12日に今年のカンヌ国際映画祭のラインナップが発表された。
昨年話題になった通り、カンヌ国際映画祭は劇場での公開がなされない映画をコンペティションの対象としないこと*1を発表していたが、それに対してNetflixが今年の映画祭から正式に撤退することを表明した。*2
フランスの法律では、劇場公開から36ヶ月を経た作品のみがストリーミングサービスで配信されることが可能になる。Netflxが映画祭のためにやり方を変えることを過信していた、と映画祭のディレクター、ティエリー・フレモーは語っている。
「昨年『オクジャ』『マイヤーウィッツ家の人々』をコンペティション作品に選出した際、Netfilxに対して、彼らのルールを変更し、これらの作品を映画館で公開するよう説得できると信じきっていた。私は生意気で、彼らはそれを拒否した。」
記事によると、その際Netflixは、配信でのリリースと同時にフランスの映画館で一週間未満の劇場公開をするという一時的な許可を得ようとしたが、フランスの法律の問題により許されなかったという。
「我々はAmazonやNetflix、近くはAppleといった、新しく強力なプレイヤーの存在を考慮しなくてはならない。」映画祭が過去に、オリヴィエ・アサイヤスの『カルロス』といったテレビシリーズを上映したことや、2000年より作品のデジタル上映を許可したことにより議論を呼んだことにも留意しながらフレモーは語っている。
「我々はリスキーな映画祭であり、映画についての問題を提起するというイメージを守りたい。そして、我々は毎年その席にいなくてはならない。
AmazonやNetflixといった新たな存在により監督たちは高い予算で映画を作る権利を得ているが、彼らが作っているのはテレビでもなく、もちろん映画でもないハイブリッドだ。シリーズものの黄金時代の現在でさえ、至るところでまだ映画は勝利を得ることができるだろう。映画の歴史とインターネットの歴史は全く異なるものであるはずだ。」*3
別の記事では昨年上映した『オクジャ』についてこう語っている。
「ここにいる多くの人々、ポン・ジュノのファンたちが『オクジャ』を未だ観ることができていない。なぜならそれがNetflixだからだ。」*4

Netflixが出品を予定していたのは、アルフォンソ・キュアロンやポール・グリーングラス、ジェレミー・ソルニエといった著名な監督たちの新作、また長年未完成となっており、Netflixの出資により完成したオーソン・ウェルズの遺作“The Other Side of the Wind”、ウェルズについてのドキュメンタリーである。Netflixのチーフコンタクトオフィサー(コンテンツ展開の責任者)であるテッド・サランドスはVeriety誌のインタビューでこのように語っている。*2
「ティエリーはフランスで劇場での配給がなされる映画のみに資格を与えるとルール変更すると発表したが、それは世界中のどんな映画祭の精神にも逆行しているものだろう。映画祭はそれらが配給されるため、映画が発見されるのを手助けする場だ。
新たなルールのもとでは、過去2年間の間、世界中に100本以上の映画をリリースしてきたように我々の映画を公開することができない。もし映画祭に合わせれば、我々は法のもと、フランスの加入者に3年間その映画を流通させることができない。」
コンペティション外で映画を上映する可能性について、「それはないだろう。コンペティション外に映画を持ち込むことに、いかなる理由もあるとは思えない。暗黙の了解として、新ルールはNetflixに課せられたものだった。これについて、ティエリーははっきり成功したと言えるだろう。」と述べている。
「私たちは映画祭が好きだ。映画作家たち、映画を愛する人々のための時間を愛している。映画祭が、芸術よりそれが配給されるのを祝福することを選んだのは当然ともいえる。私たちは映画の芸術についての100パーセントで、ところで──世界には多くの他の映画祭がある。」
また、今回の件に関して作り手たちと話し合ったのかという問いに対しては、
「私たちはルール変更のあと、数多くの作家たちと話し合いをした。我々がこれらの映画を作り、それを得ようとしていたとき、そのルールはまだ実施されていなかった。それは力の変化だった。」と述べた。
将来的に映画祭側が対応を軟化させる可能性について尋ねられると、
「新たなルールが映画作家、映画ファンにとってどれだけ過酷なものかティエリーが理解したとき、私は彼と映画に対する情熱を分かち合い、変化の一番手であることを約束できるだろう。」と語っている。
最後にサランドスはメッセージを残している。
「我々は彼らが新ルールを変更させることを願っている。彼らが現代的になることを望みます。しかし、我々は映画と全ての映画作家たちへのサポートを続けていき、世界の映画コミュニティが再び団結できるようカンヌに促していく。ルール変更をアナウンスした際にティエリーは、インターネットの歴史とカンヌの歴史は全く違うものであるとコメントした。勿論それらは異なるものだろう。しかし我々は、映画の未来を選んだ。もしカンヌが映画の歴史から抜け出せない道を選ぶなら、それも見事だろう。」

