“L’ACID”という名のフランスの独立系映画配給組合のことをご存知だろうか。
 今、アンスティチュ・東京にて、アンスティチュ・フランセ日本とカイエ・デュ・シネマ誌が提携して選りすぐりのフランス映画を紹介するイベント、第18回『カイエ・デュ・シネマ週間』が開催されている。(*1) そこで、『プティ・カンカン』(14)で一躍時の人となったブリュノ・デュモン監督作品や彼の敬愛するジャン・エプスタン監督の作品と共に、三つの独立系映画が上映される。
 ジン・カレナール監督の『ドノマ』(2011)、オレリア・ジョルジュ監督の『少女と川』、ヴィルジル・ヴェルニエ監督の『メルキュリアル』(2014)の三作品である。これらの耳慣れない三つのインディペンデント作品を擁護し、配給などの援助を行ったのが、他でもない“L’ACID”なのであるが、一体“L’ACID”とはどんな組織なのか?槻舘南菜子さんによる、オレリア・ジョルジュ氏へのインタビューをもとに、簡単にご紹介したい。彼女は、今回上映される『少女と川』(14)の監督でもあり、現在組織の共同代表でもある。尚、このインタビューは「NOBODY」次号に掲載される予定だ。
 L’ACIDは、1991年に、巨大資本の投入されたパテ社やゴーモン社などの大手チェーン配給の作品がスクリーンを占拠していることに異を唱えた約180人もの独立系映画監督が、「抵抗」のマニフェストに署名をしたことから始まっている。彼らは、独立系作品の居場所を取り戻すために組織を形成、拡大していった。
 
 そして、独立系作品が“普通に”配給されるため、つまり誰もが作品にアクセスできるように、大都市だけでなく小さな街でも持続的に見せる場を作るために、92年にL’ACIDが設立される。翌93年から、カンヌ国際映画祭で監督週間・批評家週間に次ぐ併行部門としてプログラムを組み、彼らが擁護する作品を世界へ紹介し続けている。現在に至るまで、ドキュメンタリー、フィクションなど450本以上の作品の劇場公開、海外配給に成功しており、2012年には20周年を記念してシネマテーク・フランセーズでレトロスペクティヴが開催され、そのプログラムには、ブリュノ・デュモン、アラン・ギロディーなど、現在のフランスを代表する作家が名を連ねている。
 
 国内、国外での配給会社の手配、外国の映画祭上映の実現を目的に、数多くの映画祭と提携をしているL’ACIDだが、なかでもカンヌのL’ACID部門(200〜300本の中から9本を選出)は、彼らが擁護する作品の重要なショーケースとして機能している。監督週間や批評家週間週間とは異なった、より自由で、小さな作品のための部門と言えるだろう。自国の映画に限らず、外国作品の配給援助にも非常に積極的で、今やベルギーやアルジェリアなどの外国作家にも必要とされる存在となっている。(因みに、カンヌのセレクションは国籍の所在や共同製作かなどに関係なく作品を募集しているにもかかわらず、日本映画は未だかつて一本も送られてきたことがないそうだ。)
 
 現在、組織はCNC(フランス国立映画センター)やUnifranceなどからの出資と、数名のスタッフと多くのボランティアによって運営がなされている。複数の独立系配給会社との提携と、300を超える独立系映画館との長年のパートナーシップを基盤に、毎年、20本〜30本の作品がL’ACIDの援助により劇場公開され、そのほかにも国外での特集上映や、独立系映画館でのL’ACID作品の再上映も行われている。また、必ず上映後に映画製作者と観客とのディスカッションの場を設け、毎年300以上の上映後のレクチャーやシネコンサートを実施。シネクラブ文化の継承を担っている。
 映画製作のための様々な金銭的援助が、ほかの国と比べ比較的充実しているフランスでさえ、若い作家たちを取り巻く環境は決して楽ではない。商業的な映画とは異なった、インディペンデント映画の重要性を取り戻すために、常に戦い続けなければならないとジョルジュ氏は述べている。監督たちの怒りから生まれたL’ACIDという組織は、これからも世界中の映画監督へ手を差し伸べ、独立系映画の可視性に関する問題に、真っ向から立ち向かい続けるだろう。
 『少女と川』と『メルキュリアル』は2/8(日)と3/14(日)に、『ドノマ』は3/15(日)に上映される。2/8(日)の『メルキュリアル』の上映後には、ジャン・セバスチャン・ショーヴァン氏(「カイエ・デュ・シネマ」編集委員、映画監督)と、松井宏氏(映画批評、翻訳)の対談が予定されている。
 日本に居ながら、刺激的な最新のフランスインディペンデント映画に触れることができる数少ない機会である。
この週末、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。
松崎 舞華
(IndieTokyo初投稿になります。どんどん世界中の刺激的な出来事を取り上げていきたいと思います!よろしくお願いします!)
(*1)http://www.institutfrancais.jp/…/events-m…/cinema1502010315/


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