『ザ・ヴァンパイア 〜残酷な牙を持つ少女〜』日本公開記念
アナ・リリ・アミリプール監督
IndieTokyo独占インタビュー
—『ザ・ヴァンパイア 〜残酷な牙を持つ少女〜』(以下、『ヴァンパイア』)はさまざまな映画やジャンルのことを想起させると同時に、全く新しいフレッシュさも感じさせます。このような斬新なアイディアはどのように生まれたのですか。
私のアイディアの源泉は、日々出会う「変わったもの」。その一つ一つを注意深く観察していくと、それが新たな発見へと導いてくれて、次から次へといろんな「変わったもの」に気づけるようになるの。
この映画は、ヴァンパイアの少女のキャラクターから始まったわ。彼女にチャドル(イスラムの伝統衣装のマント)をかぶせたとき、それがエイのような不思議な生物に思えたの。そしてすぐに閃いた。これは、イラン風ヴァンパイアだと。さらに、これは殺し屋のすばらしい隠れみのにもなるぞ、と。
そして、私はまず彼女が住む場所を想像した。そこは、麻薬常用者、売春婦、その売人たち・・・この世で最も孤独で呪われた魂をもつ人々が住んでいる荒れ果てたゴーストタウン。彼女が静かに生きることができて、社会のくずをひそかに狩ることができる場所。でも、そんな街に、一人だけ他とはちがう青年がいた。彼はまだ、希望にみちあふれ、いきいきとしているの。彼に会ったとき、彼女の中でなにかが目覚める。彼女は、人が心を動かすことができること、そして、誰かとのあいだに絆を感じたとき、そこに魔法が起こることを思い出すの。
ジャンルというのは、おかしなものだわ。なぜなら、映画は夢のようなものだと思うから。それは、心の宇宙への冒険。シュールで超自然的な吸血鬼を思いうかべたら、あなたは現実よりも自由になれる。それこそ私が最も大事にしていること。映画を作るとき、私は現実を心の冒険にまかせてしまうの。そこは、「変わったもの」があふれている世界よ。
— この映画では、音楽がとても効果的に使われています。このようなスタイルがどのように生まれたか、またどのようにサウンドトラックを選んだのかについて、教えて下さい。
音楽は、私が私であるため、そして、映画製作者として、一人の人間として、クリエイティブでいるための中心となるものよ。音楽は、私にとって、他のどの表現のかたちよりも明確に感情をとらえるものなの。だから、脚本を書くとき、シーンやキャラクターをデザインするとき、必ず音楽のことを考えるわ。ある瞬間や場面を象徴するような曲を聞くと、その音楽が私を導いてくれる。私は、そうしたインスピレーション与えてくれるミュージシャンを知っているわ。『ヴァンパイア』の製作中、私は彼らの曲を脚本に書き込んでいたの。だから、脚本ができあがったとき、サウンドトラックはすでにそこにあったのよ。
映画に関わったスタッフにはみんな、前もってサウンドトラックを渡していたの。音楽は、音楽にしかできない方法で、ストーリーの感情をみんなにはっきりと伝えてくれるから。音楽は、まさに帆に当たる風。船をすすめる原動力なの。私はこのサウンドトラックを誇りに思っているわ。新しい音楽を人に紹介するとき、私は至高の喜びを感じる。それは、私にとってなにものにも代えがたい幸せよ。
— 映画の中では、50年代や80年代のモチーフが見られます。これらの時代に対する思い入れはありますか?また、そうした過去と現代との関係性について教えて下さい。
時代というのはおもしろいものよ。文化がどのようなサイクルで動いて、過去に影響されているということを、私たちは説明することができない。建築から、食べ物、ファッション、アートまで、私たちが生みだすすべてのことは、さまざまな時代に関係している。それらは、両親からあたえられたものや、子ども時代のさまざまな瞬間を含んでいるわ。そしてそれらはすべて、現在を豊かにしてくれるものよ。
『ヴァンパイア』では、私は何人かの映画スターを思いうかべていたわ。アラシュのミューズは、ジェームズ・ディーン。売春婦は、ソフィア・ローレンのイメージ。そしてヴァンパイアのイメージは、ジーン・セバーグ。一方で、彼女のベッドルームは、80年代のティーンエイジャーらしいものだけどね。また同時に、ドミニク・レインズ演じる売人のモデルは、現代のポップスターであるダイ・アントワードのNinja(ケープタウン出身のラップグループのメンバー)。特にNinjaは、私がよく影響を受ける人物の一人よ。
物語の舞台は、まるで50年代と60年代で時が止まってしまったかのような街だけど、現代からもヒントを得ているわ。廃墟がある一方で、地下では若者がダンスミュージックとエクスタシー(ドラッグ)に興じている秘密のパーティーがおこなわれているの。時代とは変化そのもの。そして、映画はその変化を実験するのに最適のものだと思うわ。
— これから、あなたに憧れる人はさらに増えていくと思います。映画作家や映画業界での仕事をめざしている人々や、あなたのように新しいことに挑戦している人々にアドバイスをいただけますか。
私は、映画を製作することは、「変わり者の試み」であると思ってる。あなたに求められる唯一のことは、変わり者でいること。私は、自分自身のことを、発明者のようだと感じているわ。私がそれを存在させたいと思っているから、発明する。これが私の映画製作の原動力よ。それ以外に、その発明の存在を願うものはないから。
私は自分のことを、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドク・ブラウンのようだと思っているわ。ドクは、友達のマーティや愛犬のアインシュタインといても、いつも孤独なの。そして、彼の熱意はすべて、デロリアンの創造にそそがれている。それは、大企業や、名声や注目のためではなく、ただ、彼がそれに狂っているからよ。彼はただ、デロリアンが存在することを望んでいるだけなの。彼がデロリアンを完成させたら、人々はそれを奪って、タイムトラベルをして、問題を起こすわ。でも、それは彼のせいじゃない。彼はどうしてもデロリアンを作らなくてはならないだけなの。全ての映画製作者に私が言いたいのは、あなたのデロリアンが何であるか見極めて、それをつくりなさい、そして、誰にもあなたを止めさせないで、ということよ。
— わたしたちIndieTokyoのメンバーは、あなたの作品に夢中です。映画が公開されたら、日本でも同じようにこの作品を愛するファンがたくさん生まれると信じています。これからあなたの映画を見る日本のファンへ、メッセージをお願いします。
日本という国は、未来的であると同時に、歴史ある古代の趣を残した場所のように感じるわ。この二元性は、私を興奮させる。私は、ずっと東京に行きたいと思っているの。私は、日本のみなさんが『ヴァンパイア』を気に入ってくれて、いつか日本に私を呼んでくれるといいなと思っているわ。東京に行ったら、私は、きっと嬉しくってカラフルな明かりの中を駆け抜けながら、自分が過去にいるのか未来にいるのかきっとわからなくなってしまうでしょう!
インタビュー・翻訳:北島さつき