[260]ニュー・ジャーマン・シネマの旗手、逝去す。

 去る7月14日、ドイツ映画界の巨匠であるヴォルフ・グレムが73歳でこの世を去った。ドイツ映画テレビアカデミーを卒業した彼は、公私ともにパートナーであったプロデューサーのレジーナ・ツィーグラーとともに、ケストナーの『ファビアン』の映画化に成功した。ニュー・ジャーマン・シネマ末期からは、ドイツで何十年もの歴史を誇る人気刑事ドラマ”TATORT”など、何本もの作品を世に送り出すなど、テレビ映画を中心に活躍した。

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 また彼は、ファスビンダーの近しい友人としても知られ、自身もファスビンダー主演のSFサスペンス、『カミカゼ1989』を監督した。これはファスビンダーの遺作となった『ケレル』の撮影中に製作され、グレム自身もお返しとして『ケレル』で水兵のひとりを演じている。(*1)
 ガンに苦しみながら、晩年の彼は闘病記をビデオに残していた。「それでも私は、自分の人生を愛している」余命一年と宣告された闘病中の彼はこう語った。「(私の映画の)観客のみなさんにひとつ忠告をしよう。喜び、希望、笑いのない生活は意味がないよ」(*2)
 ニュー・ジャーマン・シネマの旗手がまたひとりこの世を去ったが、晩年の言葉のとおり、彼は多くのドイツ人に映画を通して生涯喜びや希望、笑いを届け続けていたのかもしれない。

(*1)ファスビンダー財団
(*2)Berlinerkurier.de

藤原理子
World News 部門担当。上智大学外国語学部ドイツ語学科4年、研究分野はクリストフ・シュリンゲンズィーフのインスタレーションなどドイツのメディア・アート。上智大学ヨーロッパ研究所「映像ゼミナール2014」企画運営。ファスビンダーの『マルタ』のような結婚生活をおくることを日々夢見ております。


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