元恋人、ミア・ファローとの間にもうけた養女、ディラン・ファローへの虐待疑惑により、批判の的となっているウディ・アレン。今年に入って、#MeToo運動により再び注目され、俳優たちがこぞってウディとの仕事を後悔し、ギャラをチャリティーに寄付するなど、彼は立場を失う一方だ。そんな中、現在ウディの妻であり、ミアの養女でもあったスン=イー・プレヴィンがNew York Magazineのインタビューに答えた。

そもそも、問題となっている養女・ディランへの疑惑は、1993年、内縁関係にあったミアとウディの親権争いの裁判の際に、ミア側から主張されたもの。当時7歳だったディランにウディが虐待をおこなったという内容だったが、充分な証拠がないとされ、不起訴となった。その後、2014年、ウディ・アレン監督作の『ブルー・ジャスミン』がアカデミー賞で3部門にノミネートされたことをうけ、ディランがアカデミー賞会員に宛てた手記を公開。虐待の事実を再び公表するとともに、ウディ・アレンが評価されることは社会が虐待の被害者を見捨ててきたことの象徴だと批判。ウディはすぐに虐待の事実はないし、無実も証明されていると反論。一時、事態は収束したかに見えたが、昨年12月、ディランが「なぜ#MeTooはウディ・アレンを見逃すのか」と再び主張、多くの俳優や映画人たちが「もうウディとは仕事をしない」と宣言する事態となった。今年5月には、ミアとウディの一人目の養子であり、ディランの兄であるモーゼスが、父親の無実を訴えるコメントを発表。そして、先日ついに妻のスン=イー・プレヴィンも沈黙をやぶった。

スン=イーは、その苗字からもわかるとおり、ミアがウディと出会う前に結婚していた音楽家、アンドレ・プレヴィンとの間にもうけた養子である。1992年、ミアは、ウディがスン=イー(当時22歳)のヌード写真を撮っているのを発見し、怒り心頭だった。そして、関係を修復することができなかったウディとミアは別れることになり、件の裁判が行われたのである。それから、ウディとスン=イーの関係は真剣な恋愛に発展し、1997年、二人は結婚。現在に至るまで円満な結婚生活がつづいているようだ。

スン=イーは、ミアの養子であった彼女とウディが交際するに至ったという事実が、ディランへの虐待疑惑に疑問を投げかけてきたということはずっとわかっていたが、最近のウディのおかれている状況をかんがみて、ついに自分の言葉で語らなくてはならないと思ったそうだ。

「私はミアに対して、『愛と憎しみの伝説』*1 のようなストーリーを語るつもりはこれまでも、これからも全くありません。だけど、最近ウディの身に起こっていることは、不愉快で、不公平です。ミアは#MeToo運動を利用して、ディランを被害者として見せびらかしている。そして、これからの時代を作っていく#MeTooのような運動に敏感な人たちこそ、ミアの話を真に受けるべきではないのに、耳を傾けてしまっているのです。」

スン=イーは、5歳の時に韓国からミアの元に養子として迎えられたが、「彼女から母性を感じたことは一度もない」という。

「ミアとアンドレの養子3人と、実の子供3人。この6人の子供たちには、はっきりとした序列がありました。ミアはそれを隠そうとはしなかった。ミアは知性と外見…金髪と青い目をもつ子供を、より大事にしたのです。」

「彼女は、木のブロックを使って私にアルファベットを教えてくれました。でも、私が間違えると、それを投げつけて怒ったのです。あんなプレッシャーの中で勉強できる子供がいるでしょうか。」

その後、1979年にミアとアンドレが離婚した後、スン=イーは母のパートナーとしてウディと出会うが、彼のことは大嫌いだったという。しかし、それから8年ほど経った頃、彼女が怪我をした時に家族でただ一人自分を心配し、面倒を見てくれたウディに、彼女は心を開くようになる。そして、皮肉なことにミアのアイディアで、ウディとスン=イーは一緒にバスケットボールの試合を見に行くようになり、親交を深めていった。

彼らの関係が男女のものになったのは、スン=イーが21歳の頃だったという。しかし、どんなにウディとミアの関係が冷めきっていたとはいえ、ミアへのひどい裏切りであるということは二人とも自覚しており、彼らはこの関係がファロー家に与える影響について早い段階から話し合っていたそうだ。しかし、お互いに気持ちをおさえることができず、二人は”モラルのジレンマ”の中にあったという。

「正当化しようというつもりはありません…ですが、誰かが親切にしてくれて、今までの人生で与えられなかった愛を示してくれたら、その人についていくでしょう。ばかにだってなってしまう。私自身、大学で他の男性とそうやって恋に落ちていたかもしれないと思っています。けれど、ウディが私を追いかけてきた。自分が大事にされていると感じました。」

二人の秘密の関係は、ミアが、スン=イーのヌード写真を発見したことにより、明らかになる。メディアもウディが養女と関係をもったことをスキャンダラスに報じた。しかし、スン=イーはウディのことを父親だと思ったことは一度もないという。

「私にはすでにちゃんと父親がいました。アンドレ・プレヴィンです。ミアはウディと籍を入れなかったし、実際、一緒に住んだこともなかった。ウディはあくまで、母の恋人だった。家族というより、全く別の存在だったのです。」

インタビュアーの、「ミアへの復讐心から二人は一緒にいるのか」という質問に対しては、「それは、ばかげた考えだ」と答えた。

「そんなことのために20年も一緒にいられるはずかないでしょう。ただ、ミアにとって私たちの関係がこんなにも長く続いていることは、想定外で、許しがたいことなのだと思います。」

