2016年の11月に公開された『この世界の片隅に』はSNSなどの口コミで評判が広がり、ミニシアター系映画としては異例のヒットとなりました。公開から6カ月を経た今も各地の劇場で公開されています。また、第40回日本アカデミー賞の最優秀アニメーション作品賞にも輝き、第90回キネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位にもなりました。

そんな”この世界の片隅に”の海外での評価について、いくつかの記事を評価を見ていきたいと思います。ちなみに英語のタイトルは”In This Corner of the World”というそうです。

DeadlineのAnita Buschは記事の中で”この世界の片隅に”について次のように書いています。
「戦時下の空襲にさらされる中で日本人が直面する日々の生活を描いたストーリーは、主人公すずの忍耐強さと精神力によって成立している。その美しくも痛切な映画は戦時下で不幸や喪失を経験する中でも人々が協力し、立ち直ってゆく姿を示している」
「戦時下に普通に生きていた人々」というテーマに関しては、ScreenDailyのSarah Wardも、戦時下の暮らしの悲しい部分だけでなく、希望を捨てない姿勢や忍耐強く沈黙を守る姿も”この世界の片隅に”の魅力となっていると指摘しています。そうして、そのことによって、現代に生きる多くの人が共感するようになっていると述べています。
さらにこの記事では、去年海外でも公開されたシンゴジラとの共通点を指摘されていました。「『シン・ゴジラ』と『この世界の片隅に』には、破壊が行われる過程だけでなく、辛い時間を乗り越え復興していく過程にも考察されている。(中略)主人公のすずが病気の兄に代わってノリを届けに行く道のりを描いた最初のシーンから、この映画が前向きなものであることを示している」
片渕監督は『マイマイ新子と千年の魔法』や『アリーテ姫』といった自らの映画を作る以前には宮崎駿監督の下でキャリアを始めました。ScreenDailyの記事は片渕監督が『魔女の宅急便』の製作にかかわったことを紹介して、「ジブリ作品と同じく片渕監督の作品にも、複雑な感情を探求する中での不思議な感覚を観客に与える力がある」と述べています。

VarietyのMaggie Leeのレビューは
「『この世界の片隅に』は、戦時下の悲惨な状況におけるノスタルジックな瞬間を集約した映画」だという文章から始まります。彼女は、映画が戦時下の平凡な人々を主役にしていることに言及して「こうの史代原作の漫画を映画で表現するにあたって、片渕監督は第二次世界大戦下における主婦の姿を親しみを込めて描いている。単なる悲劇的な内容にするのではなく主人公が自分の幸せをを求めて、戦時下で奮闘する姿を描いている。かつての新藤兼人や木下恵介といったリベラルな監督が一般の人々の純真さや精神力を描きましたが、『この世界の片隅に』の描き方は彼らの作品に似た雰囲気を作っている」と書きました。
また”この世界の片隅に”が日本国内の批評家らに絶賛され、数々の日本の映画の賞を受賞したことにも触れ、日本以外の海外の映画ファンも受け入れられるだろうと予想しました。加えて、主人公が料理を工夫するシーンが長いことについても「食糧配給が乏しくなるにつれて主人公がなんとか工夫して、おいしく料理を作ろうとするので、日本の台所のシーンが好きな海外の映画ファンは楽しめるだろう」と書いています。


また、Varietyのレビューは、『この世界の片隅に』を、最もよく知られた戦争がテーマのアニメである『火垂るの墓』とも比較しました。「片渕監督の作品では、(火垂るの墓と比べて)生々しい凄惨な描写は少ない一方で、豊かな感受性を持った女性の視点で語られている。逆に両方の作品に共通するのは、やはり、戦争に巻き込前れる一般の人々を描いていることである」

The Telegraphのレビューも”この世界の片隅に”を”火垂るの墓”と”はだしのゲン”と比較しています。「『火垂るの墓』も『はだしのゲン』も連合国軍の空襲の後の世界を描いていますが、『この世界の片隅に』は空襲が始まる少し前から、呉の山沿いに住む主人公すずが大人になっていく物語を描きました。そうすることで戦争によって失われたものをより静かに描いたのです」

そんな『この世界の片隅に』の海外での上映ですが、アメリカでは8月11日に公開されます。
北米での劇場公開の権利はShout! Factoryによって買われました。彼らは劇場公開と共にVOD、デジタル化、放送、ホームビデオの権利なども買いましたが、マルチメディアでのリリースに先駆けて今年の夏にアメリカとカナダでの劇場公開を予定しています。
「美しく、深く心を揺さぶられる”この世界の片隅に”は魅惑的ですが、観た人すべてに影響を与えるような、社会的な映画です」Shout! Factoryのメリッサ・ボーグは言う。「今夏、この手書きで描かれた素晴らしい作品をアニメ好きや北米の映画ファンに見せるのが楽しみですし、本当に誇らしいです」
Shout! Factoryははロンドンに本社がある配給会社、Animatsu Entertainmentから買われました。Animatsuは2016年の11月のAmerican Film Market(AFM)において、(Gencoによって製作された)”この世界の片隅に”の国際的な権利を獲得しました。
彼らは配給、制作、国際的な映画の権利を管理している会社で、主に日本の映画に注力している会社です。『この世界の片隅に』の他にも、独自に製作しているアニメーションを含めていくつかの進行中のプロジェクトを抱えているそうです。カリフォルニアに本社があるManga Entertainmentの系列であります。
彼らの手によって売り込まれている『この世界の片隅に』は多くの国で公開中あるいは公開予定です。
2月末に行われたメキシコの上映イベントでは、片渕監督とのんが出席しトークイベントなどを行いました。南米には他にもアルゼンチンやチリなどの国々で3月より公開されました。またタイや香港でも同じく3月より公開され、ヨーロッパでも、英国は6月から、ドイツでは7月、フランスは9月に公開されます。アメリカではロサンゼルス映画祭で上映されたあと、8月より公開されます。

参考URL
http://www.screendaily.com/reviews/in-this-corner-of-the-world-tokyo-review/5110757.article

Shout! Factory & Funimation Films Partner To Distribute Japanese Ani Film ‘In This Corner Of The World’

Animatsu’s ‘In This Corner Of The World’ To Be Released By Shout! Factory

Japanese Animated Film ‘In This Corner of the World’ Scheduled for August Release

Shout! Factory Buys Japanese Hit ‘In This Corner of the World’ for North America

Film Review: ‘In This Corner of the World’ (Kono sekai no katasumi ni)

AFM: Japanese Animated Film ‘In This Corner of the World’ Sells to France, Germany

http://www.telegraph.co.uk/films/0/in-this-corner-of-the-world-review-a-dream-like-portrait-of-what/

https://www.animenewsnetwork.com/news/2017-02-14/in-this-corner-of-the-world-anime-film-to-open-in-23-countries/.112223


石黒優希
96年京都生まれ映画育ち。字面で女の子と間違われることが多いですが男です。そして、大阪大学でロシア語を専攻してますが、ロシア映画は詳しくありません。(これから観ます)影響を受けた映画は「アメリ」「めぐりあう時間たち」「桐島、部活~~」の3つです。


2 Comments
  1. In This ~ですよね、英題は。

    • ご指摘ありがとうございます。
      うっかりしてしまいました。これからは気を付けたいと思います。
      自分自身、まだまだ未熟ですが、頑張りたいと思います。これからもよろしくお願いします
      石黒

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