先日、エドワード・ケネディーのスキャンダルを題材とした映画『チャパキディック』(Chappaquiddick )がアメリカで公開され、議論を呼んでいる。ケネディー一族は第35代大統領であるジョン・F・ケネディを初めとして、政界における要職を歴任してきた一族であり、米国におけるロイヤルファミリーとして神話化されてきた。そんなケネディ一家についての作品は、CNNの『アメリカン・ダニナスティー ケネディ一家』シリーズや、Netflixでのジョン・F・ケネディの大統領選挙50周年記念のドキュメンタリーなど、数多く存在する。アメリカ人にとってケネディー一家とは、強烈なノスタルジーを喚起する対象なのである。そんな中、ジョン・カラン監督、テイラー・アレン、アンドリュー・ローガン脚本の『チャパキディック』は、「魅力的」「殉教者」といったケネディー家のイメージと異なった「下品」「酔っぱらい」として悲劇的な最後を迎えることになるエドワード・ケネディーの引き起こした、ある週末の事件に焦点をおいたものである。*1

事件が起きたのは、世界中の話題をさらったニール・アームストロングとバズ・オルドリンが月面に降り立ったのと同じ週、1969年7月のある夜のことであった。その晩彼はマサチューセッツ州チャパキディック島で開かれていたパーティーを不倫相手であり「ボイラー・ルーム・ガールズ」の一人、マリー・ジョー・コペクニとともに抜け出し帰る途中だった。しかし車はダイク橋を渡ろうとした際に転落、エドワード自身は無事だったものの、コペクニは水没した車の中で死亡した。ケネディはそれから10時間近く警察を呼ぶこともせずに放置。翌日になって地元の漁師によって車が発見され、事件が明らかになる。当時エドワード・ケネディは、兄であるロバート・ケネディーがダラスで暗殺されてから6年、もう一人の兄ボビー・ケネディが大統領候補指名選のキャンペーン中に暗殺されてから1年立たない状況の中で、大統領に向けたプレッシャーのかかる時だった。*2 しかし事件によって彼のホワイトハウスへの道は閉ざされることになる。もっともマサチューセッツの支持者たちは彼を許し、2009年に死去するまで彼を議会に送り続ける。「上院の獅子」と呼ばれた彼はオバマ大統領の選挙応援などでも活躍することになる。

アレンとローガンは公的記録に残された資料を用いて「ニュアンスと説得力をもたせ、バランスを重視」し脚本を執筆したという。しかし批判も存在する。その一つは、ケネディーの友人であり、著作権エージェントでもあったエスター・ニューバーグがPeople誌によせたものである。脚本を読んだ彼女はそれが真実に反すると感じた。エスターはロバート・ケネディーの選挙キャンペーンを行ったボイラー・ルーム・ガールズと呼ばれる人々の一人であり、事件当日のハウスパーティーに出席していた。「実際にあの夜、橋の上で何が起こったのかを知っている唯一の人物はテッド(エドワード)とマリーだけなのです」監督のカランはシリウスXMラジオで放送されたVariety紙のPopPoliticsで答えた。「エスターのような人は審問での証言に固執しているのです。しかし私たちはケネディーたち自身の言葉に基づいた調査で映画を描いているのです。」カランはどんな歴史映画においてもそうであるように、内容の是非について議論することは自由であるとする。しかし実際に起きた事実や、エドワードのまわりにいるブレーン集団のボイラー・ルーム・ガールズの下した決断に関しては、議論の余地がないという。
「私はテッドのファンなんです。」とカランはいう。「私の世代では、政治における重要人物の中でも彼が歴史的に正しいことをしたと信じられています。だから私は彼が擁護した多くの法律に賛成しているんです。しかし私は彼の人生の中で見えていなかったエピソードに気づいたのです。」カランは今が物語を語るには良いタイミングだったという。「なぜなら歴史は繰り返すからです。私たちは人々が自分の支持する党の議員を援助し、これらの代表者たちの欠陥に対して完全に盲目になりつつある状況にあるのです。」「私はこうしたことは非常に関連していると思うのです。これは腐敗した権力を大統領選挙の候補者の性格上の問題を覆うために使用するという一つの例だと思うのです。」*3 映画は1970年、事件捜査後のテレビのアーカイブ映像で終わる。「あの男はいいやつだ。俺は彼の味方をする」と若い男は言う。「まだ知らないこともあるでしょうが、私は彼に投票します。」と中年の女性が言う。「お気に入り」に対する盲目的な忠誠に関して言えば、どんなに間違ったことをしてもトランプ大統領にしたがうような支持者ともある意味共通点があります。」とケネディーについての2冊の本を出版しているトーマス・メイヤーは述べる。*1

チャパキディック事件は、リベラル派にとっては忘れたい過去であり共和派にとっては格好の批判の材料であるだけに、映画の受け取られ方は党派の対立を反映しているようだ。2016年のクリントンの大統領選挙の際には熱烈な支持を送った人物でもあり、映画を購入、広告するエンターテイメント・スタジオのバイロン・アレンはこの映画は右か左かというよりも、真ん中をいくものだとする。彼は『チャパキディック』を審美眼のある限られたシネフィルのためではなく、メインストリームの映画として、1600万ドルをかけより多くの人に向けて広告する。映画の広告は主要な媒体であるUSA Todayや、AP、そしてPeopleで掲載された。しかし主演のクラークはリベラルなテレビ局であるHBOのビル・マーによるトーク番組や、MSBNCのレイチェル・マドーの番組から避けられていると不満を述べる。「実際、私たちのお金を受け取らなかったボストンのテレビ局がありました。彼らはアメリカ合衆国憲法修正第1条を忘れたのでしょうか。あなたの主義はわきにおいて、真実はどうなのです?#Metooの被害者の先駆けとも言える、メリー・ジョー・コペクニに敬意を表するべきではないでしょうか?」と脚本のアレンはアカデミー賞でのプレミアで述べた。しかし彼ら自身も、保守系のメディアでの広告を避けている。監督のカレンは保守系の司会者であるショーン・ハニティーとのインタビューを断った。「まさかありえないよ。私は、右派と結託したいわけではない。いずれにしても彼らはこの映画を支持するだろうけど。彼ら自身のプリズムから映画をみてね。」*4

*1
https://www.theguardian.com/film/2018/apr/05/chappaquiddick-film-ted-kennedy-mary-jo-kopechne
*2
https://www.usatoday.com/story/life/2018/04/04/everything-you-should-know-ted-kennedy-mary-jo-kopechne-chappaquiddick/472903002/
*3
http://variety.com/2018/politics/news/poppolitics-john-curran-chappaquiddick-1202747012/

*4
http://www.indiewire.com/2018/04/chappaquiddick-movie-ted-kennedy-jason-clarke-byron-allen-right-wing-press-1201949529/

 

村上 ジロー 

World News担当。国際基督教大学(ICU)在学中。文学や政治学などかじりつつ、主に歴史学を学んでいます。歴史は好きですが、(ちょっと)アプローチを変えて映画についても考えていきたいと思ってます。


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