[384]「全ては人物から始まる」―カンヌを震わせた、マーレン・アーデ『トニ・エルトマン』


 

 

スクリーンショット (176) 先月フランスで開催された第69回カンヌ国際映画祭にて、マーレン・アーデ*1(Maren Ade)監督の『トニ・エルトマン』(原題:Toni Erdmann、邦題未定)が国際批評家連盟賞(コンペティション部門)を受賞した。

 結果的にパルム・ドールは逃したものの、批評家からの評価は非常に高く、「フィルムフランセ」誌の星取りでは3.0(4.0満点)の高得点、さらに、「スクリーン・インターナショナル」誌での星取りでは3.7(4.0満点)という過去最高点を記録し、注目を集めた。

 本作はアーデの長編第3作目(短編と合わせると5作目)となるが、彼女は長編処女作『The Forest for the Trees』(2003、日本未公開)で2005年にサンダンス映画祭審査員賞(ワールド・シネマ部門)を受賞、続く長編2作目『恋愛社会学のススメ』(2009)では第59回ベルリン国際映画祭審査員グランプリ(銀熊賞)を受賞、とかなりの実力派だ。また、本作は6/23から7/2にかけて開催される第43回ミュンヘン映画祭にてオープニング上映されることも決定している。

 『トニ・エルトマン』は、音楽教師である父親ヴィンフリードが愛犬の死をきっかけに、経営コンサルタントとして国際的に活躍し、疎遠になっていた娘イネスのもとを訪れるところから始まる。ヴィンフリードは娘の人生が彼女そのものを不幸にしているのではないかと心配し、そのことを確かめようとするのだが、その際かなり極端な手段を使う。それが、「トニ・エルトマン」という別の人物に変装し、娘のいるところに現れ、彼女を混乱させるというものだった。*2

 今回、作品の細かい内容とは別に話題となったことが大きく二つある。一つは、彼女が女性監督であるということ。もし単独でパルム・ドールを取れば、女性としては史上初の快挙だった(第46回のジェーン・カンピオン『ピアノ・レッスン』はチェン・カイコー『さらば、わが愛/覇王別姫』との同時受賞)。もう一つは、この作品が2時間42分にも及ぶ長編コメディであるということ。これは映画祭での上映後になされたインタヴューにも繋がることであり、そこには彼女の製作意図が大きく反映されているであろうから、もう少し掘り下げてみよう。

 「作品はいつも登場人物から始まります。」と彼女は言う。本作では「音楽教師であり、情熱的なジョーカーである父親ヴィンフリード」と「経営コンサルタントという父親とはかけ離れた人生を選んだ娘イネス」というのがまずあった。そして、「分かりやすい設定から始めること」と「父と娘の争いを描くこと」を念頭に脚本を書き始めた彼女だが、途中で自分が「複雑」で「重い」題材を扱っていることに気付いた。父と娘という「親子関係」は「一生続く」ものだからである。しかし、「トニに扮する父親をもつ」というある種の「ねじれ」が物語を「(重苦しいものとは)違った感情で満ちたもの」にした、と彼女は振り返る。今回彼女にとって重要となった「仕事」は、そのような一見複雑な問題を扱いながらも、この映画を「ユニークな物語」に仕上げることだった。*3

 その上で、この2時間42分という時間は必ず必要であった。アーデは言う。「これが正しい長さだと確信するために、作品を撮り終えてから3週間、編集室にいました。」*4そして、「おそらく、全ては登場人物から湧き上がる必要がある、ということもこの長さになった所以です。」*4と。

 このなるべくしてなった2時間42分という時間の中で、彼女はどのように「父と娘の争い」をユーモアたっぷりに描いたのか、そして、この作品を前にした私たちが何を感じるか、日本公開のその日が待ち遠しい。

 

 

『トニ・エルトマン』(Toni Erdmann)2016年ToniErdmann2

監督・脚本:マーレン・アーデ(Maren Ade)

出演:ペーター・シモニシェック(Peter Simonischeck)

     サンドラ・フラー(Sandra Hüller) 他

撮影:パトリック・オルト(Patrick Orth)

制作:Komplizen Film

 

 

 

*1 今回カタカナ表記は2011年に「三大映画祭週間2011」において『恋愛社会学のススメ』が上映された際に使用された表記、及び2012年にアメイジングD.C.により発売された同作品DVDにおいて使用された表記に倣ったが、2016年5月22日の「ニューヨーク・タイムズ」では「MAR-in AH-day」と発音が示されていた。

*2 http://www.telegraph.co.uk/films/2016/05/15/toni-erdmann-review—the-most-german-comedy-ever-made/

*3 本段落での引用は全て以下から

http://www.ooyuz.com/geturl?aid=11608937

*4 http://www.nytimes.com/2016/05/23/movies/the-director-of-toni-erdmann-savors-her-moment-at-cannes.html?_r=0

 


原田麻衣
WorldNews部門
大阪教育大学芸術専攻芸術学コース4年生。フランソワ・トリュフォーについて研究中。
フットワークの軽さがウリ。時間を見つけては映画館へ、美術館へ、と外に出るタイプのインドア派。


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