マット・シュレーダー監督の『すばらしき映画音楽たち』は、クラウドファンディングで資金を集めて完成したドキュメンタリー映画である。タイトルの通り、映画音楽に焦点を当てている。新宿シネマカリテで開催の「カリテ・ファンタスティック!シネマ・コレクション 2017」(「カリコレ 2017」)において上映される。さらに、『すばらしき映画音楽たち』の日本の公式サイトがオープンしたが、それによれば、全国順次公開予定となっている。
予告編は、ジョン・ウィリアムズがピアノを演奏し、スティーブン・スピルバーグ監督に『E.T.』の音楽を聴かせるところから始まる。予告編だけでも、映画音楽に携わった多くの作曲家や映画監督などがインタビューに答えている。ウィリアムズ以外にも、ジョン・デブニー、ジェームズ・キャメロン、レイチェル・ポートマン、トレント・レズナー、アッティカス・ロス、クインシー・ジョーンズ、トーマス・ニューマン、タイラー・ベイツ、マイケル・ダナ、ダニー・エルフマン、ベアー・マクレアリー、クリストフ・ベック、デボラ・ルーリー、ハンス・ジマーなどを観ることができる。以上に挙げたのは、本編の登場人物の一部に過ぎない。予告編でジマーは、映画音楽に大改革をもたらしたことが述べられている。

<『すばらしき映画音楽たち』の予告編>

『すばらしき映画音楽たち』の中で、ジマーの仲間の作曲家が、「ハンスはフィルムスコアリングへ型にはまらないロックをもたらしました」と語る。そして、ジマーは、「ストリングスのセクションへと持ってきて、ギターのようにその音楽を作り上げました。つまり、それらはリズムを奏でているのです」と話した。そのことについて、ジマーはインタビューで以下のように詳しく説明している。

「…私がハリウッドにやって来た際に、フィルムスコアリングを行う方法が存在していました。特有の方法で、レコーディングをし、ミックスをする方法です。…そう、優れたミキサーたちがいました。しかし、まだプロデュースや洗練がなされていなかったのです。ロックミュージックにおいて私たちが行っていたことと同様にミキシングの細かなことへとは、誰もそれほど関心を示してはいませんでした。オーケストラのスコアが、キューの後に現れる3つの楽器のバンド曲によって打ち負かされるなんてことは気が狂った考えだと思ったのです!だから、私はロックンロールのテクニックを使い始めたのです。私たちはバックグラウンドミュージックになるなんてまったく信じていませんでした。ジェリー・ゴールドスミスの述べたことを引用します。「もし、自分がその音楽を書くのであれば、自分はその音楽を聴きたいと思っているのだ」というものです。だから、私はロックンロール出身なのです。私にはレコードプロダクションの経歴があります。だから、そのことを取り入れることは自然なことであったように思います。そして、同様に少しオーケストラを学び直しました。ロックンロールには存在しない異なるサウンドを少しばかり得ました。つまり、仕事であるということでしょうか。限界に挑むべきです。ほかの誰かが一緒に加わってくれ、多様化していきます。」

さて、60人以上のインタビューを収めた『すばらしき映画音楽たち』において、マット・シュレーダー監督は、5つの観点から道標となる知識を書き記している。

1. 時間=成功
数十年にわたって、映画音楽は、主にポストプロダクションに追いやられていた。映像がなければ音楽を合わせられないので、そのことは歴史的には理にかなっていた。しかし、早い段階における作曲家とのコミュニケーションは、非常に創作的な結果を生み出すことができる。監督が理想とするヴィジョンを超えて、映画の質を高めるのである。作曲家のハンス・ジマーは、キャラクターが確立する前に、クリストファー・ノーラン監督と『ダークナイト』のスコアへと取り組んだ。作曲家のジェームズ・ホーナーは、最終段階の編集が完了する何年も前に、ジェームズ・キャメロン監督の『アバター』に取り組み始めた。逆に、ほんの数日で書き上げられ、レコーディングされた映画を象徴するスコアがある。しかし、それらのスコアは、事前の計画で可能な音楽のアイデアを組み入れることができない。作曲家のタイラー・ベイツは、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のセットの上で、流れる音楽を作曲した。俳優たちは雰囲気と音楽のペースに合わせることができたのである。これらの早期の協同作業は、スコアが到達することのできる範囲を高めることに一役買っている。さらに、そのことで、スコアそれ自体が美食家の料理としてというよりはむしろ、スコアが香辛料や薬味として扱われた際に、映画製作者によってしばしば直面する隠れた危険や時間に追われるという障害を避けることができる。

