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作曲家のジェームズ・ホーナーが生きていれば、今年の8月14日に、63歳の誕生日を迎えるはずであった。2015年6月22日に、彼は、自身の名で登録されていた機体で単独飛行中に、カリフォルニアの北部に位置するロス・パドレス国立森林公園内で墜落事故を起こし、この世を去ったからである。当時、61歳であった。
1954年、ジェームズ・ホーナーは、ロサンゼルスで、ハリー・ホーナーとジョアン・フランケルの間に生まれた。父のハリー・ホーナーは、デザイナー兼アートディレクターとして活躍し、1949年の『女相続人』、1961年の『ハスラー』で米アカデミー賞を受賞している。彼は、ロンドンで育ち、5歳の時に、ピアノの稽古を始め、知識や技術を王立音楽大学で磨いた。1970年には、カリフォルニアへと戻り、南カリフォルニア大学で学士号を取得、その後、UCLAで音楽の作曲と理論の分野において、修士号と博士号を取得した。
生前、ジェームズ・ホーナーは、音楽の学者としてロサンゼルスにあるカリフォルニア大学で教鞭をとっていた。そして、作曲家として、数々の作品を手掛けてきた。映画『タイタニック』では、主題歌『マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン』を始めとして、その全編における映画音楽を担当した。同作は、米アカデミー賞で、歌曲賞と作曲賞を受賞している。しかし、それは、彼の100を超える作品の1つに過ぎない。『銀河伝説クルール』、『コクーン』、『コマンドー』、『ウィロー』、『フィールド・オブ・ドリームス』、『グローリー』、『ロケッティア』、『レジェンド・オブ・フォール/果てしなき想い』、『ブレイブハート』、『アポロ13』、『この森で、天使はバスを降りた』、『ビューティフル・マインド』、『スタートレック』シリーズにおける2作品などの音楽を作曲をした。さらに、ジェームズ・キャメロン監督とのコラボレーションでは、『タイタニック』の他にも、『エイリアン2』、『アバター』の音楽を担当した。

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ジェームズ・ホーナーは、この世を去る少し前に、いくつかの作品を遺している。アントワーン・フークア監督の作品群もそこに含まれる。『サウスポー』、そして、彼の最後の映画音楽となるであろう『マグニフィセント・セブン』である。『サウスポー』は、ボクシングの元世界チャンピオンが、亡き妻とひとり娘のために再起して再び試合に臨む物語であり、『マグニフィセント・セブン』は、1954年の『七人の侍』と、1960年の西部劇『荒野の七人』のリメイクである。
『サウスポー』は大作映画でないがゆえに、アントワーン・フークア監督は、ジェームズ・ホーナーへと支払う予算を持ち合わせてはいなかった。しかし、ジェームズ・ホーナーは、彼の映画を気に入り、作曲することを快諾している。以下は、アントワーン・フークア監督の言葉である。

「ジェームズは、驚くべき人間です。彼は真の映画製作者です。今まで出会った中で、最も親切な人間なのです。彼の話し方は、優しく、思慮深さを感じさせます。彼は魅力的でした。彼の眼には、子供のような驚きが宿っていました。彼は、素晴らしきアーティストであり、詩人であったのです。彼のことがとても好きで、友人となりました。ジェームズは、家族を持っていました。自分の子供を愛していました。彼は、映画(『サウスポー』)を観た後の土曜日に、私を呼びました。私は予算を持ち合わせてはいないと話しました。多額の予算を投じた映画ではなかったからです。彼は私にこう言いました。「この映画が気に入ったよ。父と娘の関係がとても好きだ。お金のことは心配するな。私は作曲を引き受けるよ。」そして、無償で作曲をしてくれたのです。彼は、自腹で自分の(音楽)チームにお金を支払ってくれました。彼のチームがここバトンルージュ(ルイジアナ州の都市)へと飛行機で訪れたことを知り、チームのメンバーは、『マグニフィセント・セブン』のすべての音楽を持ってきてくれました。ジェームズは、すでに脚本を基にして、作曲をしていたのです。」

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ジェームズ・ホーナーは、『マグニフィセント・セブン』の脚本からその音楽を作曲していた。そして、それは、アントワーン・フークア監督を驚かせるためであった。音楽チームのメンバーは、ジェームズ・ホーナーは、『マグニフィセント・セブン』の音楽をすでに書いており、出色の出来であると述べた。そして、自分たちにとって、そこには彼への追悼の意味があると。
アントワーン・フークア監督によれば、『マグニフィセント・セブン』において、ジェームズ・ホーナーによる多くの音楽を聴くことができるとしている。80編成のオーケストラで録音をした段階で、今年の4月の時点では、まだその多くの音楽は付与されていない状態であると話している。
さて、その音楽とはいかなるものとなっているのであろうか。アントワーン・フークア監督は、現代的なサウンドトラックであるとしながらも、ヒップホップのような音楽とは異なると述べている。

