先週末(16日)からアメリカを始め世界15カ国で公開されているダークコメディ映画『Rough Night』[*1]。スカーレット・ヨハンソンが主演し、女性監督ルシア・アニエロの長編デビュー作であるこの作品は、アメリカで女性が監督した映画としては20年ぶりにR指定を受けたことでも話題になっていますが、女性たちが主導するコメディ映画の新たな作風や傾向の出現、その台頭を予感させる映画として注目を集めています。
『Rough Night』で描かれるのは、スカーレット・ヨハンソン演じる結婚を前にした女性ジェスのバチェラー(バチェロレッテ)・パーティーが行われる一夜の物語です。大学時代の仲間であるアリス(ジリアン・ベル)とブレア(ゾエ・クラヴィッツ)とフランキー(イラナ・グレイザー)、そしてジェスが“BFF(生涯の大親友)”と呼ぶオーストラリア人女性のピッパ(ケイト・マッキノン)を加えた5人はマイアミを訪れ、まずは酒とドラッグをきめてクラブで大騒ぎ、そして宿泊先の海辺のコテージに戻ると男性の出張ストリッパーを呼び大興奮。ところが太ったアリスがストリッパーに抱きついたとき、後ろ向きに倒れたストリッパーが椅子の角に頭をぶつけ、なんと即死してしまいます。5人はこの最悪の事態にどう対処するか話し合いますが、アリスが刑務所に入りたくないと主張(「『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』の第1話を観た? 私にはあんなこと耐えられないわ!」[*2])、また他の4人にとっても隠しおおせたほうが好都合だという結論に達し、彼女たちはひとまずストリッパーの死体を隠し事件を隠蔽しようと画策します。しかしそのことでさらなる大騒動がまきおこり――というあらすじです。

女友達の結婚をめぐるすったもんだということで『ブライズメイズ』(2011)や『バチェロレッテ』(2012)を想起したり、あるいはバチェラー・パーティーでのバカ騒ぎから事件が引き起こされるということで『ハング・オーバー』シリーズ(2009~13)の女性版として本作を捉える人も多いでしょう。Varietyに掲載されたオーウェン・グレイバーマン氏による映画評[*2]では、バチェラー・パーティーに呼んだ娼婦を死なせてしまったことがきっかけとなりさらなる殺人を犯すことになる新郎と、彼の罪を知っても結婚式を挙げるために事件を隠蔽しようとする新婦が主人公の『ベリー・バッド・ウエディング』(1998)に触れ、
「『ベリー・バッド・ウエディング』は男性が持つ精神の暗部に踏み込み、吐き気を催すようなパワーを持っていた。『Rough Night』は『ベリー・バッド・ウエディング』の男性を女性に置き換えたプロットではあるが、もっと軽いエンターテイメントになっていて不快感を与えることはない。『ハング・オーバー』の要素を少々、『ブライズメイズ』の再現、さらに『バーニーズ/あぶない!?ウィークエンド』(1989)の作風を加え、それら全てをコメディ圧縮機ですりつぶしたかのようだ。だが『Rough Night』の最も素晴らしい点は、互いを愛し憎んでもいる“シスターたち”によるのびやかな冗談や冷やかしの応酬が自然と活気を生み出していることだ」と述べています。
ちなみに、アニエロ監督自身はこの作品のプロットに影響を与えた作品として、『再会の時』(1983)と『ミーン・ガールズ』(2004)を挙げています。
「ポール(・W・ダウンズ/脚本の共作者であり、ジェスの婚約者として出演)と私は『再会の時』について様々なことを話し合ったの。コメディではないけれど、あの作品で描かれる友情や、離れていた時を経てからの再会というテーマに私は深く共鳴してきたから。それから私が大きな影響を受け、参照したもうひとつの映画は『ミーン・ガールズ』。あの映画では友達と大はしゃぎするひと時と友情が不公平に感じられたときに表出する問題が共存しているのよ」[*3] そう、本作では久々に再会し、羽目を外す5人の女性たちが普段抱えている仕事や家庭の問題や、あるいは仲が良いだけではない複雑な関係性(ブレアとフランキーが元恋人同士であったり、アリスがジェスの大親友として紹介されたピッパに嫉妬したりetc.)が一夜の騒ぎのなかで少しずつ明らかになっていきます。
また、アニエロ監督は『ブライズメイズ』や『バチェロレッテ』といった作品と比較されることに対する理解を示しながらも、「興味深いのはアダム・サンドラーに向かって“2ヵ月前にウィル・フェレルの映画が公開されたけど、どう思いました?”って聞く人なんていないってこと。いろんな映画を比較して考えたがる人はいるし、それは仕方のないことだけど、女性が作ったコメディ映画というだけで何かと他作と比較されてしまっているところはあるわね。私は女性によるコメディが臆することなく自由に作られることを望んでいるけれど、まだ男性のコメディと同じ扱いは受けられてないのよ」[*4]とも指摘します。

