[616]作曲家のトム・ホルケンボルグとヒロインたち:フュリオサ、ワンダーウーマン、ララ・クロフト


2016年のコミコンで、作曲家のトム・ホルケンボルグは悩んでいた。熱狂的なファンのけちをつけるような質問、自己主張の強いシネフィルの自惚れた考えによるものではなかった。つまり、特定の分野からの質問や考えが原因ではなかったのである。悪意のない質問が原因となっていた。ホルケンボルグは、第4回Annual Musical Anatomy of a Superhero panel(定例スーパーヒーロー音楽解析の公開討論会)にいたが、ひとりの若いファンがホルケンボルグに、ヒロインのための爽快なテーマ曲を創作してきた長い経歴について質問を投げかけたのである。

長きにわたってヒロインのテーマ曲を作曲することによって、ホルケンボルグはどのように見られるのか。この人選が、フュリオサの“Brothers In Arms”やワンダーウーマンの “Is She With You?”を作曲したホルケンボルグであることは、少しも驚くべきことではなかった。しかし、理由があり、その人選に驚きが生じてしまったのである。ホルケンボルグは、ヒロインのテーマ曲を作曲することによって自分がどのように見られているのかということから、そのことを考え続けている。

ワンダーウーマンのテーマ曲によって提起される性差別の問題(“Is She With You?”)とは、ワンダーウーマンが登場した際に、バットマンがスーパーマンに尋ねることである。しかし、すぐにホルケンボルグのトラックによってその答えが示される。多くのドラムを伴った、エレクトリックチェロの甲高いコードが鳴り響くのである。「私は誰とも『一緒(with)』ではない。私はここにひとりで立っているのだ」と。

それほど昔ではないが、世界中の人々は、別の名前によってオランダ出身のホルケンボルグを認知していた。彼は、ジャンキーXLとして注目されるようになったのである。そのエレクトリックアーティストは、最近のEDMレーベル下にあるビートを打つような音楽で有名であった。エルヴィス・プレスリーの「おしゃべりはやめて」のリミックスが世界でヒットしてから急激に名を知らしめたのである。大西洋を渡り、ロサンゼルスの地下でファイルを整理し、エレクトリックアーティストとしての人生をやめるまでのことである。

エージェントとマネージャーが驚いたこととは、「おしゃべりはやめて」によって、ジャンキーXLが、ジャンキーXLでありたいと思わなくなったということである。映画音楽の作曲家のトム・ホルケンボルグになりたいと思ったのである。「彼らは、『正気なのか?』というように私を見ていました」とホルケンボルグは述べた。ホルケンボルグは、90年代の後半に、『ブレイド』、『バイオハザード』、『マトリックス』に取り組みながら、映画産業を経験していった(しかし、彼が手掛けたものは、ファイナルカットには使われなかった)。そのような状況を切り抜けるために、努力を惜しまなかった。心の中では芸名を捨て去ったが、そのことは重要ではなかった。ジャンキーXLも、トム・ホルケンボルグも作曲家であることには変わりなかった。新人は、一番下からスタートするのである。有名なオランダのアーティストであっても同様である。

ホルケンボルグにとって、一番下からスタートすることとは、助手をすることであった。作曲家の志望者にとっての初めの一歩である。彼はソロアーティストとして肥大したエゴを抑えることを学んだ。「おしゃべりはやめて」は、24の国のチャートでトップを飾ったが、ホルケンボルグは裏方に留まり、ベテランの作曲家の仕上げを担当した。彼は、すべての仕事の種類を覚える前に、10年を掛けて、多くのサンプルの中に自己を表現した。しかし、徐々に彼のキャリアは軌道に乗っていった。そして、彼は仕事を得るようになった。2014年の『ダイバージェント』、2015年の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』、2016年の『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』、そのほかの数々の作品を手掛けるようになった。

ホルケンボルグの最新のプロジェクトは、アリシア・ビカンダー主演の『トゥームレイダー ファースト・ミッション』である。このプロジェクトは、21世紀に相応しいリブート作品を要求する。「監督とスタジオは、とても現代的なスコアを要求しましたが、オーケストラのテーマ曲があるようなスコアを欲してはいませんでした…(オーケストラのテーマ曲があるようなスコアとは、)監督がヒロイックなシーンを撮った際に、『スター・ウォーズ』や『インディ・ジョーンズ』のように、すぐに識別できるメロディが繰り返されるような音楽です」とホルケンボルグは述べた。初めてクロフトに出会ったとき、彼女はロンドンのストリートの配達人であり、自転車で行ったり来たりしながら、配達物や手紙を運んでいる。「だから、初めてララを見たとき、テーマ曲を奏でてはいません。単なるビートのようなのです…オーケストラで音楽を付けてはいません。彼女はひとりの女性であるのです。90人編成のオーケストラで音楽を付けてはいません。陽気で現代的な音楽を作曲します」とホルケンボルグは話した。

