2月11日(日本時間12日)、第66回ベルリン国際映画祭(ベルリナーレ)が開幕した。今年は、コーエン兄弟監督、ジョージ・クルーニー主演の『ヘイル、シーザー!』がオープニング作品に選ばれ、ジョシュ・ブローリンなど同作の俳優陣がレッドカーペットに姿を現した。今回のベルリナーレでは、ジェフ・ニコルズの新作『Midnight Special』、ミア・ハンセン=ラヴの『Things to Come』、王兵の『徳昂』などに注目が集まっている。

一般的にベルリナーレは、社会派の作品が多いと言われる。そんなベルリナーレで現在の世界情勢を映す注目すべき発言が飛び出した。今回の記事では、これからの映画の制作にも影響を及ぼすであろうこれらの発言を紹介したい。

まず、ひとつめは10日の記者会見で審査委員長のメリル・ストリープが行った発言。彼女は、エジプトの記者から中東の映画に関する見解を求められた際に、アラブ地域の映画にはあまり詳しくないと前置きした上で「私は様々な文化的背景をもつ人々と仕事をしてきました。それに、人間にはどんな文化にも共通する人間の本質的な部分というものがあるはずです。結局のところ、私たち人類はみんなアフリカから生まれてきたのですから」と答えた。

アカデミー賞にノミネートされた俳優が白人ばかりであったことが問題視される中(参照:[320]アカデミー賞ノミネート作品が発表 しかし・・・)、彼女の発言は多くの批判にさらされている。今回のベルリナーレの審査員もすべて白人であり、アカデミー賞に続いてベルリナーレでも審査における人種の偏りに疑問の声が出ている。こうした意見に対してメリル・ストリープは、審査員の多くに女性が選ばれていることを挙げ、女性が審査の決定権を持つ先進性について説いている。

メリル・ストリープの拙速な回答はいくつかのメディアで批判的に報じられた。アカデミー賞にまつわる反応と合わせ明らかになるのは、これらの映画祭においては人種や性、宗教といった区分に対し、開かれた姿勢が求められるということだ。特に、ベルリナーレのような国際的な映画祭では、より一層マイノリティへの配慮が求められると言えるだろう。
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もうひとつ大きな注目を集めているのが、ジョージ・クルーニーのシリア難民に対する行動だ。彼はドイツのメルケル首相と会談し、ドイツのシリア難民受け入れを支援することを約束した。ジョージ・クルーニーはレバノン出身で弁護士の妻を持ち、シリア問題に関心が深い。また、10日の記者会見で彼はスーダンのダルフール紛争にまつわる映画を撮りたいと考えているが、脚本や制作の難しさからなかなか制作を始めることができないでいることを明かした。

ユダヤ人虐殺やベルリンの壁といった歴史を持つドイツで開催される映画祭は特別な意味を持つ。こうした民族やイデオロギーの対立の歴史を抱えるドイツだからこそ、人種や民族に対しより開かれた映画が求められるのだろう。

そして、このことは何もドイツに限った話ではない。メリル・ストリープの発言やアカデミー賞の審査が問題視される昨今においては、人種や民族に配慮したより開かれた映画の制作や映画祭のあり方が求められていると言えるのではないだろうか。

参考サイト:
[1] George Clooney, Coen Brothers Address Refugee Crisis at Berlin Film Festival

[2] George Clooney, ‘Hail, Caesar!’ Kick Off Berlin Film Festival

[3] George Clooney meets Angela Merkel and backs Germany’s support for refugees

[4] Meryl Streep Said ‘We’re All Africans, Really’ in Response to Diversity Questions at the Berlin Film Festival

[5] Meryl Streep: ‘We’re all Africans really’

[6] 9 Exciting New Films at This Year’s Berlin International Film Festival

坂雄史
World News部門担当。慶應義塾大学大学院文学研究科修士課程。学部時代はロバート・ロッセン監督の作品を研究。留学経験はないけれど、ネイティブレベルを目指して日々英語と格闘中。カラオケの十八番はCHAGE and ASKA。


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