14日、本年度のアカデミー賞(別名オスカー賞)各部門のノミネート作品が発表された。坂本龍一が音楽で参加するレオナルド・ディカプリオ主演の『レヴェナント』が最多12部門でノミネートし、これまで受賞を逃し続けてきたディカプリオが初の栄冠に輝くかどうか、あるいはアレハンドロ・イニャリトゥ監督の二年連続の作品賞獲得となるかどうかなどが今年のラインナップの焦点となっている。こうした中、アカデミー賞の選考基準が「多様性を欠落」していると大きな非難の声があがっている。

 ビバリーヒルズを本拠とする「映画芸術科学アカデミー」の代表をつとめるチェリル・アイザック氏(写真女性)は、本年度のアカデミー賞のノミネート作品の発表が行われた後、ノミネートされた監督と俳優陣が「白人のみ」である事実に対して意義を申し立てた。ハリウッドの記事を多く掲載するメディアへの取材で発言した。

「今年のノミネート作品を誹謗するものではない」と断った上で、自身も選考委員であるアカデミー賞のノミネート作品群に対して「多様性の欠如という結果について当然ながら失望している」と落胆をあらわにした。(※1 Deadline誌より)

 実はこれは今年始まった問題ではない。昨年のノミネート作品のラインナップに対しても、白人至上主義に傾いているとして異議の声が上がり、Twitter上で「♯OscarsSoWhite」(※2)というハッシュタグが出現した。このハッシュタグが今年も再燃。タグを創始したエイプリル・レイン氏は14日CNNテレビに出演して「これはすべての “隅に追いやられた” 人々についての問題です」(“It’s about all marginalized community”)と話、問題の本質が根深いものであると訴えた(※3)。

 とりわけ今年問題視されているのは、今年の作品賞、監督賞、主演男優賞のいずれにも 「Straight outta Compton」(ゲイリー・グレイ監督)がノミネートされなかったことだ。この映画は現在日本でも公開されているヒップホップのN.W.Aのドキュメンタリーで、配給会社のHPなど(※4)によると、公開初週の全米興行収入が一位で「社会現象」化しただけでなく、音楽伝記映画の興行収入で歴代一位を争う成功ぶりだという。この作品が選出されなかったことが、自然な選考基準ではないという批判の声を大きくしている。本作の製作にも携わっているラッパーのアイス・キューブは「これがアカデミーのやり方だ」(※5)とテレビ等に出演し、非難した。
 ただ、2014年の第86回アカデミー賞の作品賞には、19世紀のルイジアナ州で、奴隷体験を描いた自伝を原作とする『それでも世が明ける』(スティーブ・マックイーン監督)が選出されていて、問題は昨年以降の選考体制の変化によるものだとする声もある。

 今年のアカデミー賞ノミネート作品の発表については、長編アニメーション部門に「思い出のマーニー」が選出されたことで日本でも多数のメディアが報じていた。また、長編ドキュメンタリー部門では国内でも話題を呼んだ『アクト・オブ・キリング』のジョシュア・オッペンハイマー監督の新作『ルック・オブ・サイレンス』(既に日本での公開は終了)や2013年から14年にかけてのウクライナの争乱と革命を描いたドキュメンタリーがノミネートされている。
 「所詮業界の出来レースだから・・・」と割り切る人もいるだろうが、どうやらアメリカでは単にポリティカル・コレクトネスの問題にとどまらず、問題の受け取られ方が深刻化しているようだ。受賞作品が発表されるのは2月28日。

※ 1 http://deadline.com/…/oscar-nominations-2016-diversity…/
※ 2 https://twitter.com/hashtag/OscarsSoWhite?src=hash
※3 https://twitter.com/CNNTonight/status/687841811092652032
※4 http://soc-movie.jp
※5 http://www.billboard.com/…/ice-cube-straight-outta…

井上二郎
「映画批評MIRAGE」という雑誌をやっていました(休止中)。文化と政治の関わりについて(おもに自宅で)考察しています。趣味は焚き火。


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