フランス映画を取り巻く状況は厳しい。フランス映画が最も注目を集めたヌーヴェル・ヴァーグの時代が終わって以来、フランス国外で上映される作品は減る一方だ。たとえば、フランスからアメリカに輸出され、字幕付きで上映される映画は往年に比べると著しく少ない。そんなフランスの映画界がいま別の方面で脚光を浴びている。それがフランス資本が入り、他国の監督たちの手によって作られた作品たちだ。今回の記事では、ワールドシネマの主要な一角を担うフランスの制作者に光を当てたい。

 その代表的な一人と目されるのが、CGシネマ社の代表・プロデューサーのシャルル・ジリベールだ。彼は、グザィエ・ドランの『わたしはロランス』、ガス・ヴァン・サントの『パラノイド・パーク』、オリヴィエ・アサイヤスの『夏時間の庭』といった国際的評価を得た作品の制作を務めている。特に、現在開催中のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されたアサイヤスの『Personal Shopper』では国を超えた資金獲得を行い、注目を集めている。

シャルル・ジリベール ジリベールはこの映画の制作について以下のように語る。「俳優の存在は映画産業を成り立たせる上でとても重要だ。僕は主演のクリステン・ステュワートと『オン・ザ・ロード』の制作で出会い、アサイヤスに彼女を紹介した。こうしたつながりがアメリカとヨーロッパの映画をつなぐと思っている。僕たちの仕事はこうやって国の間に橋を架け、国際的に活躍できる人材を見つけること。ヨーロッパの映画人たちは、ハリウッドとどう人材を結びつけていくかを考えないといけない。そうやっていけば映画界も変わっていくと思うね」。

 彼は、フランス国立映画学校を卒業後、まだ長編デビュー前のデニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督に自ら出資し、トルコでの撮影を支援している。彼の支援が実を結び、エルギュヴェンのデビュー作『裸足の季節』(6月日本公開、同作は昨年のWorld Newsでも紹介、参照:[271] 現代トルコのジェームズ・ディーン的ヒロインたち、セクシュアリゼーションを超えて)は、昨年のカンヌ国際映画祭監督週間で絶賛された。

 ジリベールのようにフランス資本をバックに、海外に出資するプロデューサーとしてドニ・フロイドやアレクサンドル・マレ=ギィ、シルヴィー・ピアラらが挙げられる。フロイドはダルデンヌ兄弟やケン・ローチの作品を、ピアラは昨年日本でも公開された『禁じられた歌声』の制作を務める。また、フランスのShellac Sud社は、ミゲル・ゴメス監督の最新長編三部作『アラビアン・ナイト』を制作している。

 こうした動きを示すように、今年のカンヌ国際映画祭では、コンペ部門20作品のうち12作品、監督週間に上映される18作品のうち13作品がフランス資本の映画だ。また、カンヌの三つの主要な部門の半分以上をフランス資本制作の映画が占め、フランスの制作体制がワールドシネマに大きな影響を与えていることを裏付けている。

 インディー・ムーヴィーの世界は大きな変化を遂げている。監督だけでなく、制作にも目を向けることで世界の映画の流れもまた違って見えるのではないだろうか。

参照:
1) Cannes 2016: French Producers Plot World Domination

2) Producing Films in France (PDF)

3)Charles Gillibert, producteur nouvelle vague

坂雄史
World News部門担当。慶應義塾大学大学院文学研究科修士課程。学部時代はロバート・ロッセン監督の作品を研究。留学経験はないけれど、ネイティブレベルを目指して日々英語と格闘中。カラオケの十八番はCHAGE and ASKA。


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