『20th Century Women』訳して「20世紀の女性たち」となるこのタイトルの監督マイク・ミルズはこの作品は自分を育ててくれたすべての女性たちへのラブレターだと述べている。前作『人生はビギナーズ』では母親の死後、ゲイであるとカミングアウトした父親とその家族や友人たちの関わりを描きクリストファー・プラマーをアカデミー賞助演男優賞へ導いた。今作品は女性にフォーカスした作品とあって、Alliance of Women Film Journalistsの主宰するEDA賞やWomen Film Critics Circle Awardsなどへの女性たちが活躍する賞の数々にノミネートされている。同時に先日発表されたゴールデングローブ賞、オースティン映画批評家協会賞、NPO団体Film Independent主催のインディペンデント系映画対象のインディペンデント・スピリット賞にもノミネートされている今年注目作品だ。

1979年のサンタバーバラを舞台に世界恐慌時代生まれのシングルマザーに育てられたティーンエイジャーのジェイミー、そして母親を含めた彼を取り巻く女性たちを描く。母親役にアネット・ベニング、ジェイミーの母の持つ大きな家の一部屋を借りるアビー役(ジェイミーの姉的存在)にグレタ・ガーウィグ、ジェイミーの親友ジュリー役にエル・ファニングだ。彼女たちがジェイミーの人生に何を置いていくのだろうか。

今回の長編新作では彼の人生へ影響を与え続けてきた女性たちを描きながらどのようにして自分の個人的な体験を映画という媒体へ変換し、そして観客に「価値のあるもの」として観てもらえるかということを追求した。

元々はマルチメディアアーティストとしてCDのジャケットやスケボーのデザイン、またミュージックビデオやコマーシャルなどの監督として活躍していた。彼は「映画監督」としてよりもより「アーティスト」としての色が濃い。
 「私は70年代にハンス・ハーケを師としてコンセプチュアル・アートを学びました。彼はいつも“どんな媒体とも相容れるな”と言っていました。つまりそれはもっと自分のアイディアと観客との関係性にフォーカスしろ、ということだったのです。アートスクールに行っていた時、映画上映会サークルというのがあって毎週金曜日に集まって映画を観るんです。アートスクールで上映する映画といえばアラン・レネ、フェデリコ・フェリーニ、フランソワ・トリュフォーにジャン=リュック・ゴダールでした。それらのヌーヴェルバーグを代表する監督たちが私のインスピレーションとなっています。」 *1

これらは彼の映画スタイルに大きな影響を与えている。今作品は5人の違う主人公たちが順番に次に起こる物語をそれぞれの視点から語っていくというスタイルをとっている。インタビューではナレーションの使い方やフレーミングについて次のように述べている。
 「意図的に伝統的なプロットや型を避けていました。なぜならこの物語はそれぞれ独立したひとりの人間のポートレートのようなものだから。そして現代の多くの映画は主人公たちを不自然な形で成長させたり人生にあまりにもたくさんのドラマを盛り込んでいきます。でも私が作ろうとしているのは自分の人生にいる実在する人たちから見て聞いて感じた物語。その形に適応するのには過去と現在の行き来や典型的な映画の撮り方ではダメです。自分の伝えたいことに合った型を構築する必要があるのです。」 *2

自分の個人的な体験を物語のベースにしていくという点では記憶の在り方、個人的なものをどう物語として語っていくか、そしてそれらを表現する方法については自分なりの「形」というものにこだわりを貫いている。

作品で様々な媒体を混ぜていることについて:
 「作品の中で多くの文学やアート作品に言及しているのはそれらの文化や背景というものが自分のアイデンティティの物語を構築していてこの媒体が“自分の生きている世界って?”という語り口をサポートする。そこからもっと個人的で深いところまでいくと“自分はその世界で何者なんだろう?”ということを聞き始める。前までの作品ではこのような“自分の物語をどのように作り上げていくのか”ということにフォーカスしてきました。今回はこれを踏まえたうえでそこからの他者との関係性について描いています。」 *2

『人生はビギナーズ』の制作を通して記憶というものがいかに小説化さているかということに気づいたと話していましたが今作品でも似たような体験がありましたか。
「私は今も記憶というものが本当にあてにならないものだと思っています。記憶は変化し、移動していくもので、実際私と姉二人たちとの間で同じ出来事なのに全く違う印象や物語を持っていたりということがよくあります。でも私はその間違いだらけの堕落したものを楽しんでいる。記憶にピュアなものなんてなくて、事実というものもない。そしてそこに何か甘苦くて美しいと感じるものがあると思っています。」 *1

記憶の詳細について:
 「自分の覚えている記憶の正否はともかく、できる限りそれらの詳細を思い出そうとします。いつも自分の人生から物語を作るわけではないけど自分の生活を具体的に再現できればできるほど作品に惹きつける何かがでてくる。母がセーラムのタバコを吸ってビルケンシュトックのサンダルを履いていたとか。そんな意味のないような細かいところをしっかりさせていくということ、それには何かとても深いものがある気がします」 *1

個人的な体験から物語を作っていくことについて:
 「自分の人生について話すとき、ただいいところばかりを切り抜いていくということはできない。自分の迷いや弱み全てを映し出さないといけなくて、それが映画の魅力となる。そうすることによって他の人たちにとって価値のあるものになると思っています。脚本を書いている間はどの記憶なら、どの出来事なら他者に何かが伝わるかということを考えています。なぜなら回想録は作りたくないから。これをただの個人的なものとして作るのではなくて自分の個人的な体験を材料にして観る人たちのために“良い映画”を作りたいと思っています。」 *2

常に「自分」と向き合いながらもアーティストとしてそれを「観る人たち」とつながっていることを忘れない彼の映画スタイルはこれからどんなストーリーを語っていくのだろうか。アメリカで今月20日から公開予定。

20th Century Women

*1 Interview: Mike Mills on 20th Century Women, Memory, and Collaboration

*2 ’20th Century Women’ Director Mike Mills On Honing Material From His Own Life: “I Don’t Want To Make A Memoir”

mugiho
南極に近い国で料理を学ぶ二十歳。日々好奇心を糧に生きている。映画・読むこと書くこと・音楽と共に在り続けること、それは自由のある世界


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