全編3Dで製作されたヴィム・ヴェンダース監督の最新作、Everything Will Be Fine(2015・原題)のワールドプレミアが、ベルリン国際映画祭で行われました。この映画は、不慮の事故で子供の命を奪ってしまい、自分を許すことができない主人公(ジェームズ・フランコ)が、過去と向き合い、痛みにたえながら人生を歩んでいく姿をえがいた作品です。ストーリーからわかる通り、この映画は、3Dがアトラクション効果をもたらすようないわゆる派手なアクションや特殊効果が満載のファンタジーではありません。ヴィム・ヴェンダースは、あくまでドラマの登場人物のキャラクターの感情を表現するために、3Dを使用したのです。(*1)

もともと3D技術のポテンシャルに敏感だった監督は、2011年にドキュメンタリー映画「Pina / ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」で振付師であるピナの情熱的なダンスをスクリーン上でより忠実に表現するために、初めて全編3Dで製作を行いました。この作品の撮影の中で彼は、ダンサーのポートレイトのクローズアップに新たな可能性を感じたと言います。「3Dで撮影した彼らの顔のアップをみて、鳥肌がたちました。それは、とても人間的で、リアルで、パワフルで、より間近に感じられたのです。私は、この新しい言語で語られる物語が、より実存的な方法で、観客の心にまっすぐに届くと確信しました」。(*2)

そして、感情表現としての3D技術に着目して製作されたのが、このEverything Will Be Fineです。「クローズアップのショットにおいて、3Dは2Dとは全く異なる役者の存在感を作り出します。それは、そこに映る全て、人物の感情までもを、際立たせる拡大鏡のようです」。(*3)

The Hollywood Reporterのインタビューでは、「多くの観客にとって、なぜあなたが伝統的なドラマ映画を3Dで撮ったのか理解しがたいでしょう」という厳しい指摘もされました。しかし監督の答えからは、この作品への自信がうかがえます。「3Dは、2Dの映画とはまったく異なる方法で物語を描くことが可能です。この作品において、私は撮影、編集、役者の見え方の全てにおいてこれまでと違う方法をとりました。クリエイターも、観客も、この映画を通じてそれまでとは違う体験をします。そう考えると、従来のドラマ映画も、まったく新しいものになると思いませんか?それを証明するために、この映画を撮りました。もし、映画製作において新しい発見ができなくなったら、それは私が監督業をやめる時です」。(*4)

ヴェンダースは、大がかりなスペクタクルのための道具として3Dを使っているハリウッド・スタジオを批判してきました。彼は、3Dは非現実的な特殊効果をもたらすためのものではなく、もっと現実的で人間的なものだと主張します。「私たちは、ついに、3D技術によって、実際に2つの目で見ているのとほとんど同じように、スクリーン上のできごとも認識できるようになりました。しかし、3Dを使ったハリウッドの商業映画の内容は、私たちの普段の生活にまったく関係がありません。それらは、人工的な作り物を見せるためにしか3Dを使っていないのです。私はそういった映画が、人々が3D効果を通じた人間的経験をする機会を奪っていると感じます」。(*5)

「アバター」(2009)、「ライフ・オブ・パイ」(2012)、「ゼロ・グラビティ」(2013)と進化をとげてきた3D映画は、ヴィム・ヴェンダース監督のEverything Will Be Fineによって新たなステージに向かうのでしょうか。残念ながら、現段階では日本公開未定ですが、ぜひとも劇場で、3D映画の新たな可能性を実際に体験したいものです。

*1, 3
The Guardian ‘Wim Wenders: 3D is like a magnifying glass’
http://www.theguardian.com/・・・/wim-wenders-3d-berlin-film・・・
*2, 4, 5
The Hollywood Reporter ‘Berlin: Wim Wenders on How 3D is Drowning ‘in a Lack of Imagination’ (Q&A)’
http://www.hollywoodreporter.com/・・・/berlin-wim-wenders・・・
掲載画像
http://www.revistacodigo.com/las-peliculas-mas-esperadas・・・/

担当:北島さつき(久々に記事を投稿させてさせていただきました。現在、イギリスでFilm studiesを学んでいます。いつか、イギリスならではの情報も発信できればと思っています。よろしくお願いいたします。)


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