昨年日本でも公開されたオリヴィエ・アサイヤス監督の『アクトレス~女たちの舞台』の演技が高く評価されたクリステン・スチュワートがさらに活躍の場を広げています。現在アメリカで公開中のウディ・アレン監督最新作『Café Society』、ドレイク・ドレマス監督のSF映画『Equals』に主演、今秋にはアサイヤスと再タッグを組んだ『Personal Shopper』、ケリー・ライヒャルト監督の『Certain Women』、アン・リー監督の『Billy Lynn’s Long Halftime Walk』が公開を控えています。
スチュワートは現在26歳。彼女が8歳の時に学芸会の芝居を見たエージェントにスカウトされ、子役としてそのキャリアをスタートさせました。2002年にジョディ・フォスターの娘役で出演した『パニック・ルーム』(デヴィッド・フィンチャー監督)で注目を集め、08年の『トワイライト』とその続編シリーズの大ヒットでスターダムにのし上がります。そのキャリアを振りかえると、10代のころに若者向けの映画でアイドル的人気を博し、作家性の強い監督のシリアスな作品への出演で演技派への脱却を図るという、子役スターの成功例をなぞっているようにも見えますが、本人によればそのキャリアは決して計画的なものではないとのこと。
「もちろん良い映画をつくりたいし、素晴らしい人たちと仕事をしたいとは思っているわ。そして周囲からは私が名声を求めているように見えているということも認識している。でも私は自分のキャリアを意図的に築きあげてはいないのよ」
多くの俳優が出演を望み、実際にその出演女優が脚光を浴びることが多いウディ・アレンの作品に出演することに関しても想像もしていなかったことだといいます。
「私は彼の作品のファンだけれど、彼の映画に出る自分を想像できなかった。“いつかウディ・アレンと仕事がしたい”なんて一度も言ったことがないしね。だから『Café Society』に出演したことは夢の実現でも目標の達成でもなかった。自分がこの仕事をやり遂げられたことをいまだに驚いているくらいよ」

クリステン・スチュワートにインタヴューしたIndiewireのケイト・エルブラント氏は彼女に「役柄をどのように演じたのか?」という質問をしてはいけない、「Play(演じる、演技)」という単語も使わないほうがいいといいます。それは彼女の「Playという言葉は私にとってLie(嘘をつく)と同じように聴こえるし、私はそれとは逆のことをしたいと思っている」という発言を踏まえてのこと。
「何かを“演じる”ということは、何かを組み立てて、他者にあることを感じさせようとコントロールすることじゃないかしら。私は自分が何かを強制していると思いたくないし、もし私が誰かにそう感じさせてしまったらのならそれは失敗なのよ。俳優には自分の役柄に自身を没頭させようとする人が多いけれど、私は自分を失いたくない。自分を没入させたくないし、隠したくもない。私は私であることしかできない。“これは私じゃないの、これはそういうキャラクターなのよ”なんて言う女優さんがいるでしょ。でもその役柄はその人がある環境や出来事を解釈してできているわけで、それがあなたじゃないなら一体何者なの?って話よ」
彼女の意見に従うならば、1930年代のハリウッドを舞台にした『Café Society』で彼女に与えられた役柄ヴォニーもまた彼女自身だということになるでしょう。ニューヨークから夢を抱いてやってきた青年(ジェシー・アイゼンバーグ)と恋に落ちるヴォニーはハリウッドのきらびやかな魅力を避け、彼がそこに取り込まれそうになることを心配しますが、彼女自身がそのハリウッドの魔力に流されてしまいます。
「彼女(ヴォニー)は空虚さを抱えながらも、ハリウッドでの成功に引きつけられている。このビジネス(映画業界)はあまり高潔なものとはいえないけれど、本当に面白い人がたくさんいる。それは悪いことじゃないし、彼女の持つ二面性は心強いわ。あることに対してひとつの考え方しか持ってはいけないわけじゃないんだって思えるもの」

そんな彼女にとってもう1本の最新作『Equals』での仕事は非常にチャレンジングなものだったようです。日本でも撮影されたこの作品は、苦悩しないためにあらゆる感情が取り除かれた人間が生きる近未来で、突然性欲や恐怖や悲しみの感情にとらわれる障害に苦しんでいる男女が恋に落ちるSFラヴストーリーです。つまりここでは感情を見せないことが要請されるわけです。そのため監督のドレイク・ドレマスは撮影前、主演のスチュワートとニコラス・ホルトに互いの顔を1時間無言でじっと見続けるという訓練を課し、心が白紙状態であるとはどういう感覚なのかを考えさせようとしたそうです。スチュワートはこの撮影についてこう語っています。
「難しかったのは私たちが何から始めればいいのか、この作品の土台となるものを探すことだった。何も考えないという状態に近づけたとは思うけれど、私がうまくやらなきゃこの映画が台無しになってしまうんじゃないかって、おびえてしまった。どうすれば赤ん坊のような目で物事を見ることができるのかしら?」
ちなみにこの映画に限らず彼女が自分の仕事をうまくやれたと感じられるのはこんな時だそうです。
「目を開けていたら、そのシーンの撮影が終わっているの。そしてただこう思うのよ、“すごい、何が起こったんだか全くわからない。でもこれは自分の手柄じゃない。それはただ起こったんだ”って」

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http://www.indiewire.com/2016/07/kristen-stewart-woody-allen-cafe-society-interview-1201706272/

http://www.latimes.com/entertainment/movies/la-ca-mn-kristen-stewart-nicholas-hoult-equals-feature-20160713-snap-story.html

黒岩幹子
「boidマガジン」(http://boid-mag.publishers.fm/)や「東京中日スポーツ」モータースポーツ面の編集に携わりつつ、雑誌「nobody」「映画芸術」などに寄稿させてもらってます。


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