“The Other Side of the Wind”を監修する、スピルバーグ作品などで著名なプロデューサーのフランク・マーシャルは「たとえコンペ外であったとしても、Netflixが映画祭に参加しないとなれば我々は副次的なダメージを受けるでしょう。我々がカンヌに行かないというのは、相互的な決定事項です。彼らなしでは映画はあり得なかった。長年の間、あらゆるスタジオ、あらゆる出資者がこの映画をパスし続けてきた。」と語った。*4
また新作”Hold the Dark”が上映される予定だったソルニエも、IndieWire誌にコメントを寄せている。
「映画祭を沸かせることがあり得たことを思うと、残念に思います。しかし、最終的に映画にとってより良いのは、そのリリースに近くなった今年後半の時期に、映画祭で公開されることでしょう。また、映画の一番最初にでる表層的なクレジットのために野次を入れたい誰かが、それが最初に映画作りを可能にした存在を軽んじているというのが、私が猛烈にNetflixを擁護する理由です。
彼らが思う映画の伝統と、サポートするビジネスモデルを保護しようとするカンヌを尊敬しています。しかし、伝統的な映画の流通の方法ではなく、直接膨大な数の観客と繋がるという新しい道を刻むNetflixを私は尊重しています。結局のところ、それぞれが進化を続けていて、彼ら自身の違いが解決を生むだろうと私は思っています。(中略)
私もいつか興行的な大成功をおさめたい、しかしその時まで私が本当に望む体験とは、映画祭でのプレミアです。私はファンと作品を分かち合い、エネルギーを得ることができる。そして、トップクラスの映画作家たちを惹き付け続けるためには、Netflixは注目を集める映画に対して、より伝統的な映画の戦略をまとめて視野に入れる必要があるでしょう。私は外交官を演じているかのようです。
二つの組織に対して、映画祭の観客と素晴らしい映画をつなげてほしいと強く願っています。それが彼らの義務です。」*4

フレモーは上映作品発表の場でこの件に触れ「コンペティションのどんな映画であれ、映画館で公開されるべきだ。」と映画祭の主張を繰り返した。フランスでの劇場公開がなされる映画のみがパルムドールを競うことができるが、しかし逆に言えばコンペティション以外の枠で映画を上映することは可能だという。
「今年、我々はNetflixにより製作された2本の映画の上映を打診した。1本はコンペ外で、そしてもう1本はコンペ作品として。しかしNetflixはその作品を映画館で流通させることは希望しなかった。ルールに習い、その映画はコンペティションの作品とならなかったし、なりえなかった。映画とは映画館で公開される可能性がなければならない。とても残念だ。」
フレモーは、映画祭がコンペ外で上映することを希望した作品は“The Other Side of the Wind”だと公に明かした。
「ウェルズは生前カンヌの審査員長であり、もちろんパルムドールも獲得している。ここは彼の場所だ。
私は映画を観た、私たちの誰もがこの映画を観たいと願っていた。しかし、Netflixがこの作品の権利を持っていることはアクシデントではない。彼らはそれを完成させたいと思っていた。彼らは映画を知っているし愛しているが、我々は同じポジションにはいないのだ。」
「Netflixはカンヌで歓迎される」とフレモーは続けている。「我々は議論を続けるだろう。」*5

参照
*1http://indietokyo.com/?p=7978
*2http://variety.com/2018/film/news/netflix-cannes-rule-change-ted-sarandos-interview-exclusive-1202750473/
*3https://www.hollywoodreporter.com/news/cannes-artistic-director-banning-netflix-competition-why-he-allowed-streaming-movies-last-year-1096800
*4http://www.indiewire.com/2018/04/netflix-cannes-2018-jeremy-saulnier-orson-welles-1201950130/
*5http://www.indiewire.com/2018/04/cannes-responds-netflix-dropping-out-2018-festival-1201951367/

吉田晴妃
現在大学生。英語と映画は勉強中。映画を観ているときの、未知の場所に行ったような感じが好きです。映画の保存に興味があります。


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