[268]グループで映画制作をするということ―ベルリン派の監督たちから


[#268]グループで[映画制作をするということ―ベルリン派の監督たちから

先週から日本でも新作『あの日のように抱きしめて』が公開されているクリスティアン・ペッツォルト監督の作品には、ほぼ毎回女優のニーナ・ホスが起用されている。同様に、所謂「ベルリン派」と呼ばれる監督たちの映画群では、かつてファスビンダーが行ったような、グループでの映画制作が行われていることが多い。こういった制作環境がなぜ起こり、ドイツ映画界にどういった意味をもたらしているのか、ペッツォルトのインタビューから読み解いていきたい。

ニーナ・ホスはこれまでペッツォルトの映画『イェラ』、『イェリコー』、『東ベルリンから来た女』で主演を務めた。同様に、『治安』や『イェラ』での演技が記憶に残るバーバラ・オイアーも、ペッツォルトが今夏に監督したテレビ映画”Polizeiruf 110”シリーズの”Kreise”に出演している。(ちなみに、”Polizeiruf 110”とは、東ドイツ時代から続く刑事もののシリーズで、先日紹介したヴォルフ・グレムも監督を務めた西の“Tatort”と双頭と評されるご長寿番組であり、数々の有名監督たちが手掛けている。)(*1)
このように、ベルリンで活躍している監督たちは多くの場合、チームで仕事をすることを好む。その関係は映画内だけにとどまらず、プライベートでも親交を深めるというのが定石だ。
―この傾向は学生時代からはじまった。
 この傾向は学生時代からすでに始まっていた。先日こちらの記事でも紹介したドイツ映画界の旗手を育てる名門校、ドイツ映画テレビアカデミーベルリン(dffb)について、ペッツォルトは以下のように語っている。
「dffbは自由でいられる場所だった。うまく言うことができないんだけど、なんというか、国家が自由を創り出している場所というか…」映画学校の生徒として、彼らは音声、編集、カメラ、演技法など映画に関するすべてのことを一通り学んだ。卒業後、彼は「調和できる仲間」を探し集めることに熱中していた挑戦の場だったとも言っている。 「この学生時代のグル―プでの映画制作経験から、私は初めて映画を撮るということを学び、映画監督としてのキャリアが始まった」とペッツォルトは語る。
加えてプロデューサーとして、フロリアン・ケルナーとマイケル・ウェーバーが学生時代のペッツォルトに協力した。「この制作経験から、私たちは自分たちなりの機能というか、メソッドを生み出した」とペッツォルトは語る。彼らの制作方法はどこまでもDIYなのだ。それゆえペッツォルトは、メンバーがチームに対して忠誠を誓うという関係よりも、「成熟したチームは常に上を目指す」という信条の基、互いに高めあいながら行動することを望むのだ。学生時代に、彼はのちにチームの一員となる役者たちとも出会い、映画を共に制作している。
「映画の終わりに、登場人物が話の内容とは全然別の道を選ぶことがあるかもしれないという話になった。そういうことを僕たちは試しているのさ。」(*2)
 ちなみに、ペッツォルト、アルスラン、シャネレックはdffbの同級生であり、なんとあのファロッキに師事していた。そんなアルスランもペッツォルトと同様、同じ俳優を何度も用いて映画制作をすることを好む。
 時代をさかのぼってみれば、ニュー・ジャーマン・シネマの監督たちも俳優たちとグループで働き、時にはそのグループ内で結婚するなど、プライベートと仕事の境のない生活をおくるものが多かった。ニュー・ジャーマン・シネマの監督たちにならい、彼ら自身の映画時代を構成することを目指したベルリン派の監督たちも、そういったスタイルを踏襲しているのかもしれない。
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(*3)(2014年度ベルリナーレにて。「ベルリン派」関連書籍出版記念パネルディスカッションでのシャネレクとアルスラン)
 余談だか、筆者は2014年のベルリン国際映画祭で、ペッツォルトが同級生であるベルリン派の監督たちのことを同世代のドイツ映画を担う仲間として語っているのに対し、シャネレックとアルスランがベルリン派の監督たちは大切な友人であり、脚本を見せあったりすることはあるが、「ベルリン派」としての特定の強固な仲間意識を持つことはあまりないと話しているのを聞いた。

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(*3)(2014年度ベルリナーレにて。「ベルリン派」について語るベンヤミン・ハイゼンベルクとウルリヒ・ケーラー)

 加えて、dffb出身ではないがベルリン派と評されるクリストフ・ホッフホイズラーとベンヤミン・ハイゼンベルクは、自身にベルリン派というラベルがつけられることに困惑の色を示し、商業的にも成功しているペッツォルトだけがベルリン派という冠の恩恵を受けているのでは、と冗談めかしていたことが記憶に残っている。

 「自分の」グループ内で共同制作をすることの多い彼らだが、あくまでそれは「自分の」テリトリー内に収まり、シュミッドとファスビンダーのような監督同士の密な関係、グループを越境しての交流はあまり盛んではないのかもしれない。

(*1)ドイツ文化放送(ラジオ局)HP ペッツォルトインタビュー ”Polizeiruf 110″編
(*2) ドイツ文化放送(ラジオ局) ペッツォルトインタビュー 役者起用編
(*3)ベルリナーレ アーカイヴ

藤原理子
World News 部門担当。上智大学外国語学部ドイツ語学科4年、研究分野はクリストフ・シュリンゲンズィーフのインスタレーションなどドイツのメディア・アート。上智大学ヨーロッパ研究所「映像ゼミナール2014」企画運営。ファスビンダーの『マルタ』のような結婚生活をおくることを日々夢見ております。


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