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ディズニーのアニメーション映画『ズートピア』は、動物たちが生活を営む「楽園」、ズートピアを舞台に繰り広げられるファンタジー・アドベンチャーである。その音楽を担当したのは、マイケル・ジアッキーノである。彼は、『Mr.インクレディブル』、『レミーのおいしいレストラン』、『カールじいさんの空飛ぶ家』、『カーズ2』、『インサイド・ヘッド』と、これまで数々のピクサー・アニメーション・スタジオの長編映画を手掛けてきたが、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの長編映画を担当することは初となる。彼は、『ズートピア』の世界が現実世界と平行していることに興味を惹かれた。2015年の11月に、指揮者ティム・シモネックと80人編成のオーケストラによりレコーディングは行われた。
彼の起用理由については、今作のバイロン・ハワード監督とリッチ・ムーア監督が詳しく話している。まずは、ハワード監督の言葉である。

「ズートピアの広大な世界において、異国情緒溢れる、力強いスコアを届けることができる人物が必要でした。それだけでなく、感情的な親しみをもたらしてくれるということもです。映像とともに物語を伝えますが、マイケルは、音楽で物語を伝えます。『ズートピア』は、大規模な映画であり、深い感情のテーマが物語を貫いています。そして、マイケルは、奇妙な動物の世界へ音楽をもたらすには、完璧な選択でした。」

この映画の音楽の中心となるのは、主要な登場人物となるウサギのジュディ・ホップスとキツネのニック・ワイルドの感情である。それは、ハワード監督も述べているように、映画が感情をテーマとする物語であることに由来している。
そして、その言葉に付け加えるようにムーア監督も続ける。

「ズートピアは、繁栄している大都市です。そこでは、世界中の動物が居住しています。マイケルの音楽は、素晴らしい国際的な精神を捉え、それは映像と完全に合っています。私は、観客の皆さんが、私たちがともに創り上げた驚くべき新世界を体験することに対して、とても興奮しています。」

ジアッキーノによれば、スコアは多種多様な楽器によって演奏されている。それは、まさにムーア監督の発言を反映している音楽といえる。世界の音楽が全編にわたって散在しているのである。
さらに、ムーア監督は、ジアッキーノとの仕事についても説明をしてくれている。

「マイケルとの仕事の過程は、独特です。それは、過程のようには感じないのです。子供時代の友人を訪ねるような感じなのです。映画について話し合うことから始めます。テーマ、音調、登場人物、感情的な瞬間についてです。何が自分たちを奮い立たせるのか、映画へ望むことについてです。その話し合いから、マイケルは、スコアを作り始めます。一緒に彼の仕事に耳を傾けた際に、驚くべきことが起こりました。マイケルは、その話し合いの内容を取り上げ、それらを音楽に変えたのです。それは、創造的な共同作業であり、純粋でシンプルです。」

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『ズートピア』は、希望に満ち溢れたジュディ・ホップスという名のウサギが、冒険をする物語である。彼女は、自分に対して「可愛い」と言わないで欲しいと訴えかける。そして、その言葉はウサギ同士の間だけで使うことが許容されると主張する。他の種の動物からかけられるその言葉は、偏見を内包するからである。そこに象徴されるように、『ズートピア』とは、偏見とはどのように個人の考えや政治的な方針を形成するのかを探求する物語なのである。このテーマについて、ジアッキーノは、彼自身の意見を語ってくれている。

「とても個人的な方法で、偏見は、自分に影響をもたらします。今現在、世界で起こっている問題を自分が見たいようにさせてしまうのです。芸術的に、そのことを探求することは、とても興味深いことでした。本当に個人的な映画なのです。言っていることが奇妙に聞こえるかもしれません。“この大規模なディズニーのアニメーション映画は、本当に個人的な映画です。”しかし、本当に本当にそうなのです。」

ハワード監督とムーア監督によれば、ジアッキーノのスコアは、ひっそりとして、リズミカルで、絶えず映画を前進させているという。音楽は、物語にとって最も重要なことに焦点を合わせている。それは、純粋なホップスが時折、差別に無自覚でいることであり、彼女が常に楽観主義でいることなのである。2015年の後半に、ジアッキーノが音楽を担当することが発表され、初期の話し合いで、ハワード監督とムーア監督は、彼に6つのシーンを示した。それらは、2人の監督が考えた、最も強く心に訴えかけ、感情的なシーンであった。
ジアッキーノは、8分の組曲を書き上げた上で、2週間後に戻ってきた。その音楽は、コメディの要素を無視していた。代わりに、ピアノがもたらす感動的な旋律の音楽となっていたのである。ムーア監督は、その理由について自身の解釈を述べている。

