『Contes de juillet』

ギヨーム・ブラックは今夏、二本の新作を発表した。一本はドキュメンタリー映画、もう一本はフィクション映画であるが、それはどちらもパリ郊外のセルジー・ポントワーズにあるレジャー島で撮影された。

はじめに、フランスで8月9日に公開が予定されている『Contes de juillet(7月の物語)』(2017)を紹介したい。この作品は2017年のロカルノ映画祭でコンペティション外部門(Fuori concorso)に選出された作品であり、配給会社レ・フィルム・デュ・ローザンジュのWebサイトによると、あらすじは以下のとおりとなっている[1]。

 

パリとパリ郊外。5人の少女、5人の少年。2つの物語。ある夏の日。

第一話:日曜日の友達

同僚であるミレナとルーシーは、晴れた日曜日を利用してセルジー・ポントワーズのレジャー島へと泳ぎに行く。積極的な監視員との出会いが、彼女たちに芽生えた友情を台無しにする。

第二話:ハンヌと国民祭

7月14日の国民祭が盛り上がる中、ノルウェーの学生であるハンヌは相次いで3人の男性と事件を起こす。愛らしい登場人物たちは、大学都市でと夜を共にする。

 

『Contes de juillet』は、二つの短編に分かれた68分の作品であり、出演者の名前がそのまま役名に使用されている。第一話『日曜日の友達』は、ミレナとルーシーという二人の同僚が人工リゾート地へと泳ぎに行く話である[2]。二人はそこで監視員のジャンに出会い、積極的に追いかけられる羽目になる。ミレナはジャンの猛烈なアプローチに惹かれてしまうのだが、ルーシーはフラストレーションが溜まる一方だった。

第二話『ハンヌと国民祭』は、ノルウェーの留学生であるハンヌの話である。毎年7月14日に行われるフランス共和国成立を祝う国民祭当日、ハンヌが大学都市にある学生寮の部屋で目覚めると、イタリアの留学生アンドレアが彼女のベッドのそばに横になっていることに気付く。アンドレアはハンヌのことが好きだというが、ハンヌはそれを必死で追い払うのだった。

 

L’île au trésor』

すでに今年の7月4日に公開されている『L’île au trésor(宝島)』(2018)は、セルジー・ポントワーズで余暇を愉しむ人々を追ったドキュメンタリーである。こちらも配給会社による紹介文を引用したい。[3]

 

パリ地域のレジャーアイランドで過ごす夏。

ある人々にとっては冒険、ナンパ、掟破りの場所であり、またある人々にとっては安息と気晴らしの場所である。

有料の海水浴場から秘密の洞窟まで。世界の喧騒と共鳴する、子ども時代の王国を探検する。

 

 

1883年に発表されたスティーブンソンによるイギリスの小説『宝島』と同じタイトルが付された97分のこの作品には、海賊的な要素が盛り込まれているという[4]。ブラックのカメラは、思春期のナンパ師たち、懐古趣味の退職者たち、乱暴なダイバーたち、荒々しい監視員たち、タダで侵入する人々、バーベキューをする人々などを映しながら、偶然の出会いにまかせてたえず航海しつづけるのである[4]。

 

 

セルジー・ポントワーズと二本の作品

ブラックはエリック・ロメールへの影響を公言してはばからないが、両作品の舞台となったセルジー・ポントワーズは、エリック・ロメールの『友達の恋人』(1987)においてもまた舞台として使用された場所である[5]。ベルギーのヨーロッパ映画情報サイトであるCineuropaのインタビューに対しブラックは、なぜセルジー・ポントワーズを舞台に映画を制作したのか、そしてこの両作品がどのような関係にあるのかについて語っている。

「私は数年前からこの場所を、どちらかというとドキュメンタリーによって撮影したいと思っていました。子どものころ、しばしばこの場所に遊びに来ていて、それをかなり正確に記憶していました。とりわけ夏に集まる雑多な人々を映し出すには、とても映画映えのするエキサイティングな場所だと思っていました。ワークショップの一環として数週間、芸術学校の若手俳優たちと撮影をする機会を得たのですが、私は物語を作るために、しばしば一つの場所を起点とする必要があり、構想中のこのドキュメンタリーのアイデアを用意していました。しかし、私とこの場所とをより調和させるためには、フィクションを撮影するのがよいアイデアなのではないか、と思いました。そのため、二部作の一面として、まず『Contes de juillet』を撮影し、それから夏に、いわば[『Contes de juillet』の]切り返しとして『L’île au trésor』を撮影しました。」[6]

 

ドキュメンタリーとフィクション

それでは、一体なぜドキュメンタリーとフィクションとを同時に製作したのだろうか。質問者の「それは純粋に芸術的な選択のゆえなのか、それとも資金の制約に関連しているのか」[6]という問いに対し、ブラック監督はこう語っている。

「キャリアプランの考えは諦めました。私は『やさしい人』(2013)を、より大きな制作会社で撮影したのですが、かなり少額の予算で小規模に製作しました。その後、市場と呼ばれるものにより明確にフィットするよう意図された、より大きなフィクション映画を書きました。いくつかの理由から、このプロジェクトは進展しませんでしたが、同時に私は、絶対に撮影をつづける必要性を感じました。そのため、プロジェクトをもう少し控えめに変更せざるを得ませんでした。まず、中編のドキュメンタリー『Le Repos des braves』(2016)を撮影しましたが、私はそこで、現実を撮影することの大いなる喜びに気が付きました。私のフィクションにおいて少しだけ感じていたのは、つねにドキュメンタリーの小さな抜け穴trouéeがある、ということでした。私はドキュメンタリーに熱中しました。いくつか例を挙げると、ヘルツォークやヴァルダ、シュレデールのような、ドキュメンタリーとフィクションとのあいだを行き来する監督につねに敬服しています。私にとってドキュメンタリーとフィクションとは、対立でも、障壁でもありません。両者のあいだには何か循環があるのです。」[6]

 

[1] http://www.filmsdulosange.fr/fr/film/250/contes-de-juilletこの配給会社は、ブラックがその影響を公言するエリック・ロメールとバルベ・シュレデールによって1962年に設立された。

[2]http://www.justfocus.fr/cinema/champs-elysees-2018-contes-de-juillet-de-guillaume-brac-deux-sympathiques-petites-histoires.html

[3] http://www.filmsdulosange.fr/fr/film/249/l-ile-au-tresor

[4] https://www.lemonde.fr/cinema/article/2018/07/04/l-ile-au-tresor-une-petite-babel-a-ciel-ouvert_5325452_3476.html

[5]https://www.lemonde.fr/cinema/article/2018/07/25/contes-de-juillet-les-balades-amoureuses-de-guillaume-brac_5335598_3476.html

[6]http://cineuropa.org/fr/interview/356819/#cm

 

その他参考サイト

http://www.troiscouleurs.fr/cinema/guillaume-brac-les-sentiments-de-lete/

 

板井 仁
大学院で映画を研究しています。辛いものが好きですが、胃腸が弱いです。


コメントを残す