香港映画の巨匠ウォン・カーウァイが設立した、ジェット・トーン・フィルムズ配給『擺渡人』の公開が12月23日から香港で始まる。トニー・レオンと金城武の共演は『レッド・クリフ』『傷だらけの男たち』『恋する惑星』に次いで4度目だ。

私と同世代の20代からすると、金城武といえば2000年代に映画、ドラマ、CMそしてカプコンのゲーム「鬼武者」で印象づいた屈強な男前というイメージが拭えないだろう。早稲田松竹で『恋する惑星』を見たときは、そのギャップにとても驚いた。台湾青春映画ではおきまりの「片思いの相手を追い続けるひたむきな男の子」というイメージが新鮮に映った記憶がある。
本作では、18歳の役所を演じるのでとても苦労したそうだ。
「監督が、もっと若く、若く振る舞ってくれって頼むんだ。そうやっても30歳以上に見えちゃうことがあってね。役との差を縮めるために、大げさな演技をしがちだから、それを減らすのに神経を使ったよ」
カーウァイはコメディ映画をプロデュースすることに決めた理由を香港プレミアの場で話した。
「私が製作総指揮を務めるほとんどの映画はコメディです。何年か前の『チャイニーズ・オデッセイ』もそうだった。『擺渡人』は今年で25周年記念となるジェット・トーン・フィルムズのために作った映画です。」今回は同作の原作者でもある张佳佳に監督を任せている。同氏曰く「チャウ・シンチーのテイストで映画を撮った」コメディだそうです。

前置きが長くなってしまいましたが、
今回の記事で取り上げたいのは、ジェット・トーン・フィルムズを影で支えている、女性プロデューサーのジャッキー・パン氏についてです。

ジェット・トーン・フィルムズは、ウォン・カーウァイとアンディ・ラウによる連名で設立された、映画の製作とタレントのマネージメントを行う会社だ。
アンディ・ラウ監督のもとで助監督兼製作見習いとして働いていたパンはその実力を認められて『黒薔薇VS黒薔薇』シリーズの第2作目から監督を任されたり、他にもトニー・レオン主演の映画などを手がけた。

香港インターナショナル・フィルム&テレビマーケット2016のディスカッションで、本作『擺渡人』の撮影が遅れているのではないかという噂に関して、また、彼女自身について記者から質問が投げられた。
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—監督から製作に転向したきっかけがあったのでしょうか?
「監督になったのは映画を愛していたからです。しかし、映画製作に最も必要なのは、良きチームを持つことであると気がついたんです。良いプロデューサーがいて、腕利きのカメラマンがいるとか、そんなことです。だから私はチームの一員になることを決めました。そうした方がいい効果があると感じました」

—あなたは設立当時からウォン・カーウァイやアンディ・ラウと共にいましたね。当初、経営理念はありましたか?
「設立当時、まだ私は見習いでしたから。ウォンは、自分の作品や出資者に対して責任を持つべきだと、そしてそれには会社を作る必要性があると感じて、信念を通すために会社を設立しました。」

—ジェット・トーンが製作をする作品は多くが批評的に成功して、映画祭でも好まれるようですが、プロジェクトを選ぶ基準はありますか?
「私たちが面白いと思い、好きな映画を作る。それだけです。」

—ジェット・トーンはタレントのマネジメントをしていますね。トニー・レオンをはじめとして、カリーナ・ラウ、チャン・チェン、アリス・クー、そして(日本ではチャン・ロンロンの愛称で親しまれている)サンドリーナ・ピンナなど。
タレントの将来性をふまえて契約をしますか?
「会社として一緒に仕事のできる、自力のあるアーティストを探しています。誰と契約をするのかについては、運命が大きな部分を握っています。彼なのか彼女なのか、もっと大きなステージで才能を発揮できる、世界的に活躍のできるアーティストを待っています。」

—ウォン・カーウァイのプロデューサーとしてのあなたと、経営者であるあなたは、どうやってバランスをとっているのですか?
「どちらも同じことです。すべては映画への情熱からくるのですから。映画を作るのは楽しいことですよ。多くの人と働くことはかえがえのないことです、もちろん新たな試みをするには楽しいだけではではありません。でも楽しく、大家族で働いているようですよ。」