「マイケルは、本能的に、映画におけるコメディを強調するべきではないことを理解していました。優れたコメディ映画においてスコアを聴いた際に、その音楽は、可笑しくないのです。それは、常に、悲劇を強調し、主要な登場人物の葛藤を強く表現しているのです。マイケルは、その方法へ正しく突き進んでることを知っていました。」

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ジアッキーノは、型に囚われない楽器をいくつも使用している。例えば、インドネシアの楽器、中東の鐘である。それは、世界から動物たちが集うズートピアにおける多様性の表現のためである。そして、ジアッキーノのニューヨークでの経験が今回の楽器の編成にも影響している。

「ピアノやヴァイオリンを使うようなところに、変わったものを手にとって使いたいと思いました。普通は行わないような方法で、楽器を使いたかったのです。自分にとって、それは、大都市を表現してします。6年間、ニューヨークに住んでいましたが、すべてのものが多種多様であることに驚いたのです。それは、人々の顔に当てはめることができます。ドアの外に踏み出し、多様性はすぐ目の前にあります。音楽のどこかでその感覚を獲得したかったのです。」

ジアッキーノは、楽器として、スティールミキシングボウルや雄羊の角を使っている。その2つの楽器は、ジアッキーノ自身によって演奏され、ニック・ワイルドとジュディ・ホップスがジャングルで追いかけられるシーンで聴くことができる。また、彼は、打楽器奏者にジェリー・ゴールドスミス作曲によるオリジナルの『猿の惑星』にも参加したエミル・リチャーズを迎え入れている。
ジアッキーノは、それらの楽器を使った理由とは、彼の打楽器に対する思い入れ、ジアッキーノとリチャーズのこれまでの関係にあると述べている。

「私は、打楽器がとても好きです。私は、『猿の惑星』や他のスコアを聴いて育ちました。そのことは、自分にとって楽しいことでした。それらのスコアは、(一般的に)単にそれだけを聴くということをしないからです。しかし、何を聴いているのかを尋ねられます。何がそれらのサウンドであるのか。そして、『LOST』や『猿の惑星:新世紀』(両作品ともにマイケル・ジアッキーノが音楽を作曲している)において、そのことを探求することは、常に楽しかったのです。このプロジェクトでの1つの喜びは、打楽器奏者のエミル・リチャーズと仕事ができることでした。彼は、『猿の惑星』のスコアで、ジェリー・ゴールドスミスと仕事をしたのです。
エミルは、それらのサウンドの多くの責任者となってくれ、ミキシングボウルや雄羊の角の楽器を収集してくれたのです。それが面白いサウンドになっているならば、彼はそれを盗み、自分のものにしたのです。そして、過去の映画において、私たちは、『猿の惑星:新世紀』に取り組み、彼は、贈り物として、私にミキングボウルと雄羊の角の楽器をくれました。それは、オリジナルの『猿の惑星』で使われていました。だから、私は、『ズートピア』でそれらの楽器を使ったのです。それらは、完璧なサウンドのコンビネーションであり、そこに奇妙さを加えることができたのです。」

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ジアッキーノは、しばしば映画における最も悲しい瞬間に焦点を当てることが好きであると話している。ズートピアは、活気に溢れている大都市であり、そこでは、動物たちが互いに差別されることも珍しくない。ジアッキーノは、意図的にジニファー・グッドウィンが声優を担当するウサギのジュディ・ホップスの感情にスコアを合わせている。彼女は、警察になることを夢見るウサギであり、その世界は、彼女を貶めようとする。他の動物たちはウサギに対して差別をする。しかし、一方でジュディ・ホップスは、ウサギを捕食する動物に対して、それほどポリティカル・コレクトネスが備わっていないのである。
さらに、ジアッキーノが、個人の場面における感情の重要性を反映するというよりはむしろ、ホップスの頭を通り抜けたことを捉えようと試みているシーンがある。例えば、ジェイソン・ベイトマンが声優を担当するキツネのニック・ワイルドのシーンである。彼は、ジュディ・ホップスに大都市での生活について説教をする。そのシーンでは、弦楽器で音楽を演奏するまたは、物悲しさを表現するというよりはむしろ、ジアッキーノのスコアは、ラテン音楽での祝い行事を思わせるようなテンポの速いものとなっている。ジアッキーノは、そのシーンについて以下のように語る。

