今月21日、フランスでアブデラティフ・ケシシュの新作『Mektoub, My Love:Canto Uno』(2017)が公開された。今作は監督にとって、『アデル、ブルーは熱い色』(La Vie d’Adèle:Chapitres 1 et 2, 2013)以来の作品であり、長編第六作目にあたる。昨年のヴェネツィア国際映画祭に出品されることが決まった際には、資金難のために『アデル』で受賞したパルムドールのトロフィーを売却したことでも話題となった(詳しくは「[522]資金難乗り越え、アブデラティフ・ケシシュ監督作品がヴェネチア国際映画祭出品」を参照されたい)。

 

 物語の筋立てはこうだ。1994年8月、パリ在住の若手脚本家アミンは故郷の南フランスを訪れた。そこで彼は両親や旧友に再会する。海岸やバー、両親が営むチュニジア料理のレストランで日々を過ごすなか、アミンはジャスミンという女性に出会い、二人は恋に落ちる。そんななか、アミンはまた別の女性に好意を持たれるが、それは彼が初めて手がける映画に出資をしてくれるプロデューサーの妻だった。決断を迫られたアミンが選ぶものとは……[*1]。

 

 原作はフランソワ・ベゴドーによる『La Blessure, la vrai』(2011)。監督は語る。「この作品が大好きだったのです。物語の語り手は主人公のフランソワですが、彼は間違いなく19世紀文学の影響を受けています。バルザックやスタンダールの物語におけるロマンティックなヒーローといったところがあるのです。この小説の設定は1986年頃で、私の記憶が正しければ[描かれているのは]思春期までですが[……]彼の運命を想像してみようという気にさせられるのです」

 原作との違いとしては、大きく三つあるようだ。まず、物語の場所が「田舎」から「南仏」へ移されたこと。二つ目は、時代設定についてで、「1986年」から「1994年8月」になっていること。最後は、主人公に関わることで、「15歳のレーニン主義者[フランソワ]」から「バカンスで故郷に戻ってきている陽気な大学生[アミン]」になっていることだ。「2020〜2022年に設定された、ロボットと人間のロマンスについてのSF映画作品を構想中」だというアミンは「タイプライターを使い、VHSでサイレント映画を観て、フィルムで写真を撮る」。こうした「アナログ時代」を描いていることに対してSight&Soundの記者はこう指摘する。「ケシシュの関心は、科学技術の発展していない時代に人々はどのように他者と付き合ってきたのかということだ」[*2]。そして監督は、そのような時代における人と人との関わりを約三時間という長さをもって描いた。

 

 しかし驚くべきは、この作品が「同じ登場人物の大きな物語」を形作る三部作の第1作目として制作されたということだ。そのことについてフィガロ紙は「ケシシュによる人間喜劇」と書いている。すでに第二部は撮影も終了し、編集段階に入っているようだ[*3]。

 

 さて、昨年のヴェネツィア国際映画祭で上映があってから話題となっているのが「女性の描き方」に関する問題である。「男性視点」で描かれ、監督や男性登場人物が女性を性的対象としてしか見ていないことが批判対象となっているようである[*4]。これは、前作『アデル』においても様々な意見が交わされたことだ。ではケシシュは「女性を描く」ことに対してどのように考えているのだろうか。監督になされたインタビューを紹介してこの記事を終えたい。「正直なところ、女性の身体を撮影するときに、誰もが暴力的な行為をしたことがないとは思っていません。[しかし]私の起用する女優は完全に合意しており、彼女たちと撮影する計画は正当化されています。欲望を描く映画において、私はそれをむしろ彼女たちの美しさへの賛辞としてみています。ダンスをする一人の女性に心を動かされるのです。それは素晴らしく、活気に満ちた、エロティックなもので、身体からもたらされると同時に、身体を超えていく。それこそがオルガスムです。私はまた、制作に携わる芸術家は男性でも女性でもなく、無性であると思っています」[*5]

 

 

[引用] [*1] http://cineuropa.org/f.aspx?t=film&did=332175&l=fr

及び、http://www.imdb.com/title/tt6121444/

[*2]http://www.bfi.org.uk/news-opinion/sight-sound-magazine/reviews-recommendations/mektoub-my-love-canto-uno-abdellatif-kechiche-deep-pleasure-plunge

[*3]http://www.lefigaro.fr/cinema/2018/03/20/03002-20180320ARTFIG00268–mektoub-my-love-d-abdellatif-kechiche-un-film-solaire-o-le-desir-est-roi.php

[*4]http://www.indiewire.com/2017/09/mektoub-my-love-reviews-male-gaze-abdellatif-kechiche-1201873810/

[*5]http://www.lemonde.fr/cinema/article/2018/03/20/abdellatif-kechiche-un-artiste-qui-cree-n-est-ni-homme-ni-femme_5273412_3476.html

 

 

原田麻衣

IndieTokyo関西支部長。

京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程在籍。研究対象はフランソワ・トリュフォー。

フットワークの軽さがウリ。時間を見つけては映画館へ、美術館へ、と外に出るタイプのインドア派。


コメントを残す