「ヒップホップのような音楽ではありません。つまり、現代的な音は、時折、低音域を担っているのです。オーケストラを用いていますが、それは、大きな部分で低音域となっているのです。その部分は、自分にとって、単なるヒップホップではないのです。多くの黒澤明の映画における大きな打楽器の音へ敬意を払おうとしたのです。最近、それは低音域と考えられています。ヒップホップ音楽では、それは土台となります。しかし、それは、実際にはティンパニーのようなリズムなのです。だから、私は、決して『マグニフィセント・セブン』にヒップホップの音楽を取り入れてはいません。しかし、そのスコア自体は、現代的です。80の弦楽器のオーケストラで録音をしているので、もはやそれ以上、多くにおいてその音楽に取り組んではいないのです。だから、世界で最も素晴らしいオーケストラの1つを座って、見ることに魅了されたのです。弦楽器と打楽器は、見ていて本当に素晴らしかったです。もはやそれ以上、(多くにおいて)その音楽に取り組みません。現代的な要素を加えたので、電子の音があります。電子とそれに類する音です。それは現代的です。それは、私が撮る映画と同じくらいに現代的なのです。西部劇にヒップホップを入れることはしていません。私は、その音楽がとても気に入っています。」

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先にも少しばかり触れたが、アントワーン・フークア監督は、ジェームズ・ホーナーが生前に、『マグニフィセント・セブン』の音楽をまだ書いているとは思っていなかった。そこでどのようなことが行われていたのであろうか。アントワーン・フークア監督の言葉からさらに詳しく探っていきたい。

「私は映画を撮っていましたが、彼が亡くなったとの電話をもらいました。それは、辛い日となりました。誰かと作曲家の話をするのは辛かったです。後の作曲家をどうするのかを考えていました。彼のエージェントであるマリア(・マチャド)と、30年間ほどホーナーと共に働いてたサイモン(・フラングレン)とジョーイ(・ランド)は、「あなたのところへ訪問させてください。ジェームズがあなたへ贈り物を遺しています。」と言ったのです。私は、それが(ジェームズ・ホーナーが所有していた玩具の)贈り物だと思っていました。ジェームズの家を訪ねましたが、世界中の素晴らしい玩具を持っていたからです。それは、美しい頭脳の中を歩いているようでした。それは、人生で見た最も素晴らしい光景だったのです。トルネードメーカー(竜巻を発生させる玩具)や1800年代の玩具を持っていました。それは、本当に素晴らしかったです。彼は映画に関するものをまったく持っていませんでした。アカデミー賞の品も、ポスターも。それは、すべて玩具であり、美しかったのです。彼は、飛行機が大好きで、天井に吊るしていました。因みに、それは序列を持って並んでいたわけではありませんでした。部屋という部屋が玩具でいっぱいでした。それは、何億ドルもの価値があったに違いありません。
贈り物とは、『サウスポー』の音楽を聴きに行った際に、そこで私に見せてくれた何かだと思ったのです。彼らは訪れて、「ジェームズがあなたのために脚本から多くの音楽を書き遺しました。彼は、あなたを驚かせようとしていたのです。」と言いました。私は感動してしまいました。「音楽をどのようにするのか?音はどのようにするのか?」について考えました。そして、彼らは、その音楽を私のために演奏してくれましたが、心を打たれました。それは輝かしかったのです。それは、天才による音楽のようでした。彼は、それを追い越そうとしていたからです。私たちは、その音楽をどのようにするかについて話し合いました。しかし、私は、彼が実際にその音楽を書こうとしていたこと、その音楽をオーケストラに演奏してもらうということを知りませんでした。それは、おおよそのことでした。この世を去ることは予測できません。もちろん、彼がそのことを知っていたかどうかは分かりません。しかし、それは、不思議な感じでした。自分の脚本へ音楽を書いてくれ、死後にそれを贈ってくれたのです。」

遺されたジェームズ・ホーナーの『マグニフィセント・セブン』の音楽を引き継いだのは、これまで数々の作品でジェームズ・ホーナーと共に仕事をしてきたサイモン・フラングレンとジョーイ・ランドを始めとするジェームズ・ホーナーの音楽チームである。彼らが、同作の音楽を完成させることとなっている。

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1960年のエルマー・バーンスタインによる『荒野の七人』の音楽には、映画を象徴するテーマ曲が存在するが、そのような具体的な点について、アントワーン・フークア監督は、ジェームズ・ホーナーと話し合いをしなかったと語っている。