今まで沈黙を貫いてきたスン=イーがインタビューに答えたのは、「子供のため」だという。ウディと彼女の間には、大学生になる養子が二人いる。

「子供たちにとって、ウディは寛大すぎる父親で、私は逆に厳しい母親だと思います。でも、そのおかげでバランスが取れて、うまくやってきているのだと思います。」

このスン=イーのインタビューに対して、ディラン・ファローはコメントを出した。

「母、ミア・ファローが私を洗脳し、事実をねじまげたということはありません。私は素晴らしい家庭で育ててくれた母に感謝しています。この記事は、ウディ・アレンの側に立ち、事実について偏った見方をした内容で、見るに耐えません。」

また、同じくディランの弟であるローナン・ファローもコメントを出した。

「母は、僕たちのために、あたたかい家庭を築くことにすべてを捧げてくれました。しかし、そんな母への攻撃は無くなりません。同じジャーナリストとしても、この記事が数々の証拠や証言を無視していることにショックを受けています。」

ここに来て、あらためて疑惑の真偽が問われているウディ・アレン。映画界、そして世の人々はこのスン=イーの発言をどのようにとらえるのだろうか。1970年代から毎年新作を発表してきたウディだが、一説にはそのキャリアで初めて休業することになると言われている*2 。彼が、長いキャリアの中で映画文化の発展に寄与してきたことはまぎれもない事実だ。しかし、本当に虐待があったのであれば、その事実も無視するわけにはいかない。私たちはこのジレンマの中で、何を信じればいいのだろうか。今後も、注目していきたい。

*1
『愛と憎しみの伝説』
1981年のハリウッド映画。世間に良い母親のイメージを印象づけるために養女を迎えた女優が、次第に子供を虐待し始め、我が子への愛憎でおかしくなっていく姿を描いた作品。

*2
アマゾン製作のウディ・アレン最新作『A Rainy Day in New York』の公開日は決まっていない。
https://www.google.co.jp/amp/s/www.vanityfair.com/hollywood/2018/08/woody-allen-film-break-report/amp

参照︰
http://www.vulture.com/2018/09/soon-yi-previn-speaks.html

https://www.news.com.au/entertainment/celebrity-life/woody-allens-wife-soonyi-previn-to-break-silence-on-family-scandals/news-story/4b5b938c96f4b49cdf8788ca77c28eb1

画像:
http://celebrityinsider.org/soon-yi-previn-the-wife-of-woody-allen-addresses-the-sexual-assault-claims-levied-by-farrow-family-192408/

北島さつき World News&制作部。 大学卒業後、英国の大学院でFilm Studies修了。現在はアート系の映像作品に関わりながら、映画・映像の可能性を模索中。映画はロマン。


6 Comments
  1. ウディ・アレンの新作が公開されるかどうかわからない、とのことですね。映画の歴史が始まって110年以上、かつてこんな理由で公開されなかった作品があるのでしょうか。出来た映画は公開し、観たい人は観る、観たくない人は観ない、それが当たり前ではないでしょうか。嫌がらせは、なにもセクハラだけではありません。映画の公開を妨害する人は、結果的にその映画を観たいと思っている人に嫌がらせをしているのと同じです。映画はただの娯楽です。何を観て何を観ないか、それは個人の自由です。映画とそれを取り巻く環境が、正常化することを望みます。

    • コメントをいただきまして、誠にありがとうございます。お返事が遅くなってしまい申し訳ございません。ウディの新作が公開されないことに関しては、映画ファンとして残念でなりません。一方で、もしも虐待が事実で、彼が罪を償うことなく活動しており、そのことによって傷ついている人々がいるのであれば、それを無視することはできないと考えます。
      しかし何より、ウディの件の問題は、疑惑の真偽がわからないという点にあります。被害者のためにも、映画界のためにも、一日も早く真実が明らかになることを願います。これからも、続報を伝えていきたいと思います。

  2. ご返事ありがとうございます。ウディの新作が公開されないことで、実は私も深く傷ついております。このことを知ってから気分が良くなく、時々吐き気がします。もしもストレスで、目が見えなくなったりしたらどうしよう、という不安もあります。ウディが私の夢に現れて「ぼくに性的虐待を受けたと訴える人に、性的関心を持ったことは一度も無い」と言っていました。このまま体調不良が続くようなら、精神分析の治療を受けることも考えております。続報よろしくお願い致します。

  3. ウディ・アレンの件は、彼自身の行動にも些か問題があったにしろ、あまりミア側の主張ばかりが正当化されるのはどうかと思います。そもそもミアの息子のローナン・ファロー氏は、故フランク・シナトラ氏との間にできた子供ではないかという疑惑があり、彼女自身もその可能性に言及したことがあります。それが本当であれば、他人の子供を養育してきたウディの立場はどうなるのでしょうか。ディラン嬢への性的虐待の真偽は分かりませんが、ますます泥試合になってきた印象を受けます。

    • お返事が遅くなってしまい申し訳ありません。コメントありがとうございます。泥仕合の様相を呈してきていますね。この疑惑についての真偽はわかりませんが、少なくとも#MeToo運動が誰かにとって都合よく使われたり、偏った主張を伝えることに利用されることが無ければよいなと思っています。#MeToo運動が目指す男性中心主義からの脱却とは、女性中心主義を作り上げることではなく、ジェンダーから解放された真の平等だと思うからです。そういった視点から、また続報もお届けできればと思っています。

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