「物語のその場面において、ホップスがすでにそのこと(ニック・ワイルドがジュディ・ホップスに説教したこと)を100パーセント受け入れる準備ができているのかは分かりません。彼女は、彼の説教を聞きますが、そのことが彼女自身を通り抜けたということです。彼女はまだ、自分の求めるものに眼を向け、その彼女が求めるものとは、単に彼の助けであったのです。彼女は、公正にあろうとしているのです。彼女は、彼女自身を振り返ろうとはしていないのです。まだ、好きなところで、“あなたのことは聞かないわ。あなたがしていることは間違っているし、その訳を聞きたいの。”と考えています。」

同様に、ジアッチーノのスコアは、個人の成長の物語において何が警察の処置であるのか、どのように根拠のない恐怖と闘うのかという内容が発展していく様を表現している。ホップスは、映画全編を通して、キツネを寄せ付けないためのスプレーを持ち歩いている。彼女に対する差別が明るみに出たときのためである。その葛藤、そして、無知であることと正直に向き合うことは、ジアッキーノが音楽に反映したかったことである。

「そのこと(差別への葛藤、無知であることと正直に向き合うこと)は、どのように人に影響を与えるのか。そのことは、どのように彼女が関わらなければならない人々に影響を与えるのか。世界で最も楽観的な人の考えでは、誰にも偏見を持っていないと思い込みます。しかし、“なんてことだ。自分も偏見を持っていたんだ。”と気づくのです。それは、誰もが抱え、葛藤するとても人間的なことであるのです。そのことを探求することは、映画に取り組むことにおいて、最もわくわくさせることなのです。」

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ジアッキーノは、現代のアニメーションに対して、強い感性を持っている。現在48歳の彼は、最も影響を受けた作品として、1970年代中期から後期にかけて放映された『マペット・ショー』を挙げている。彼は、1920年代の音楽、ビッグバンド、ジャズ、ラテン音楽に影響されているのである。
彼は、今日、多くのアニメーションが馬鹿馬鹿しくなっていることを懸念している。以下はジアッキーノの言葉である。

「このように発言するのはすごく嫌ですが、しかし、多くのアニメーションは単に愚かで馬鹿馬鹿しいです。現実における人間の経験についての本当の物語を伝える機会を無視しているのです。だから、そのことを試みて、実行するのです。それは、偽りのように感じます。“悲しい瞬間がある。”それは、本当のことのようには聞こえません。しかし、バイロンとリッチは、とても上手くそのことを自分たちの世界と繋げたのです。この映画は、私たちが、いかに現在の社会に対処していくかについての物語なのです。」

2人の監督とジアッキーノによれば、もし、現代社会について広義で何かをやり遂げたならば、ウサギの話に焦点を当てた物語によるものであり、音楽によるものであるという。物語は、音楽と親密な関係にあり、音楽は物語を表現する。
ムーア監督がその物語の上で心掛けたこととは、映画が観客に対して偉そうに何かを伝えないということである。

「私たちは、メッセージを込めた映画を嫌います。観客に説教をしたり、偉そうに語ったりする映画、本、その他のものを嫌っています。理論の観点からそのことへ到達したり、知的にスクリーン上でそのことを証明することで観客を打ち負かそうとは決してしないのです。」

そして、ムーア監督は、笑わせてくれたり、泣かせてくれたり、わくわくさせてくれたりするだけでなく、世界を少し明らかにし、また自分自身を少しばかり明確にしてくれるがゆえにエンターテインメントが好きであると述べている。
最後に、2人の監督との関係、そして、映画について述べたマイケル・ジアッキーノの言葉で締め括る。

「私たちは、共同作業することを本当に楽しみました。監督は、全体の過程を通して、私を支えてくれ、本当に音調と感情的な物語の側面を探求するために自由を与えてくれたのです。
私は、本当に、この映画の一部となれたことを誇りに思います。大きな心を持った映画であり、登場人物が物語の中で上手く設定されていると気づかせてくれるのです。その物語は、すごく楽しいだけでなく、自分の世界へ誠実な眼を向けていて、多様な社会において生活する上での問題を扱っています。そのことが、本当にその映画へ愛着を持たせてくれたのです。それらの挑戦を反映する音楽を書く好機であったのです。」

参考URL:

http://www.slashfilm.com/michael-giacchino-zootopia/

http://www.fredericksburg.com/entertainment/tv_movies/disney-goes-deep-in-zootopia-movie/article_abc27aa5-321b-5ccd-92f6-f87055dd1907.html

http://www.latimes.com/entertainment/herocomplex/la-et-hc-zootopia-music-20160308-story.html

http://www.indiewire.com/article/composer-michael-giacchino-disney-zootopia-score-interview-20160311

http://scoringsessions.com/2016/03/10/michael-giacchino-scores-zootopia/

http://www.imdb.com/name/nm0315974/

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


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