[545]ハリウッドの大物プロデューサー、セクハラで告発される


ハリウッドが未曾有の性スキャンダルに揺れている。自身もアカデミー賞を受けたことのある米映画産業の重鎮ハーヴェイ・ワインスタイン氏が、その輝かしいキャリアに汚泥を塗りかねない事態に陥っているのだ。

ハーヴェイ・ワインスタインという名を知らなくとも、『パルプ・フィクション』、『イングリッシュ・ペイシェント』、『恋に落ちたシェイクスピア』、『ギャング・オブ・ニューヨーク』、『シカゴ』、『ロード・オブ・ザ・リング』三部作、『シン・シティ』、『アーティスト』、『ジャンゴ繋がれざる者』、『世界にひとつのプレイブック』といったタイトルを耳にしたことはあるはずだ。これらの作品はすべてハーヴェイ・ワインスタイン氏のプロデュースによるものである。氏は40年以上にわたってハリウッドの一時代を支え、常に第一線で活躍し続けてきた。

ハーヴェイ氏が弟のボブと共に、両親の名を冠して79年に設立したミラマックス社は2005年までに配給作品で249個ものアカデミー賞を獲得した。授賞式で名を聞かない年のないオスカーの顔であった。その後、兄弟は05年に同社を退き、タランティーノやロドリゲスといったミラマックス育ちの監督たちをしたがえてワインスタイン・カンパニーを立ち上げ、『ヘイトフル・エイト』、『LION/ライオン~25年目のただいま』といった話題作を輩出し続けている。

そのハーヴェイ氏に対し、30年間にわたる数々のセクハラ事件の加害者だとして、実名、匿名合わせ9人の女性たちが氏から受けた被害の実態を明らかにしたのである。

氏の行状が明るみに出たのは、米国時間5日にNYタイムズが報じた「告発記事」が発端だ。女優のアシュレイ・ジャッドさんが、2年前に相手の名を明かさずに告白した「セクハラ事件」について、「相手はハーヴェイ・ワインスタインだった」とはっきり実名を挙げたのである。事件は映画『コレクター(1997)』の撮影中に起こったという。「今後の出演作について話し合うため」に「氏の滞在するホテルに呼び出された」アシュレイさんの警戒心は、「呼び出されたのが氏の部屋であった」ことが分かるとゼロから一気に跳ね上がった。バスローブ姿で出迎えた氏は、アシュレイさんにこんな「お願い」を突きつける。「マッサージをさせてくれないか?」、「でなければ、自分がシャワーを浴びる様子を見ていてほしい」。異様な状況を悟ったアシュレイさんは「どうしたら彼の機嫌を損ねずにこの場を立ち去ることができるのか」と絶望に駆られたという。氏の「お願い」を拒否したアシュレイさんに、ミラマックス社からその後、声がかかることはなかった。

NYタイムズ紙はアシュレイさんを皮切りに、氏のアシスタントや社の従業員として働いていた女性たちが「同様の手口でセクハラを受けた」ことを伝えている。ホテルに呼び出され、裸で現れた氏に性的なサービスを要求されるというパターンだ。被害女性の多くは20代で、映画産業で働くことを夢見ていた。そんな彼女たちに氏は、時に特別な待遇をちらつかせ、欲望を遂げてきたのである。受け入れることも断ることもできず泣き出す女性もあったという。こうした事件はすべて「10万ドル」やらなにがしかの金銭によって表沙汰にされることはなかった。過去30年の間に少なくとも8人の女性と「解決のための取引」があったことを裏づける電子メールや内部文書が、ミラマックス、ワインスタイン・カンパニーの両社から見つかっており、幹部2名が匿名でそれが事実であることを認めているという。

この報道に対し、ハーヴェイ氏の弁護士チャールズ・ハーダー氏は、「NYタイムズ紙はハーヴェイ・ワインスタインに関する虚偽と名誉毀損に満ちた話をでっち上げた。9人の証言は、盗まれた従業員の個人データから作り上げられたものであり、うわさと誤謬でしかない。私たちは、NYタイムズ紙にすべて間違いであることを証明する証拠を送ったが、NYタイムズ紙はそれらを無視して記事の掲載に踏み切った。我々は今、NYタイムズ紙を訴えるべく準備をしている」と声明を出した。