—ウォン・カーウァイは撮影に時間がかかることでよく知られています。彼との仕事で最も挑戦的なことは何でしたか?
「毎日が挑戦です。次々と新しいアイデアが浮かぶ人なので、それに応えられるは楽しいです。ウォンは想像を働かせるべき人で、彼がもっと自由に創造するスペースを作るため、私は監督からプロデューサーに転向しました。」

—1990年代の後半に『ブエノスアイレス』の撮影でアルゼンチンに行きましたね。多くの理由から製作の進行が遅れていましたが、忘れられない出来事はありますか?
「多くの人に会い、撮影の内外で物語が生まれました。『ブエノスアイレス』では演技経験のない人を多く起用しました、例えば旅行エージェント役であるとか、起用することで彼らの生活を変えてしまったんです。よく覚えているのは、アルゼンチンで結婚して、子供を設けて、ゆくゆくは定住を考えていた若い台湾人の女の子のことです。撮影が終わる頃に彼女は言いました。”あなたたちに会って、考えが変わりました” 思い出すとまだ感動します。彼女は故郷に帰って家族と一緒になりました、今は通訳として働いています。彼女に試写会で会って、おばあちゃんと暮らしていると聞きました。こんな人たちのことが私は忘れられません。」

-2007年『ブルーベリー・ナイツ』について、アメリカの撮影システムで何か困難なことはありましたか?
「アメリカのシステムは厳格に組織化されています。とても得るものが多く勉強になりました。すべてスケジュール通り撮影をしなければいけないので、事前の準備を綿密にしました。西海岸から東海岸へ行く物語だったので、ロケハンのために4回か5回は大陸を横断しましたよ。スタッフにとって冒険のようなものでした。」

—以前までウォン・カーウァイ監督の映画は他国との共同出資でしたが『グランドマスター』は中国の資本家だけで製作されましたね。
「とても幸運なことです、中国市場は多くの集客を見込めます。昨今の流れがそうでさるように、中国市場に目を当てましたが、それは他の国を諦めたという意味ではありません。世界中で上映されることを望んでいます。」

—ジェット・トーン・フィルムズとアリババピクチャーズの初・共同製作が最新作の『擺渡人』になりますね。撮り直しが噂されていますが。
「そんなことはありません。現在も撮影中ですが、春節の前には撮り終わります。公開日は決まっていますから。」

—次回作は?
「複数の作品で監督と契約をしました『光にふれる』チャン・ロンジー監督や、台湾の新人Lai Man-chieh監督です。ウォンは最新作のディレクターで忙しいながら、次は監督をしますね、、まぁ、いくつもアイデアを練っていますよ。」
(香港インターナショナル・フィルム&テレビマーケット2016、3月時点でのインタビュー)

さらなる世界進出を視野にいれて活動をするジェット・トーン・フィルムズ、その陰には敏腕プロデューサー存在があった。
ネット配信への作品提供も決定した(※ネットの海に飛び出すアジア映画たち)同グループの動向に今後も目が離せない。

★参考記事★
http://english.cri.cn/12394/2016/10/24/4001s943263.htm [Tony Leung and Takeshi Kaneshiro reunite] http://www.chinadaily.com.cn/…/12/content_19295986.htm [Writer Zhang Jiajia to direct ‘The Ferryman’] http://en.yibada.com/…/tony-leung-takeshi-kaneshiro-s… [Marks 25th Anniversary of Jet Tone Film Company] http://www.hollywoodreporter.com/…/filmart-jet-tone-ceo… [Jet Tone CEO Talks Working With Wong Kar Wai]

伊藤ゆうと

イベ ント部門担当。平成5年生まれ。趣味はバスケ、自転車。(残念ながら閉館した)藤沢オデヲン座で「恋愛小説家」を見たのを契機に 以後は貪るように映画を観る。脚本と執筆の勉強中。


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