「しかし、それから、映画の終盤で彼女はヒロインになります。60人の集団を救い始め、周囲では爆発が起き、時間内になんとか逃げ出します。そこには、オーケストラがうまくはまります。大規模で、ドラマティックで、エピックだからです」とホルケンボルグは述べた。

作曲の細かい部分を決める際には、ホルケンボルグは、しばしば計算に立ち返る。「ある部分は、論理的進行のように感じます。音楽の進行は、提起される問題への論理的な解答であるように感じます」とホルケンボルグは話した。

「ミックスする方法に立ち戻ります。どのくらい頻度でスペクトラムの一番上の範囲または、一番下の範囲が表されるのか、どのように互いに作用しているのか、どのようにリズムをデザインするのかというようなことです。問題と解答であり、そこには計算が関わっているのです。だから、クロフトのテーマ曲で、最初のテーマ曲のパートでは、基本的に、問題を提起し、第2のテーマ曲のパートでは、その問題の解答を提示します」とホルケンボルグは語った。

ホルケンボルグは、様々な映画に取り組むが、彼によるヒロインのテーマ曲は、一貫して観客に好まれている。リリースから3年ほどになるが、フュリオサのテーマ曲である“Brothers In Arms”は、Spotifyにおいて、2番目に人気の彼によるトラックである。『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』に、ワンダーウーマンのテーマ曲である“Is She With You?”は、2017年の『ワンダーウーマン』の音楽が作曲される上で、大々的にサンプリングされた。

オランダ出身の50歳の白人男性であるホルケンボルグが激しく鳴り響く女性の音楽の作曲を任されているという皮肉は、少し彼には通用しないようである。ホルケンボルグは、作曲家のジェンダーをとにかく問題にするという考えには、懐疑的である。「音楽は、結局のところ、音楽なのです。それこそが肝要なのです。女性は、『ロッキー』のリブートの爽快なスコアのような音楽を書くのにとても適していると思います…どうしてだめなのでしょうか?男性である必要はないのです。おかしなことです。私のアシスタントのひとりは、若くて才能あふれる女性の作曲家です。自分が働いてる建物において、最もアグレッシッブなサウンドは、彼女の部屋で創作されています。男性の部屋ではないのです」とホルケンボルグは話した。

もちろん、ホルケンボルグは、映画音楽の産業には性差別があることを理解している。そして、彼は、若い女性に与える影響を心配している。その産業には、単に女性は作曲ができないと考えている男性が多く存在している。

「18歳の若さの生徒が勉強をしている際に、話をします。(そのクラスには、)たしか30人くらいの生徒がいて、その内のひとりが女性です。だから、その問題はそこから始まっています。多くの女性は懸念しているのです。私が思うに、男性によって支配されているからです。女性がチャンスを得られない映画産業なのです。その女性の何人かは、この職業に蔓延る性差別を我慢するのかどうかに対して迷いが生じます」とホルケンボルグは述べた。

ホルケンボルグは、自分の信念とは、作曲のような高度に専門化されたスキルの教育に帰すると考え、その教育は無償であるべきだと思っている。彼は、世界の名だたる作曲家たちの中で少し信じがたいことを行うと決めた。YouTubeで、高い質の詳細な映像をシリーズとしてアップロードすることである。

ホルケンボルグのYouTubeチャンネルには、“Ask Me Anything”と名づけられた動画(トピックは、「どのように仕事を得るのか」「監督との最初のミーティングはどのようなものであるのか」「健康やストレスとどのように向き合うのか」など)がある。また、“Studio Time”と名づけられた動画(ホルケンボルグの人気のある音楽を徐々に分析する動画)がある。同シリーズ内で、『トゥームレイダー ファースト・ミッション』の音楽を解説する動画(Part1Part2)もアップロードされている。

ホルケンボルグは、自分の動画が作曲を諦めたかもしれないであろう視聴者の情熱の火を燃やすことを望んでいる。「女性の意欲的な作曲家がこの動画を観て、『トムの動画を観たら、うまくいかないことばかりではないよ。ちょっと、挑戦してみるべきだよ』と思ってくれることを望んでいます」とホルケンボルグは語った。

ホルケンボルグは教育の観点から、女性の作曲家の進出を後押ししようとしている。このような個人の活動だけでなく、映画会社が女性の作曲家へのチャンスを広げることを視野に入れた制度を設けていることが最近になって報道された。

