場で見た会員は20.5%、試写会なのどのイベントで見た会員は18%、そして候補作の全てを見ていない会員(!)は5.5%とのことだ。この状況を鑑みると、今年、オンラインのスクリーナーによって、自宅(もしくは場所と時間を選ばずPCやスマホ)での鑑賞がますます増えるであろうことは想像に難くない。たとえハリウッドで成功した多くのアカデミー会員が自宅に豪勢なホームシアターをもっているといっても、スピルバーグ監督のいう「劇場体験」とオスカーでの評価というのは必ずしも結びつかなくなっていく流れにあるのかもしれない。

さて、そんな中おこなわれる今年のアカデミー賞で、各メディアが主要部門の有力候補と報じる映画たちを紹介したい。

『ジョジョ・ラビット』
トロント国際映画祭の最高賞(観客賞)を受賞したタイカ・ワイティティ監督最新作。近年、観客からの評価も大きく影響するオスカーでは、同賞の結果が反映されることも少なくない(例えば昨年の『グリーン・ブック』」)。第二次大戦中、ヒトラーを想像上の友人とする孤独な少年がユダヤ人の少女と出会いナショナリズムに向き合っていく姿を描く。反トランプ的なハリウッドの人々がこの作品のテーマをどのようにとらえるのかも注目だ。2020年1月17日日本公開。

『アイリッシュマン』
作品賞を待望するNetflix入魂の一作。
マーティン・スコセッシ監督がロバート・デ・ニーロとアル・パチーノを迎えて贈るギャング映画。ベテラン揃いの本作は、作品賞、監督賞、主演男優賞などで有力視されている。劇場とNetflixで日本公開中。

『マリッジストーリー』
Netflixが作品賞への希望を託すもう一本の作品。ノア・バームバック監督が円満な協議離婚を望むものの積年の不満がつのり裁判へともつれこむ夫婦を描く。主演のアダム・ドライヴァー、スカーレット・ヨハンソンがキャリアで一番の演技を披露していると言われており、主演男優・女優賞も期待される。劇場とNetflixで日本公開中。

『Little Women』
『レディ・バード』で鮮烈な監督デビューを果たし、昨年のアカデミー賞を大いに賑わせたグレタ・ガーウィグ待望の監督第二作は、「若草物語」の映画化だ。公私ともにグレタとゆかりの深い同じくマンブルコア/ニューヨーク派のノア・バームバック監督が評価される流れが吉とでるか。前回と同じく、シアーシャ・ローナン、ティモシー・シャラメなどチーム・グレタが再集結した本作では、演技賞にも期待が高まる。日本公開未定。

『ジョーカー』
もはや言わずと知れた2019年を代表するヒット作。ホアキン・フェニックスの主演男優賞はもちろん、コメディを製作しながら社会派のテーマにも興味をもち、本作で才能を余すところなく披露しアメコミ映画に新たな息吹を与えたトッド・フィリップス監督への評価にも注目が集まる。日本公開済み。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
クエンティン・タランティーノ監督の映画愛・ハリウッド愛が爆発した本作。業界でも評判は上々で、レオ様とブラピの演技合戦も主演男優賞に絡むと予想されている。日本公開済み。

『1917 命をかけた伝令』
第一次世界大戦に投入された2人の若きイギリス兵の1日を描く、サム・メンデス監督作。『ダンケルク』以来の期待の戦争映画。全編ワンカットで撮影されたという驚異的な技術も評価されることだろう。ジョージ・マッケイ、ディーン=チャールズ・チャップマンといった若手俳優や、脇を固めるコリン・ファース、ベネディクト・カンバーバッチらベテラン勢の演技賞にも期待が高まる。2020年2月14日日本公開。

『The Farewell』
斬新な映像美で、現代社会を取り上げつつ普遍的なテーマを描き毎年優れた作品を発表し続けているA24の大本命。中国とアメリカの文化の違いに戸惑う女性を主人公に、家族愛を描く。主演は『オーシャンズ8』『クレイジー・リッチ!』で確かな存在感を見せたオークワフィナ。中国の映画市場拡大と、多様性の観点から注目が集まるアジア系作品がどう評価されるのか。日本公開未定。

そのほかにも、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した韓国映画『パラサイト 半地下の家族』、トム・ハンクス主演で批評家から絶賛されているヒューマンドラマ『A Beautiful Day in the Neighborhood』、今年の音楽/伝記映画の本命で演技賞が期待される『ジュディ 虹の彼方に』(主演 レニー・ゼルウィガー)『ロケットマン』(主演 タロン・エガートン)、#MeTooを受け、メディアでのセクハラ告発事件を描いたシャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビーの演技合戦も見ものの『スキャンダル』、ストリッパーの実話を題材にした『Hustlers』、今回のミュージカル枠『キャッツ』なども有力候補とされている。
今年も豊作の多いアカデミー賞。どのような結果になるのか、楽しみだ。

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参照:

https://www.oscars.org/oscars/voting

https://www.oscars.org/oscars/voting

https://www.digitalspy.com/movies/oscars/a621921/who-votes-for-the-oscars/

https://www.indiewire.com/2019/10/oscars-2020-academy-screening-room-feature-voting-1202186244/amp/

https://entertainment.ie/amp/cinema/movie-news/how-does-the-oscar-voting-process-work-227617/

https://www.hollywoodreporter.com/news/oscar-voters-poll-6-percent-775104

https://ew.com/oscars/2019/10/24/oscar-nomination-predictions-2020/amp/

https://www.gq-magazine.co.uk/culture/article/oscar-predictions-2020%3famp

https://collider.com/oscars-best-picture-predictions-2020/%3famp

https://www.hollywoodreporter.com/amp/lists/feinberg-forecast-2020-oscar-predictions-1247728

https://observer.com/2019/11/oscars-predictions-2020-academy-award-front-runners/amp/

https://www.vanityfair.com/hollywood/2019/11/ultimate-guide-to-awards-season/amp

北島さつき World News&制作部。 大学卒業後、英国の大学院でFilm Studies修了。現在はアート系の映像作品に関わりながら、映画・映像の可能性を模索中。映画はロマン。