5月14日から25日にかけて、第72回カンヌ国際映画祭が開催された。 昨年の映画祭では、ケイト・ブランシェットや故アニエス・ヴァルダ率いる82人の女性グループが、映画産業における男女格差の是正を求めて抗議したことが話題になった(詳しくはこちら)。今年の映画祭でも引き続き、「女性の権利」に関する問題に注目が集まった [1]。今回のワールドニュースでは、映画祭開催期間中に発足された女性のための新データベース・Primetimeについて紹介する。

 20日カンヌにて、映画産業における女性雇用の推進を目的とした新しいデータベース・Primetimeの発足が発表された[2]。発起人のヴィクトリア・エムスリーは、Primetimeについて「映画・TV産業で働く世界中の女性にスポットをあてるデータベースです」と説明している。

 現在、映画に起用されるキャストの男女比率は2:1から3:1であり[3]、アジア人女性が起用される機会は少ない[4]。このような現状を変革するため、Primetimeでは映画・TV産業でのジェンダー不平等の問題について取り組む。「女性は女性をより多く雇う傾向にあり、これは女性主導のコンテンツがより製作されることにつながります。スクリーン上での会話を変えるには、スクリーンの背後での会話を変える必要があります」とエムスリーは語っている。

 このデータベースは、プリプロダクション、プロダクション、ポストプロダクションでの仕事に従事する女性を対象にしている。女性とは「トランス、インターセックス、シスを含めた全ての女性」のことを意味し、Primetimeは「女性としての抑圧を経験する全ての人々、そして女性としてのアイデンティティを持つ全ての人々」に対して開かれているとエムスリーは述べる。また、業界内の女性に影響を与えてきた偏見を克服するために、会員のプロフィール写真をデータベースに掲載しない方針をとるという。

 Primetimeは、すでにTime’s Up UK、ERA5050、Geena Davis Instituteからの支持を得ている。英国の代理店42ManagementとCasarotto Ramsay&Associatesは顧客に登録を促している。企業スポンサーの協力を得ながら、Primetimeの事業は将来的に拡大していく予定である。

 映画業界で働く女性を対象にしたデータベースは、これまでにも多く作成されている[5]。Primetimeを含めたデータベースが、女性雇用や職場環境に関する問題に対してどのように作用し改善していくのか、今後も関心が寄せられるだろう。 ヴィクトリア・エムスリーはイギリスの女優。短編映画Run it off(2017)で英国インディペンデント映画賞にノミネートされている。他に、The Thory of Everything(2014)やテレビドラマ・シリーズDownton Abbey(2015)、 12 Monkees(2017)等に出演。Time’s up UKやERA 50:50の会員としても活動している[6]。

 

  Primetimeのサイトへのアクセスはこちらから。

 

[1] 例えば、5月19日にはレッドカーペット上でアルゼンチンにおける中絶合法化を訴えるデモが行われた。 詳細は https://www.hollywoodreporter.com/news/cannes-protest-restrictive-abortion-laws-hits-croisette-1211942https://www.elle.com/jp/culture/celebgossip/a27532670/let-it-be-law-cannes-190521/ (日本語)

[2] 本稿は、PrimetimeのHP (https://primetime.network) 及び以下の記事を参考にしている。

https://www.screendaily.com/news/new-database-launches-to-promote-female-film-experts-exclusive/5139719.article

https://www.thewrap.com/new-database-to-hire-women-in-film-launches-at-cannes/

 ・https://womenandhollywood.com/new-database-of-women-working-above-below-the-line-in-film-introduced-at-cannes/  

[3] https://annenberg.usc.edu/sites/default/files/Dr_Stacy_L_Smith-Inequality_in_900_Popular_Films.pdf 

[4] https://www.telegraph.co.uk/culture/tvandradio/11775435/Humans-Gemma-Chan-Youre-more-likely-to-see-an-alien-in-a-Hollywood-film-than-an-Asian-woman.html 

[5] https://womenandhollywood.com/resources/databases/では、映画産業で働く女性のためのデータベースがまとめられている。

[6]  https://www.imdb.com/name/nm4990981/ 

 

伊藤紗瑛
東京出身。現在都内の大学院修士課程でフェミニズムの研究をしています。映画と読書と音楽と散歩と犬が好き。


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