近年、インディ界におけるホラーがとても熱い。日本で昨年公開された『イット・フォローズ』ではジェンダー、『The Witch』では敬虔なクリスチャンである家族たちの心の変容を描きそれぞれ大きな話題を呼んだ。社会に潜む問題を視覚化し主軸にしていくことでホラーというジャンルはどんな社会的批評よりも真実をついているのではないだろうか。

先日BETアワードでジョーダン・ピールの初長編作『Get Out』の予告編が解禁された。主人公の若いアフリカ系アメリカ人クリスは白人であるガールフレンド、ローズと彼女の両親に会いに行く。彼女が両親に自分がアフリカ系アメリカ人であることを伝えてないという事実が判明するところから物語が少しずつズレ始める。両親の家で繰り広げられる人々の奇妙な行動と世界に飲み込まれていくこの徐々に迫ってくる恐怖、生粋のホラーだ。

今作では人種問題をメインテーマとして物語が展開されていく。私たちの意識に隠れている差別や人種への偏見を顕在化していくプロセスそのものがこの作品であると言えるのかもしれない。

長らくコメディ界で活躍してきた(スケッチコメディ『Key & Peele』共同製作者)彼が新たな活動場所としてホラーを選んだのは長らくホラーファンであった彼がコメディとホラーに見つけた共通点によるものがきっかけだろう。
 良いホラーとコメディは常にとても現実的です。いくつか捻じ曲げたルールがあるかもしれませんがあくまでもそれは現実の世界であるという感覚を保ち続けさせること。登場人物たちが現実では絶対取らないだろうという行動を組み込んだ瞬間に観客たちの心をなくします。 *1

ロマン・ポランスキー監督『ローズマリーの赤ちゃん』の撮影現場近くで育ったという(のが関係あるかはわからないが_根っからのホラー好きである彼が特に今作への影響としてブライアン・フォーブス監督の『ステップフォードの妻たち』を挙げている。
  これらの作品が自分の潜在的なところに残りそれが感覚や夢となって出てきたものの周りに意味を構築して映画にしたという感じです。特にこの二作は観客たちに「主人公はパラノイア(妄想癖)なのでは?」という疑問を浮かばせる点でとても参考になりました。私も全く同じ方法を今作で用いています。人種問題とどう向き合っていけばいいのか。自分自身ひとりの黒人男性として時々日常の中で普通の会話なのかなにか皮肉っているのか、わからなくなります。ないところにあるものを見出してしまうその感覚に注目していきました。*2, 3

今作は彼自身と近い関係にある設定であり、彼が体験したことのある恐怖、自分が深いところで抱えている恐怖と向き合っていく必要があった。恐怖はただ怖いという感覚的なものではなく、私たちが自分の知り得ない範囲で思ったり感じたりしている潜在的な思いに追求していくものであるのだろう。
  ホラーでは恐怖の元、始まりがどこにあるのかを理解している必要があります。これはコメディでも同じです。私の場合はアウトサイダーであることの恐怖からはじまり、そこから本当の恐怖は「人種問題」にあるということに気づき始めます。*2

ホラーと共に育った彼が一番恐れるというもの、それは「人間」であり、集団になった時に可能になる社会だと述べている。
  私たちが生まれつき持っている悪魔のような存在が思想や関係性に編み込まれています。一作ごとにそれぞれ社会に存在している私たちが作り出した悪魔的存在をテーマにしていきたいと思っています。今作では人種、無関心、そして疎外化について描きました。人間が集まってできてしまうこと、「社会」が一番のモンスターかもしれません。*1,2

コメディで学んだセンス、常に地に足がついて現実であること。ホラーとの共通点でもあるこのコンセプトを持つ今作『Get Out』は思わず笑ってしまう真面目さとリアルな感覚を持ちながらも私たちの見て見ぬ振りをする恐怖や偏見に迫っていくのだろう。2月24日アメリカ公開。

Get Out

*1 Jordan Peele on a Truly Terrifying Monster: Racism

*2 Jordan Peele explains why his horror movie about racism is what we need in the Trump era

*3 Jordan Peele Talks ‘Get Out’ And His Love For Horror Movies

mugiho
好きな場所で好きなことを書く、南極に近い国で料理を学び始めた二十歳。日々好奇心を糧に生きている。映画・読むこと書くこと・音楽と共に在り続けること、それは自由のある世界だと思います。


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