ジョエル&イーサン・コーエン兄弟による新作は、彼らにとって『トゥルー・グリット』(2010)以来となる西部劇になるようだ。それも、Netflixで放映されるテレビ用ミニシリーズとなる。

 タイトルは、『The Ballad Of Buster Scruggs』で、コーエン兄弟が監督・脚本、そして製作をつとめる。(ポール・トーマス・アンダーソンやリチャード・リンクレイターら作家性の強い監督作品をヒットさせ業界の風雲児となった)ミーガン・エリソン率いるアンナプルナ・ピクチャーズのテレビ部門が共同製作し、ティム・ブレイク・ネルソンがタイトルロールであるバスター・スクラッグスを演じる。他に、ジェームズ・フランコ、ゾーイ・カザンらが出演する予定だ。(#1)ピーター・フォンダが出演するという報道もある。(#2)

 Netflixは、以下のようなコメントを出している。(#3)
「この作品は西部劇アンソロジーで、アメリカのフロンティアに関する6つの物語が語られる。ユニークで比類のないジョエル&イーサン・コーエン兄弟によるものだ。それぞれのチャプターはアメリカ西部についての独立した物語を語るだろう。」

 一方、カンヌ国際映画祭など大きな映画祭で数多くの賞を受賞してきた経歴を持つコーエン兄弟は、Netflixでの放映決定について以下のようにコメントしている。(Netflixは今年のカンヌ国際映画祭で出品作の劇場上映を巡って揉めた経緯がある。)(#4)
「我々はストリーミングのマザーファッカーだ!」

 6つのチャプターは長編映画にも匹敵する物語を語るものになるとのことで、それぞれ「The Ballad Of Buster Scruggs」「Near Algodones」「Meal Ticket」「All Gold Canyon」「The Gal Who Got Rattled」「The Mortal Remains」という仮題が付けられている(#5)。「歌うカウボーイの物語(The Ballad Of Buster Scruggs)」「弱った犬を連れて銀行強盗する荒野の流れ者の物語(Near Algodones)」「見世物を巡業する一座の俳優と興行主の物語(Meal Ticket)」「金を掘り当てた採掘者が邪悪な侵入者に狙われる物語(All Gold Canyon)」「オレゴン・トレイルでの男女の恋の駆け引きを描いた物語(The Gal Who Got Rattled)」「謎の目的地へと向かう駅馬車の5人の個性的な乗客を描いた物語(The Mortal Remains)」が描かれるとのことだ。

 一方、他にも『キングスマン』や『キック・アス』など映画作品を生み出したコミック出版社Millarworldを買収したり(#6)、批評家たちから高く評価された『ストレンジャー・シングス』シーズン2の放映開始が10月27日に決定したと報じられる(#7)など、相変わらず多くの話題を振りまき続けるNetflixだが、しかし必ずしもポジティブな話題ばかりではない。実は、Netflix社が桁外れの負債を抱えているという報道があったのだ。

 LAタイムズによると、Netflix社はそのユニークで娯楽性と作家性を兼ね備えたオリジナルコンテンツを製作するため、現在なんと205億ドル(およそ2兆2000億円!)もの借金を作っているとのことだ。(#8)さらに、コーエン兄弟の西部劇を含む2017年のオリジナルドラマ製作のため、さらに60億ドル(およそ6500億円!)もの追加出資を行うとのことである。

 ただし、この負債の額に関しては実体を正確に反映したものではないとしてNetflix側から反論があった。彼ら自身は負債の額が48億ドル(およそ5200億円)だと主張している。(#9)また、2016年だけで契約者数が25%増加し、昨月にも株価最高値を更新して、タイム・ワーナーやソニー、フォックスを超える時価総額に達したNetflix社は、こうした負債を深く憂慮しているようには見えない。(#10)

 一方で「Netflixバブル」の破綻を危惧する投資専門家も現れ始めている。事実、Netflix社も視聴率が伸びなかったシリーズ『ゲットダウン』や『センス8』などを1シーズンで打ち切るという対策を行っている。(#11)それぞれエピソードごとに『ゲットダウン』は平均1200万ドル(13億円)、『センス8』は平均900万ドル(9.8億円)かかっていたとのことで、これらは最もコストの高いテレビシリーズであった。

 また、独自のストリーミングサービスを2019年に立ち上げるとしてディズニーがその全ての作品をNetflixから引き上げることを決定したことも、彼らにとって大きな打撃となる可能性がある。(#12)『スター・ウォーズ』シリーズや『アベンジャーズ』シリーズなど数多くのドル箱コンテンツを失うことは、間違いなくNetflixにとって好ましいことではないだろう。

 ストリーミングサービスの旗手として、ネットやテレビばかりではなく映画界も大きく揺るがしているNetflixは、この先もまだしばらく賑やかに話題を提供し続けることだろう。

#1
Coen Brothers’ ‘The Ballad Of Buster Scruggs’ Western Anthology Lands At Netflix
#2

TV: Legendary “Easy Rider” Peter Fonda Circling Coen Brothers’ “Ballad of Buster Scruggs”


#3
http://www.rollingstone.com/tv/news/netflix-nabs-coen-brothers-western-series-buster-scruggs-w496865
#4

[494]カンヌ論争


#5
https://www.abqjournal.com/1025040
#6
Netflix Acquires ‘Kingsman’ & ‘Kick-Ass’ Comic Publisher Millarworld
#7
‘Stranger Things’ Gets Season 2 Premiere Date, Poster & Teaser By Netflix
#8
http://www.latimes.com/business/hollywood/la-fi-ct-netflix-debt-spending-20170729-story.html
#9
http://decider.com/2017/08/10/is-netflix-in-debt-what-that-20-billion-really-means/
#10
Netflix Stock Hits New High, But Some Still Wonder: Is It A House Of Cards?
#11
Netflix’s Ted Sarandos Talks ‘Sense8,’ ‘The Get Down’ Cancellations
#12

Disney To Pull Movies From Netflix, Launch Their Own Streaming Service

大寺眞輔
映画批評家、早稲田大学講師、アンスティチュ・フランセ横浜シネクラブ講師、新文芸坐シネマテーク講師、IndieTokyo主催。主著は「現代映画講義」(青土社)「黒沢清の映画術」(新潮社)。

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