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2014年に養女ディラン・ファローから性的虐待を受けたと告発され、近年のハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ問題に端を発する#MeTooムーヴメントにより再び糾弾されているウディ・アレン。今年1月には、Amazonスタジオ製作の新作「A Rainy Day in New York」に出演した俳優たちが、こぞってギャラをチャリティーに寄付し、出演を後悔していると述べ、映画の公開も危ぶまれるなど、窮地に立たされている。*1

しかし先月、こうした流れを受け、ウディ・アレンとミア・ファローの養子の一人、モーゼス・ファローが父を擁護する約5000ワードにも及ぶエッセイを発表した。

モーゼスは、ウディとミアの一人目の養子。二人は結婚しなかったものの、上からモーゼス、ディラン、ローナン(二人の実子とされているが、ミアの最初の夫フランク・シナトラとの子供かもしれない)の三人の子供をもうけた。モーゼスは、このファロー家の中で唯一、父親の無実を訴えている。

1992年当時、ミアはウディに怒り心頭だった。それは、ウディが、ミアと前夫アンドレ・プレヴィンとの間にもうけた養子、スン=イー・プレヴィン(当時22歳)のヌード写真を撮っているのを知ってしまったからである。事件のあったとされる8月4日、ウディは子供達を訪ねており、ミアは親友のキャシーと買い物に出かけていた。当時14歳だったモーゼスは、母の「ウディから目を離すな」という言いつけを守って、兄妹、キャシーの子供、ベビーシッター達と一緒にリビングでテレビを見ていたそうだ。その日、おかしなことは何も起こらなかった。しかし、ウディが帰った直後、キャシーから「うちのシッターが、ウディのディランに対する性的虐待を目撃した」という電話が入る。

翌日、モーゼスは、休暇をとっていたファロー家の長年のベビーシッター、モニカがやってきた際、虐待は作り話だと訴えた。モニカはモーゼスを信じたが、ミアにウディの告訴に協力するよう圧力をかけられたことが原因でシッターをやめてしまう。また、モニカは後日、ミアがディランを叩きながら、父親がしたことを言うように言い聞かせている場面を目撃したと証言している。

ウディのディランに対する虐待疑惑は、こうした双方の証言の食い違いによって立証できず、1993年、警察による捜査の末に、不起訴となっている。

ファミリーセラピストとしての資格ももつモーゼスは、「ファロー家は、幸せで健康的な家庭とは程遠いものだった」と振り返る。これまでミアは14人の子供をもうけたが(内10人は養子)、彼らをコントロールするため、ひどく叱りつけたり、時には手を出すことあったと主張。*2

こうしたモーゼスの発言を受け、ワインスタインのセクハラ疑惑を告発したジャーナリストでもある弟のローナンは「自分は母が子供達に愛情と庇護を与えているところしか見たことがない」と反論し、ミアは「私を攻撃するために息子を使うなんてやりきれない」とウディを強く非難した。*3

そんな中、今月ウディはニュース番組のインタビューで、改めて虐待の疑惑を否定。また、「たった一人からの訴え、しかも親権をめぐる家庭内での告発で、ずっと昔に無実となった疑惑があるだけなのに、他の多くの被害者から糾弾されている人たちと一緒にされるのは腹立たしい。僕は#MeTooの支持者だし、正義がおこなわれるのは素晴らしいことだと思っている。これまで一緒に仕事をしてきた女優たちからは全く被害が報告されていないのだから、僕が#MeTooのポスターになってもいいくらいだ」ともコメント。*4 ディランは、「これは彼の評判を取り戻すための戦略的発言だ」と激しく批判した。*5

ところが、ウディは彼の主張とは逆の意味合いで、すでにワインスタインと並ぶ#MeTooの顔になってしまったといえるだろう。疑惑の真偽にかかわらず、彼と組んで映画を作ることは、Time’s Upに反対することと同義、という雰囲気がある。セクハラ疑惑のあるウディの映画に出るという自分の選択によって、傷つく人がいるかもしれない。だからこそ、告発から時間がたった今になって、ここまで多くの俳優たちが彼との仕事を後悔しているのだ。

しかし、ペネロペ・クルスのように、「常識的に考えて、はっきりとしていない物事があるなら、憶測でさわぐ前にしっかりと再調査するべきでは?誰が彼の映画に出るとか出ないとか、そんなことをしていても状況は何も変わらない」という人々もでてきている。*6

ここにきてまた注目をあびているウディ・アレンの虐待疑惑問題。何を信じ、どう行動すべきなのか、#MeTooのあり方が問われている。

*1
http://www.indiewire.com/2018/01/a-rainy-day-in-new-york-release-woody-allen-1201922308/

*2
http://mosesfarrow.blogspot.com/2018/05/a-son-speaks-out-by-moses-farrow.html

*3
https://www.nytimes.com/2018/05/24/arts/moses-farrow-woody-allen-dylan-abuse.html

*4
https://www.theguardian.com/film/2018/jun/04/woody-allen-dylan-farrow-metoo-movement-poster-boy

*5
https://deadline.com/2018/06/dylan-farrow-woody-allens-comments-on-metoo-a-calculated-pr-strategy-1202405270/

*6
https://www.vanityfair.com/hollywood/2018/06/penelope-cruz-woody-allen-dylan-farrow-javier-bardem

北島さつき
World News&制作部。
大学卒業後、英国の大学院でFilm Studies修了。現在はアート系の映像作品に関わりながら、映画・映像の可能性を模索中。映画はロマン。


5 Comments
  1. このようなことで、毎年優れたオリジナル脚本を書き一定水準以上の映画を作り続けてきた映画作家を葬るのは、本当に残念だと思います。ウディがこの話をネタにブラックコメディを作ったら、面白いのになあ。

    • コメントありがとうございます。記事をお読みいただきとても嬉しいです。ウディの件に関しては、何を信じていいのかわからないこの状況にもどかしさを感じています。過失が明らかなケースに対しては、はっきりとした態度を示すことも大切だと考えますが、真相が明らかでないケースまでも安易に断罪するのはまた問題だと思います。もし冤罪であるならば、大変なことです。#MeTooが重要な運動であるからこそ、今後のためにも、一つ一つのケースに対して慎重に向き合っていかなくてはならないと感じました。

  2. 確かに慎重さと、それから冷静さが大切だと思います。私はウディの無実を信じています。そもそも、この件が理由でウディとミアが別れることになった、というのなら本当かなあ、と思いますよ。でも、ウディとミアが別れることになり、その親権争いの過程でこの話が浮上したというのは、ミアにとって都合が良すぎると思います。それに小児性愛って、継続性があったり、複数の被害者が出たりするのが普通ではないでしょうか。(専門家ではないのでよくわかりませんが)とにかく、赤狩りの再来のようなことにはなってほしくない、と願うばかりです。

    • お返事ありがとうございます。たしかにこの件は、親権争いという特殊な状況下で起こったことや、関係者の証言が著しく異なることを考えると、安易に他のケースと同様に扱うことはできないと思います。赤狩りのようになってしまっては、#MeTooのためにもならないので、冷静に考えていきたいと思います。また新たな動きがあればレポートしたいと思います。また、よろしくお願いいたします。

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