昨年9月、ベネチア国際映画祭で発表され、好評を博している『A Bigger Splash(原題)』。監督は、『ミラノ、愛に生きる』(09)のイタリア人ルカ・グァダニーノ。来る5月4日にはアメリカ公開を控えている。主演の女性版デヴィッド・ボウイのような風貌のロックスター、マリアンヌ(ティルダ・スウィントン)、コミカルで陽気な元恋人ハリー(レイフ・ファインズ)、その若き恋人のような愛娘ペネロープ(ダコタ・ジョンソン)、繊細で健康的な恋人ポール(マティアス・スーナールツ)。男女4人、舞台は太陽が照らすプールサイド、おまけにサスペンス…。そう、これは『太陽が知っている』(69)のリメイクだ。別離を選んだアラン・ドロンとロミー・シュナイダーの再共演や、当時殺人事件の重要参考人として事情聴取を受けていた、というドロンのまるで映画のキャラクターを地で行くような実生活も相まって大いに話題になった。アラン・ドロンの後任を務めたことに対してマティアス・スーナールツは、「オリジナルは観ていない、むしろ観たくない。彼はアイコンだ。届くはずがない。」と語っている。(*1)

 リメイクはオリジナルを超えられない。世間では大抵そう思われており、時に物議を醸す。しかしそうではないものも存在する。今回はフランス映画のリメイク作品について、Les Inrockuptiblesに掲載されていた特筆すべき4作品を紹介しよう。(*2)

 

1)『緋色の街/スカーレット・ストリート』(45)フリッツ・ラング

オリジナル作品:『牝犬』(31)ジャン・ルノワール

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 1930年代にハリウッドに迎えられたオーストリア出身のフリッツ・ラング。ハリウッドで活躍する傍ら彼の関心はいつも欧州にあった。そしてジャン・ルノワールの才能に憧れと嫉妬心を抱いていたのである。その言葉にできない複雑な思いを、リメイクという健全な形で表現したのが『緋色の街/スカーレット・ストリート』と『仕組まれた罠』(54)だ。『仕組まれた罠』のオリジナルはルノワール監督作『獣人』(38)なのだが、エミール・ゾラの同名小説を脚色したものとしての方が有名だ。対する『緋色の街/スカーレット・ストリート』は、ルノワールの『牝犬』に完全にインスパイアされたストーリーであり、会計係のまじめな男がある女性を、彼女が娼婦とは知らずに愛してしまう物語。同じくジョーン・ベネットとエドワード・G・ロビンソンを主演に迎えた先の作品『飾窓の女』に比べ、華やかさと精密さに欠けるものの、どこか幻想的な雰囲気を醸し出している。オリジナルのミシェル・シモンの評価を超えるのは到底不可能だが、リメイクとして申し分のない作品と言えるだろう。

 

 

2)『恐怖の報酬』(77)ウィリアム・フリードキン

オリジナル作品:『恐怖の報酬』(53)アンリ=ジョルジュ・クルーゾー

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 南米で爆発を引き起こす危険物ニトログリセリンをトラックで運ぶ男たちを描いたフリードキン監督の『エクソシスト』(73)後の作品。映画の内容同様、製作もまさにいばらの道だったという。スティーヴ・マックィーン、リノ・ヴァンチュラ、マルチェロ・マストロヤンニらが出演候補に挙がるも実現せず、ロイ・シャイダー、ブリュノ・クレメール、フランシスコ・ラバルとなる。撮影はドミニカ共和国のジャングル地帯で行われ、病気、遅延、予算超過という困難に見舞われた。悲壮感漂う映画の中さながらの凄まじい現場だったようだ。しかし、今となってはフリードキン最高の傑作と謳われる作品となったのは、アメリカ版の『Sorcerer』(=魔術師)というタイトル所以か。タンジェリン・ドリームがもたらす音楽と共にまるでマジックがかかったように、思わぬ報酬を得ることとなった。クルーゾー自身も認めざるを得ない、オリジナルを超えた数少ないのリメイク作品の一つである。

 

 

3)『ブレスレス』(83)ジム・マクブライド

オリジナル作品:『勝手にしやがれ』(59)ジャン=リュック・ゴダール

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 言わずと知れたヌーベル・ヴァーグを象徴する伝説的作品『勝手にしやがれ』。ジャン=ポール・ベルモンド演じるフランス人チンピラと、ジーン・セバーグ演じるアメリカ人留学生の自由でつかの間の恋愛模様を描いた斬新でスタイリッシュな作品だった。その約20年後に製作されたリメイク版は、舞台をアメリカ・LAに移し、リチャード・ギアが演じたアメリカ人のチンピラがヴァレリー・カプリスキー演じるフランス人留学生と恋に落ちるという真逆の設定、というだけの作品。これはゴダール作品のリメイクでも何でもない。単なる宣伝文句であり、ある種のオリジナルとも言える本作。プールでの『ナインハーフ』顔負けのラブシーンも、観客の目を釘付けにするほどではないだろう。

 

 

 4)『 12モンキーズ』(95)テリー・ギリアム

オリジナル作品:『ラ・ジュテ』(62)クリス・マルケル

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 モノクロの静止画で構成され独自の世界観を発信しているSF映画『ラ・ジュテ』。尺が30分ほどの短編映画で、多くの作品に影響を及ぼしている不朽の名作と言えるだろう。その語り継がれる作品に目を付けた奇才テリー・ギリアムが、悪魔的で、抑圧的で、不条理なカフカの作品のような要素をふんだんに盛り込み、新たな奇抜な世界を生み出した。サイケでマッチョのスキンヘッドが世界を救う、いつもの“ブルース・ウィリス映画”とカテゴライズされてるが、本作では彼独自のその異端な魅力をいかんなく発揮している。おふざけのようなブラッド・ピットの演技も忘れられない。

 

 

評価はどうであれ、“リメイクすること”は真似であり、賛辞であり、尊敬であり、愛である。


※冒頭に紹介した『A Bigger Splash』の日本公開は未定。

 

参考URL

(*1)http://www.premiere.fr/People/News-People/Matthias-Schoenaerts-Je-n-ai-pas-voulu-voir-La-Piscine-J-ai-honte

(*2)http://www.lesinrocks.com/2016/04/10/cinema/10-remakes-de-films-francais-geniaux-nuls-incongrus-11818486/

http://www.imdb.com/title/tt0038057/combined

http://www.imdb.com/title/tt0021739/?ref_=fn_al_tt_1

 

 

田中めぐみ

World News担当。在学中は演劇に没頭、その後フランスへ。TOHOシネマズで働くも、客室乗務員に転身。雲の上でも接客中も、頭の中は映画のこと。現在は字幕翻訳家を目指し勉強中。永遠のミューズはイザベル・アジャー二。


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