R指定を受けていることからも明らかなように『Rough Night』にはセックスにまつわるジョークいわゆる下ネタが数多く出てきます。これまでも、例えば『セックス・アンド・ザ・シティ』シリーズのように女友達同士が自分の性生活や性的衝動をあけすけに話すような作品は存在しましたが、そうした作品が友情とともに主題としていたのはあくまでも恋愛やロマンスでした。しかし、『Rough Night』は最後までロマンスの要素を介在させないまま下ネタを連発していきます。
「セックス・ジョークは長い間、男性に独占されてきた。(エイミー・シューマーやサラ・シルヴァーマンのような)女性コメディアンがセックスについて話す時、彼女たちはそれを男性のように料理できることを証明し、自分がいわゆるアバズレであることを堂々と表明することで、男性が魅力を感じる余地を残している。だが『Rough Night』におけるセックス・ジョークは完全に男性をのけ者にする。(中略)ここで繰り広げられるジョークは女性が健全な性的関心を抱くことを励ますものとしてある」[*5] 自由奔放なオーストラリア人・ピッパを演じるケイト・マッキノンは、本作に出てくる女性のキャラクターをスクリーンで観ることも、それを演じることもワクワクする体験だったと語っています。
「野郎どもは何世紀にもわたって、最後までロマンスがない中で、厄介な状況に陥り、羽目を外し、走り回り、ただ馬鹿なことをやってきた。そういうコメディにおいて、女性はたいていの場合、ただの結婚相手として登場するか、男どもが馬鹿なことをやるのを叱るだけだった。だからこうして馬鹿をやったり、厄介ごとを招いたり失敗を犯す女性になれたことは一服の清涼剤になるような体験だったわ」[*6]

New York Timesのジュリー・ブルームジューン記者は、この『Rough Night』と7月公開予定の『Girls Trip』を例に挙げ、これまで男の世界として描かれてきた、仲間がつるんではちゃめちゃなことをやるバディ・コメディを、女性たちが信憑性を持って演んじている作品群が増えていることについて、映画関係者の証言をもとに紹介しています。[*6] その中では、前述したマッキノンの発言の他、『ブライズメイズ』やリメイク版『ゴーストバスターズ』(2016)を監督したポール・フェイグの「コメディにおいて女性は目の保養や男に言い寄られるためだけに存在することが多かった。だがコメディとは優れたイコライザーでもあるんだ。男性でも女性でも全てのキャラクターが長所と短所を持ち、滑稽で、パワフルで、互いの性に対する理解を深める存在であることが望ましい」という見解、あるいは黒人の既婚女性4人組によるニューオリンズへの旅を描く『Girls Trip』に出演したクイーン・ラティファの以下のような発言が引用されています。
「女だって悪さをするわ。ファンタジーではなく現実を見ることが大切よ。男は女を箱の中に入れたがるし、時には女だって同じことをしたがる。私たちは外では淑女でいなきゃいけないし、ベッドの上では淫らであることを求められる。その間を行き来するにはたくさんの段階があるはずで、その段階の全てを見せる必要があると思うわ」
さらに同記事では、女性が「手綱を握る」コメディが増えつつある一方で、そうした作品を製作するには依然としてリスクがつきまとうことが指摘されています。『ブライズメイズ』や『バッド・ママ』(2016)といった少ない成功例を除けば、興行的に振るわない場合が多いからです。ポール・フェイグはその原因についてこのように述べています。
「ただ楽しいだけのコメディ映画がある一方で、そうした作品は革新的で風変りであるがゆえにプレッシャーを受けている。僕は観客がもっと女性が出る映画を観たいと望み、支援するしかないと思う。映画産業を変えるにはそれしかない。ハリウッドは利他的な場所ではないからね」
コメディ映画の多くが劇場公開されずにストリーミング配信やDVDスルーされている日本においては、女性のバディ・コメディの受け皿はさらに小さいというのが現状です。『Rough Night』についても公開されるかどうか定かではありませんが、女性が躍動するコメディ映画がもっと多く生み出され、それを観る機会が増えることを期待してやみません。

*1
http://www.imdb.com/title/tt4799050/

*2
http://variety.com/2017/film/reviews/rough-night-review-scarlett-johannson-1202464087/

*3
https://www.villagevoice.com/2017/06/14/rough-night-director-lucia-aniello-on-finding-the-light-heart-of-darkness/

*4
http://www.amny.com/entertainment/rough-night-director-lucia-aniello-talks-women-in-comedy-scarlett-johansson-and-more-1.13735058

*5
http://www.indiewire.com/2017/06/rough-night-review-scarlett-johansson-kate-mckinnon-dirty-sex-positive-comedy-1201841905/

*6
https://www.nytimes.com/2017/06/16/movies/rough-night-girls-trip-scarlett-johansson-queen-latifah.html?rref=collection%2Fsectioncollection%2Fmovies&action=click&contentCollection=movies&region=stream&module=stream_unit&version=latest&contentPlacement=5&pgtype=sectionfront

黒岩幹子
「boidマガジン」(http://boid-mag.publishers.fm/)や「東京中日スポーツ」モータースポーツ面の編集に携わりつつ、雑誌「nobody」「映画芸術」などに寄稿させてもらってます。


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