2018年3月に、Universal Filmed Entertainment Group(UFEG)のGlobal Talent Development & Inclusion groupは、Universal Film Music Composer Initiative(ユニバーサル映画音楽作曲家イニシアティヴ)を開始することを発表した。このイニシアティヴは、スタジオのプロダクションの過程へと入り込むことを制限されていたり、まったく入り込めないが、成長している初心者の作曲家の才能を伸ばすために設けられた。様々なUniversal Filmed Entertainment Group(UFEG)のレーベルで、毎年割り当てられて雇われる。その作曲家たちは、ユニバーサル・ピクチャーズ、フォーカス・フィーチャーズ、ドリームワークス・アニメーション、Universal 1440 Entertainment、Awesomenessからの映画製作者、重役、そのほかの才能ある人物と仕事をする機会を得られる。

2017年の秋に、Universal Film Music Composer Initiative: DreamWorks Animationのパートナーシップは、ユニバーサルとドリームワークス・アニメーションによって試験的に実施され、成功を収めた。ウィリアム・サラザール監督によるドリームワークス・アニメーションの短編Bird Karmaのために、女性作曲家のノラ・クロール・ローゼンバウムが音楽を書き、レコーディングを行ったのである。クロール・ローゼンバウムは、2015年のグラミー賞で、クラシック部門の最優秀アルバム技術賞(“Ask Your Mama”)を受賞し、ゲーム音楽を作曲し始めた。そのときから、彼女の仕事は、ドキュメントやTVシリーズに拡大していった。

選ばれた作曲家たちは、スタジオセッションを追ったり、クリエイティヴスタジオやプロダクションスタジオの重役と一緒に指導をしながら、スコアリングと製作のプロセスに立ち入る予定となっている。参加するアーティストたちは、作曲に磨きを掛けるために助成金を受け取ることができる。また、オーケストラのスコアリングセッションにおいて自分の仕事を見ることができる。

「ドリームワークス・アニメーション初のパートナーを得て、この革新的なイニシアティヴの開始をとても誇らしく思います。新たな世代の映画音楽の作曲家たちの才能に力を与え、切り開いていくことを思い描いています。過小評価されたアーティストを見つけ出したとき、そこに成果が生まれ、多様性の受け入れ、さらに叫ばれている声の擁護が実現へと向かいます。ノラと仕事を共にすることで、私たちはいつものように利用される作曲家の先を思い描いていくことができました。彼女はユニークさをもたらしてくれたのです。プロジェクトへの新たな視点です」とユニバーサル・ピクチャーズのGlobal Film Music and Publishingの社長のマイク・クノブロッフは述べた。

「短編Bird Karmaへとノラが作曲した音楽は、鋭く、上品で、芸術性やウィリアムのヴィジョンのかすかなトーンを解釈していました。このUniversal Film Musicを経由したプログラムは、ドリームワークスの短編イニシアティヴの開始とぴったり合っていました。同様に、私たちの集団の中に登場するアーティストにも磨きが掛かります。音楽と映画のユニークなコラボレーションを創り上げる2つの革新的なプログラムを合わせることの価値を理解すれば、すべてはうまく収まります」とDreamWorks Animation Film Groupの社長のクリス・デファリアは賞賛した。

「このユニークなイニシアティヴの背後で、参画と認識は、推進力となります。それは慣習的に制限された状況における多様性と女性の才能を狙いとしているのです。最近の研究で、女性の映画音楽の作曲家は、2パーセントにも満たないことが明らかとなりました。ユニバーサルには、世界の多様な観客を反映する才能を育てることにおいて、豊かな歴史があります。この音楽の場所で遺産を構築していくことを楽しみにしています」とGlobal Talent Development & Inclusionの副社長上席者のジェニン・ジョーンズ・クラークは述べた。

ドリームワークス・アニメーションの短編プログラムの選考への応募は、2018年4月15日まで受付予定であるが、100人の適任者の応募があり次第、締め切りとなる。

参考URL:

http://deadline.com/2018/03/universal-inclusion-film-scoring-1202338600/

https://www.hollywoodreporter.com/news/universal-launches-initiative-promote-diversity-composition-1094769

http://www.classicfm.com/discover-music/periods-genres/film-tv/lack-of-female-composers-academy-awards/

https://theoutline.com/post/3732/tom-holkenborg-junkie-xl-composes-themes-for-wonder-woman-tomb-raider-heroines

http://variety.com/2017/film/news/1202613777-1202613777/

http://collider.com/junkie-xl-interview-tomb-raider/

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


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