2. 作曲家との簡潔な表現を探る
故ゲイリー・マーシャル監督の最後のインタビューのひとつにおいて、作曲家の相互作用の話が持ち上がった。監督との相互作用とは、作曲家の能力と同じように大切である。「共に食事をする機会を得るのだ」と彼は笑いながら述べた。つまり、監督と作曲家の間に存在しなければならない友情や精神的な支えをとてもシンプルなものにするのである。マーシャル監督の考え、さらに『すばらしき映画音楽たち』でインタビューをした多くの作曲家の考えにおいて、できるだけ早くから同様の感じ方を進めていくことは極めて重要なことである。ほとんどのプロフェッショナルの協同期間において、目標とはお互いの心のヴィジョンを理解し、最善の可能な結果を引き出す中心点を見つけ出すことである。「作曲家は、セラピストのようでなければなりません」と、ジェームズ・キャメロン監督は我々のチームに話した。共に仕事をする人物同士の間で、やり易さと理解があるときだけ、優れたアイデアが自由に導かれ始める。それだけでなく、関係性または、「簡潔な表現」の言葉を発展させていくことが大切である。マーシャル監督は、このことをジョン・デブニーに見出した。デブニーは、自身のスキルを、マーシャル監督の創作性を高めて、彼の不安定さを向上させることに繋げるということを理解していたのである。デブニーは、マーシャル監督と精神において親密になっていくと、ひと目が10分の話し合い以上に相当するようになったと記している。

3. すべてのアイデアを歓迎する
一旦、監督はシーンを撮影して編集をすると、心を開くことが難しくなる。作曲家へと初めて映画を観せたときに、事を悪化させるのは、テンプミュージックを使用するという現代の傾向である。作曲家のほとんどは、テンプミュージックを嫌悪している。スコアは、過去のいかなる物語でも聴いたことのないような音楽であるべきだ。伝えている物語に合った音楽であるべきだからである。映画における音楽のないカットを作曲家に提示することで、作曲家は目的通りの見解を示すことができる。加えて、作曲家が音楽を書く前に、過剰な束縛から解放することが可能となる。作曲家がすることを信じ、傍にいることを覚えておく。作曲家は、ほとんどの監督ができないことを行うことができるからである。異様な音楽のアイデアは常に制限されるが、しかし、退屈な音楽のアイデアを再び面白くするのは難しい。『E.T.』や『グラディエーター』のような映画は、大胆に成功を収めた。型破りな音楽の選択だけでなく、監督が作曲家に本当に新しさの中で実験をする自由を与えたからである。

4. 作曲家もまた映画製作者である
脚本家は、巧みな脚本の大切さを教えてくれる。全体を通して繰り返される多くのテーマを保ち続ける物語の横糸、物語の強烈さ、物語の構造を必要とする。音楽も同様である。作曲家のハワード・ショアは、『すばらしき映画音楽たち』のチームと共にこの重要性について話し合った。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのために、彼が発展させた多くのテーマ曲についてである。フロドが遠方にいる状況で、故郷のシャイア出身のもうひとりのキャラクターを見るときにシャイアのテーマ曲を聴くが、この遠方の場所の外のことを思うのである。

作曲家のクリストフ・ベックは、『アナと雪の女王』において、『すばらしき映画音楽たち』のチームへとこのことを示した。物語の始めに、不思議な魔法のテーマ曲を合わせることによって、後半で、観客がほかの方法で得られない(前後の)繋がりを見出すことに役立つ同じテーマ曲へと取り組むことができた。

「そこにあるすべてを高めるように努めるべきである」と、ハンス・ジマーは自身のスタジオで我々のクルーに述べた。「物語、演技、撮影技術、監督のヴィジョン。私は、自分たちのしていることの一部分とは、映像や言葉で上手く伝えることのできない物語の一部分を伝えることに取り組んでいることであると思います。」

5. 多様性は王様
映画音楽の作曲の様々なスタイルを探求する『すばらしき映画音楽たち』におけるシーンを編集する間に、映画への新たな音楽のアイデアがいかに重要であるのかが明確になった。再利用された音楽または、既存の音楽のようなサウンドの方を向いて作られた音楽は、決して優れたものではない。それぞれのスコアには主張がある。多くの作曲家は、様々な方法で自身のスコアを、似たサウンドにする独自の特徴を持っていることは明白であるが、そのことは、天才が生まれる境界線を探求し、前進することなのである。