「不思議なことに、私たちは、音楽についてジェームズと全体における多くの話し合いを持つことはありませんでした。ジェームズとの簡単な物語を話しますと、ジェームズは、いつも私が映画を製作すべき理由を話してくれていました。『サウスポー』を撮っている際に、彼の家へと行き、彼の部屋に入る前に、庭で立っていました。本音を言うと、私が不満を漏らしていたのです。7人の俳優、映画スターにかかる費用を得ることができませんでした。ハリウッド全体のシステムは、時折、大変なものです。西部劇を製作するにあたって、お金を稼ぐために、あるレベルの俳優を獲得しなければなりません。西部劇は(興行的に)酷いものだからです。私は、その時、(西部劇に)愛情を感じてはいませんでした。私は、デンゼル(・ワシントン)に出演してもらおうとしており、交渉の段階でした。ジェームズと座り、私は、「西部劇を製作するかどうか分からない。俳優に見合う額を得ようとしている大変な時期だ。などなど。」と言いました。彼は話し始めました。(カリフォルニア州の)カラバサスで唐突に、「カラバサスのこの場所で、かつて人々は馬に乗っていた。馬用の道があったのだよ。」と述べました。彼は、このことについて、詳しく話し始めました。もし、彼と出会っていたならば、痩せていて、言葉遣いを穏やかに話していたことでしょう。彼は、私を見て、「君はやるべきだよ。」と言ったのです。彼は続けて、「アントワーンは歴史を作るよ。君、デンゼル(・ワシントン)、クリス(・プラット)は、マグニフィセント・セブンだ。資金のことは気にするな。何であれ、工面しよう。しかし、君は、映画を製作しなければならない。君の人生において、別の西部劇を作ることは、たぶん2度とないだろうからね。君は、どのように製作するのかについてだけを考えてくれ。」と言ってくれました。私は、彼を見て、考えに耽る少しばかりの不思議な時間が流れました。「その通りだ。あなたは正しいよ。このことについて考えなければならないね。めそめそ言うのを止めて、どのように製作するのかを考えなければならないよね。」
その後、クリス(・プラット)とデンゼル(・ワシントン)に電話をして、「もし、製作するならば、ここで撮ることができる。もし、私がこれをするならば・・・」と言いました。それから、(プロデューサーの)ゲイリー・バーバーに電話をし、「もし、この条件で、この俳優たちに承諾させることができたら、月曜日までに返事をしてくれ。」と伝えました。そして、彼は、「その条件で、皆に承諾を得ることができたら、君に資金を用意しよう。」と言いました。皆は、承諾してくれました。しかし、映画製作へと導いてくれたのはジェームズだったのです。製作へ取り掛かかることを実現するということが考えにあったのです。製作について考え、めそめそするのを止めるためです。いかに大変なことであるかということから距離を置くことであったのです。それが、私たちが話したことです。それが、私たちが話し合いの中で進めたことです。私たちは、オリジナルスコアについて話しましたが、どのようにするかについては話していません。知っているのは、ジェームズは映画へ彼自身の創造性を取り入れるだろうということだけです。」

『サウスポー』において、ジェームズ・ホーナーは、無償で作曲するだけでなく、自腹で音楽チームへお金を支払ったエピソードからもその人柄が偲ばれる。また、彼は、サプライズとして、アントワーン・フークア監督の『マグニフィセント・セブン』のために、フッテージを観ることも、話し合いをすることせずに、脚本から多くの音楽を書いた。そして、彼がいなければ、アントワーン・フークア監督は説得を受けることなく、『マグニフィセント・セブン』の映画自体が撮られなかったかもしれない。
一方で、彼にまつわるのは美談ばかりでない。彼の音楽は感傷的であるとの指摘や、彼は自身の過去作から音楽を再び利用し、さらには、他の作曲家の音楽から同様のことを行っていたとの批判もあった。それらを肯定するわけではない。しかし、それらのすべてを含めて「ジェームズ・ホーナー」であり、これまでの彼の人柄や音楽が、映画の歴史や文化、そして個人に与えてくれたものの大きさは計り知れないこともまた事実である。

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参考URL:

http://nerdist.com/magnificent-seven-antoine-fuqua-james-horner/

http://www.slashfilm.com/the-magnificent-seven-trailer/

http://www.slashfilm.com/the-magnificent-seven-score/

http://www.nola.com/movies/index.ssf/2015/07/magnificent_seven_james_horner.html

http://www.christiantoday.com/article/the.magnificent.seven.news.director.antoine.fuqua.discusses.cast.diversity.and.james.horners.final.score/85032.htm

http://www.latimes.com/entertainment/movies/moviesnow/la-et-mn-james-horner-southpaw-chilean-miner-film-scores-20150623-story.html

http://www.classicfm.com/composers/horner/news/secret-score-magnificent-seven/#2UmgVoHpww1FftKP.97

http://www.nytimes.com/2015/06/24/us/james-horner-whose-soaring-film-scores-included-titanic-dies-at-61.html?_r=1

http://collider.com/antoine-fuqua-the-magnificent-seven-interview/

http://www.npr.org/2015/07/17/423899444/in-portrait-of-a-boxer-fuqua-takes-the-action-outside-the-ring?sc=tw

https://www.theguardian.com/us-news/2015/jun/23/pilot-killed-as-plane-registered-to-titanic-composer-james-horner-crashes

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


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