[426]「「これは私にとっての真実なの」―アンドレア・アーノルド監督作品『アメリカン・ハニー』


 

 今年5月に開催された第69回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した、アンドレア・アーノルド監督作品『アメリカン・ハニー(原題)』(American Honey)が9月30日よりアメリカで封切られ、再び注目を集めている。

 

 本作はアーノルドの長篇第4作目にあたり、同映画祭では『レッド・ロード(原題)』(Red Road, 2006)、『フィッシュ・タンク』(Fish Tank, 2009)に続く3度目の審査員賞受賞となった。映画祭中は、マーレン・アーデ監督『トニ・エルトマン(原題)』(Toni Erdmann)*1とともに、女性監督作品であること、そして奇遇にも2時間42分という同じ時間―その長さもまた関心を得たが―を有することで話題となった。

 

 %e3%82%a2%e3%83%a1%e3%83%aa%e3%82%ab%e3%83%b3%e3%83%bb%e3%83%8f%e3%83%8b%e3%83%bc%ef%bc%93物語の主人公はテキサス州に住む18歳の少女スター(サーシャ・レーン)である。彼女は崩壊した家庭を飛び出し、ある日たまたま出会った、雑誌のセールスをしている若者集団に加わることになる。彼女たちはバンに乗ってアメリカの中西部を旅しながら、昼は雑誌を売り、夜はパーティー三昧、という生活を送る。自分を取り巻く社会とうまく付き合えないティーンエイジャーが、旅回りの訪問販売通して人々と出会い様々な経験をする、若者のエネルギーに満ちあふれたロード・ムーヴィーだ。

 

 アーノルドは、このような題材を扱おうと思ったきっかけについて、2007年2月21日付けのニューヨークタイムズ紙*1で取り上げられた”mag crews”に興味を持ったことであると語っている*2。”mag crews”というのは、”magazine sales crews”の略で、家出をした若者の集団が週に6日、10時間から14時間もの間、雑誌の訪問販売をしながらアメリカ中をまわり生活するというものである。そこで彼女は実際にアメリカの中西部をまわりながら映画を撮ることを決意し、この作品に起用された多くの俳優に関しても、彼女がメガホンをとりながら旅をしている途中に出会った演技経験のない若者たちであった。

 

 %e3%82%a2%e3%83%a1%e3%83%aa%e3%82%ab%e3%83%b3%e3%83%bb%e3%83%8f%e3%83%8b%e3%83%bc%ef%bc%94主人公スターを演じるサーシャ・レーンとアーノルドの出会いはマイアミのビーチだった。当時テキサス州立大学の学生だったレーンに監督が声をかけたことが始まりだ。「私はアンドレア。映画を撮ってるの。怪しいとは承知の上なんだけど…。」自分に近づいてきたアーノルドがこのように言ったことだけを覚えているとレーンは振り返る。漠然としながらも彼女は直感的に「やります」と返事をしたそうだ。そしてレーンは撮影が始まって1週間が経過した時に、「この決断は正しいものであったと感じた」という。レーンは撮影が始まる前、マイアミのビーチにいた頃、言葉では言えない何かを探し求めていた。そして撮影が進む中で「正確には分からないけれど、これ[この撮影]が私の求めていたものだと感じた」のである。また、共に過ごしたキャストやスタッフとはとても親密であったという。「私はとても自由だった」と彼女は語った。*4

 

 アーノルドが初めてアメリカを舞台に1200マイルもの距離を実際に移動しながらまるでドキュメンタリーのように撮っていったこの作品は、だからといって「一つの真実となることは決してない」と彼女は言う。「真実というのは一人一人違うもの。私は人とは全く違うやり方でアメリカを経験した。だからこれは私にとっての真実なの。」*5

 

 現在のアメリカを背景に、一風変わったやり方で、エネルギッシュな若者たち、そして他者との出会いを描いたアンドレア・アーノルドの最新作、日本でも公開されることを願うばかりである。

 

 

 

アメリカン・ハニー』(American Honey)2016%e3%82%a2%e3%83%a1%e3%83%aa%e3%82%ab%e3%83%b3%e3%83%bb%e3%83%8f%e3%83%8b%e3%83%bc%ef%bc%92

監督・脚本:アンドレア・アーノルド

撮影:ロビー・ライアン

出演:サーシャ・レーン(スター)、シャイア・ラブーフ(ジェイク)、ライリー・キーオ(クリスタル)、アリエル・ホームズ(ペーガン)他

配給:A24フィルムズ(北米配給)、ユニバーサル・ピクチャーズ(世界配給)

公開:2016年9月30日(アメリカ)、2016年10月14日(イギリス)

 

 

*1 マーレン・アーデ監督『トニ・エルトマン』については、World News[384](http://indietokyo.com/?p=4527)で紹介。

*2 http://www.nytimes.com/2007/02/21/us/21magcrew.html

*3 http://www.rollingstone.com/movies/news/american-honey-inside-the-years-best-road-movie-w441936

*4 本段落の引用は全て以下から。http://www.indiewire.com/2016/09/american-honey-sasha-lane-interview-1201730629/

*5 本段落の引用は全て以下から。http://www.nytimes.com/2016/10/02/movies/american-honey-open-highways-free-spirits.html?_r=0


原田麻衣
WorldNews部門
大阪教育大学芸術専攻芸術学コース4年生。フランソワ・トリュフォーについて研究中。
フットワークの軽さがウリ。時間を見つけては映画館へ、美術館へ、と外に出るタイプのインドア派。


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