今年のトロント国際映画祭で観客賞を受賞したタイカ・ワイティティ監督最新作『ジョジョ・ラビット』は第二次世界大戦の最中、友達のいない10歳の少年が青少年組織ヒトラーユーゲントに入った後、空想上のヒトラーと友達になる物語だ。ある日、自分の母親がユダヤ人の少女をかくまっていることを知ってしまいそこから少年はヒトラーとの関係に悩んでいく。スカーレット・ヨハンソン、サム・ロックウェルなどの豪華キャストを連ねているのに加え監督本人演じられるヒトラー像は典型的なヒトラーの背格好を模しながらも同時によく動き回る表情によってコミカルに仕上げられている。彼の過去作『ボーイ』では刑務所から出てきた父親と繋がろうとする11歳の少年を描き『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』では孤児の少年と彼の父親（もどき）の二人の逃走劇を描いている。世界と繋がろうとする孤独な少年達を描き続ける監督が今作で伝えたかったこととは。
シングルマザーの家族設定であるジョジョの家は彼の他の作品にも通じる父親（像）の不在がある。「父親を不在にすることによってヒトラーをより「想像上」の友達として登場させやすくなりました。家族背景をもっとシンプルに描きたかったというのもあるかもしれません。」と語る監督。父親の不在という設定から残された少年たちは自分なりの価値観や社会のあり方を体験し自分の足で歩いていくということを学ぶ「成長の過程」をより描くことができるのかもしれない。
父親の不在と対照的に描かれるのは今作での母親の存在感だ。監督自身の母親が今作の大きなきっかけとなっているのと物語の核となるのがスカーレット・ヨハンソン演じるシングルマザーのジョジョの母親であるのはただの偶然ではない。「私の母が読んだ『Caging Skies』（クリスティン・ルーネンズ著）がこの映画の始まりです。とても良いコンセプトと設定で母がこの本について説明してくれた時なんていい映画のアイディアなんだと思いました。でも実際に本を読んでみたところ母が説明していたのとだいぶ違っていたんです。でも脚本化するとき、母が説明してくれた感覚の方が自分の世界観に近く、それを軸に書き進めました。」ヒトラーを尊敬する自分の子供とユダヤ人をかくまっている母親。すべての「母親」たちへ贈るラブレターだと語る監督。「私の母親はきっと子供達のためならなんでもしたと思います。私自身も親になってみて思い知りました。今作ではきっとスカーレットが演じる母親が唯一の地に足のついた人物だと思います。」子供を守るためならどこまでも強くなれる特別な力は憎しみと暴力の行き交う世界で唯一の拠り所だろう。
そしていまこの作品を公開することの意義について「脚本を2011年に書き始めて2017年から撮りはじめました。この作品が今必要とされている理由に第二次世界大戦直後にあったヒトラーのような思想はあってはならないという感覚が今鈍っているように感じます。言論の自由という権利を盾に何を言ってもいいという風な行動をする人たちがあまりにも多すぎます。」と話す監督。
いまこの時代にあえてこのような作品を発表し、ヒトラーのいた世界の恐ろしさをもう一度思い出さないといけないこと自体に大きな危機感を抱かないといけない。今作はコメディでありながらも決してコメディではない。
日本公開は2020年1月17日
http://www.foxmovies-jp.com/jojorabbit/
参考：
『Taika Waititi Doesn’t Talk About His Feelings. He Makes Movies About Them.』
https://www.esquire.com/entertainment/movies/a29329396/taika-waititi-jojo-rabbit-interview-2019/
『CS Interview: Taika Waititi on Jojo Rabbit, Time Bandits & Star Wars』https://www.comingsoon.net/movies/features/1107070-cs-interview-taika-waititi-jojo-rabbit
『Filmmaker Taika Waititi On Satirizing Nazis In ‘Jojo Rabbit’』
https://www.npr.org/2019/10/16/770620299/filmmaker-taika-waititi-on-satirizing-nazis-in-jojo-rabbit
『Taika Waititi explains the origins of his Oscar contender ‘Jojo Rabbit,’ why he ended up playing Hitler, and what it was like directing in costume』
mugiho
夜の街を彷徨い、月を見上げ、人間観察をしながらたまにそれらについて書いたり撮ったり
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