『すばらしき映画音楽たち』おいて話し合った際に、トレント・レズナーとアッティカス・ロスは、『ソーシャル・ネットワーク』への音楽でオスカーを獲得していた。その映画の中盤において、驚くほどにトラックが不釣合いに組み合わせられていた。In the Hall of the Mountain Kingの電子による演奏である。ジョン・ウィリアムズの『スター・ウォーズ』のオリジナルスコアは、カンティーナ・バンドのトラックまではサウンドトラックと同様に、力強く、感動的である。映画のスコアを独特にするのは、ポップミュージックができないような感情を支配することを探求する能力だけではなく、オーケストラであろうと、ジャズバンドであろうと、「運命の闘い」の合唱であろうと、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』へのアントニオ・サンチェスによるドラムだけのスコアであろうと、物語が必要とすることを正確に捉える能力である。

進展が起こり、テクノロジーによって、スマートフォン、ラップトップ、タブレット上での音楽の実験が可能となる時代に入った。将来、スコアは、1950年代まで広く普及していたような単なるオーケストラの演奏または、1980年代まで広く普及していたようなフィジカルな楽器の演奏だけではなくなるだろう。才能ある作曲家たちは、限界を超えて音楽を発展させているが、スコアは20世紀の映画もしくは、今日の人気のあるレコードアルバムの規則によって制限されることはない。すばらしき映画音楽とは、必要なことや本当に私たちの心を感動させることへと到達することすらも超えていくことができるのである。

<バーナード・ハーマンの音楽について語られている本編映像>

マット・シュレーダー監督は、作曲家と監督の関係について述べているが、作曲家のバーナード・ハーマンの音楽は、アルフレッド・ヒッチコック監督の映画において非常に効果的であった。公開されている本編映像の一部では、2人の代表作である『めまい』と『サイコ』に関して、現代において活躍する映画音楽の作曲家たちが語っている。後半の『サイコ』では、作曲家のタイラー・ベイツとマルコ・ベルトラミが、ジャネット・リー演じるマリオンが殺害されるシャワーシーンを取り上げて、音楽によって恐怖がいかに表現されているのかを話している。また、ベルトラミは、そのシーンにおいて、音楽が存在する場合と存在しない場合を比較している。
しかし、当初ヒッチコック監督は、マリオン殺害のシャワーシーンに音楽を与えるつもりはなかった。ハーマンはヒッチコック監督を説得し、映画を象徴するほどの弦楽器による高い音域の音楽を付与するに至ったのである。ハーマンの伝記の作者であるスティーヴン・スミスは、その経緯について詳しく述べている。

「ヒッチコック監督は、観客がジャネット・リーの叫び、抵抗、ナイフの音、それから水が流れているのを聞けば、最も効果的であるだろうと思いました。ハーマンとの協同作業はとても親密でしたが、しかしながら、ベニー(バーナード・ハーマン)は、『私には違うアイデアがある』と考えていました。彼は、そこへ音楽を書いてみたいと思いました。ヒッチコック監督がそれを気に入らない場合、それを使わなくてもよいと考えていました。しかし、ベニーは、先に事を進め、シャワーシーンのために映画音楽の歴史において、私が思うに、最も有名な音色となった音楽を書きました。映画音楽の作曲家としての彼の経歴で最も誇りである瞬間のひとつは、ヒッチコック監督が後に彼に対して、自分は映されている(音響効果のみで音楽が存在しない)シャワーシーンに落胆したと言ったときであったと思います。そこには、音楽が必要でした。ベニーは、後になって、ヒッチコック監督に、『私が何かを作曲するよ。聴いてみるかい?』と言いました。そして、彼はヒッチコック監督のためにその音楽を演奏しました。ヒッチコック監督は、『必ずそれを使うよ』と言いました。ベニーは、わざと繰り返して、『だけど、君は音楽は無しでいくと言ったじゃないか』と言うと、ヒッチコック監督は、『間違った提案であったよ。相応しくない思い付きであったのだ』と返答しました。」

参考URL:

https://www.score-movie.com/

http://score-filmmusic.com/

http://qualite.musashino-k.jp/quali-colle2017/

http://www.huffingtonpost.com/entry/score-clip-psycho-shower-scene_us_592d8562e4b0df57cbfd78e6

https://www.yahoo.com/music/composer-hans-zimmer-talks-coachella-rock-n-roll-keeping-score-224529839.html?soc_src=social-sh&soc_trk=tw

http://www.screendaily.com/news/-cinetic-international-sells-score-a-film-music-documentary/5119151.article?blocktitle=LATEST-FILM-NEWS-HEADLINES&contentID=44435

https://www.moviemaker.com/archives/moviemaking/other/score-five-things-directors-should-know-about-working-with-composers/

http://www.npr.org/2000/10/30/1113215/bernard-herrmanns-score-to-psycho

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


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