ハーヴェイ氏は、同日午後のNYタイムズ紙にこうコメントしている。「60年代や70年代の働き方や職場での意識は今とは違いました。当時はそれが常識だったのです。ただ、『常識だったから』を言い訳にするつもりはありません。私の過去の同僚に対する振る舞いが相手を非常に不快にさせるものであったことを認めます。心からお詫びしたい。時間はかかると分かってはいますが、状況が改善されるように努めていきます」。また、「この問題と向き合うため、長期休暇を取りセラピストと過ごします」とつけ加えた。

昨年、ジェンダーと権力のパワーバランスについてハーヴェイ氏に助言をした弁護士のリサ・ブルームさんは、彼のことを「新しい方法を学ぶ大昔の恐竜」と呼び、「映画産業において、あなたのようなメジャースタジオのトップとその他の人々では力の差が歴然としている。彼らは、あなたのほうで特に意味するつもりはなかったにしても、あなたの言葉や行動を脅迫とすら感じることがある」という話をしたと述べている。

ハーヴェイ氏のもとで働くローレン・オコナーさんは2年の間、彼女が見聞きしてきた被害女性の証言をメモに残してきた。その言葉の一つにこのようなものがある。「私は自分で生計を立て、キャリアを築こうとしている28歳のただの女性。ワインスタインは64歳の世界的に有名な人物だし、ここは彼の会社。パワーバランスは、私がゼロで彼が10よ」。オコナーさんに限らず、アシスタントから幹部に至るまで、多くの従業員たちがハーヴェイ氏の不適切な振る舞いについては知っていたという。しかし面と向かって彼にそのことを指摘したのはほんの一握りの人間だけだった。女性たちの声に耳を傾けてきたオコナーさんですら、最終的にハーヴェイ氏と「和解」し、彼が彼女に与えたキャリアチャンスに対して「感謝」までしたのだ。このことは、オコナーさんを苦しめた。オコナーさんは弁護士を通じ、インタビューは受けないことを伝えた上で、心情を吐露している。「私はまだキャリアを始めたばかり。話すことは怖いこと。でも、黙っていることも大きな苦痛なの」。

なぜ今になってホテルでの出来事を明かしたのかという問いに、アシュレイさんは答える。「これまでずっと女性たちはハーヴェイに何をされたのか、仲間内で慰め合うしかなかった。やっと声を上げていいんだと思える時が来たっていうことなのよ」。

被害に遭ったとされる女性たちのうち、少なくとも8人はキャリアをつぶされるのではないか、業界から抹殺されるのではという恐怖から、8~15万ドル(約900万~1,700万円)を受け取って黙らざるを得なかった。この「ワインスタイン協定」については誰にも何も言わないことが条件だったからだ。顧問弁護士のチャールズ・ハーダー氏は「長期におよびかつ費用のかさむ訴訟を避けるために和解をするのは珍しいことではない。和解はそういった事実があったことを認める証拠にはならない」という見解を述べている。

セクハラやパワハラに対する意識が高まっている今、キャリアのためならと理不尽な要求を耐え忍びのんできた女性たちは、「人としての尊厳を傷つけられても黙っていることは、私の人生にはプラスにならない」ということに気づいている。脅しをちらつかせて金を払えば黙るだろうと高をくくった旧態依然とした考え方はもはや通じない。長期休暇という隠れ蓑で表舞台から退いたかたちのハーヴェイ氏だが、それで事は収まらないだろう。ワインスタイン・カンパニーが会社としてどういう見解を出し、どのように対処するのか。対応を間違えれば社の評判は地に落ちることは必至だ。スポンサーもそっぽを向くだろう。映画づくりどころではなくなる。ハーヴェイ氏の処遇も含め、ジェンダーというデリケートな問題にワインスタイン・カンパニー社がつけるおとしまえを、米映画産業界は固唾を飲んで見守っているに違いない。

《参照・画像使用サイトURL》
https://www.nytimes.com/2017/10/05/us/harvey-weinstein-harassment-allegations.html
https://www.theguardian.com/film/2017/oct/05/harvey-weinstein-sexual-harassment-allegations
http://variety.com/2015/film/news/ashley-judd-sexual-harassment-studio-mogul-shower-1201610666/
http://www.businessinsider.com/ashley-judd-says-she-was-sexually-harassed-by-studio-mogul-2015-10

小島ともみ
80%ぐらいが映画で、10%はミステリ小説、あとの10%はUKロックでできています。ホラー・スプラッター・スラッシャー映画大好きですが、お化け屋敷は入れません。


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