今回は、いつものニュースとは少し趣きを変えて、エッセイ風に書いてみようと思います。そしてこれは、国内でインディペンデントに映画製作や上映などに関わる人たちをメイン読者として想定した文章です。勿論、それ以外の方を排除する訳ではありませんが、その前提を了解した上で読んでいただけると幸いです。
10月中旬、京都と大阪に行ってきました。直前にポルトガルの映画監督ジョアン・ペドロ・ロドリゲス(彼の特集上映を2013年に私が日本で主催して以来の親しい友人関係です)(#1)からメールをもらい、いまフランスの若手映画監督で素晴らしい才能を持つダミアン・マニヴェル(#2)という人が日本にいるから会っておいた方がいいよ、と教えてもらったからです。
実は、海外の映画人も結構日本に来ています。自作の上映や映画祭ゲスト、海外映画祭のための作品セレクション、あるいはプライベートでの来日という形もしばしばあります。そして、彼らと話してみると、みな一様に日本の映画人と話したがっている。と言うことはつまり、わざわざ日本まで来てるのに、日本の映画人と交流する機会が彼らにはあまりないということです。ごく一部の同じ人たちばかりが、会って話したりすることになります。
しかし、それで良いのでしょうか?日本の映画人も国内や仲間内だけで自足していてはもう駄目だって、もはや明らかではないでしょうか。映画作家にとっては、自作を海外の観客に見せるチャンスとなるかも知れません。映画批評家にとっては、逆に取材するチャンスです。私は、もっと多くの国内映画人が海外の映画人とオープンに交流すべきだと考えています。私たちは、開かれるべきです。
とりわけ、大会社や公的機関に依存せずインディペンデントで活動する映画人にとって、これは死活問題でさえある。だって、お金の無い私たちの武器は、自分たちが作る作品、言葉、そして人間性や交友関係しかないのですから。そして、実のところ、映画の世界で何かを動かすのは、常にこうしたものだと私は考えています。私たちが思っている以上に、友達を作ることはこの世界でとても重要なのです。
海外の映画人と知り合いになるのに、海外に行く必要は必ずしもありません。いまでは、FacebookやTwitterなどがありますし、そこで知り合って個人的にメル友になる場合もあるでしょう。しかし、直接会って話す以上に友人関係を深める機会はやはりないと思います。さらに、マイクやカメラを間に挟んだ取材といった正式な場ではなく、プライベートな食事の席や飲み会では、メディア向けのパフォーマンスとは異なる、思いもかけない零れ話や映画への考えなどを聞くことができます。それは、とても楽しいものです。雑誌などに書くことはできなくても、絶対に私たちの生きる糧となります。
勿論、国内の映画人相手でもそれは同じことですが、生まれも育ちも背景とする文化も、見てきた映画も全く異なるような海外の映画人相手に話していて、思いもかけず映画観が一致したり、好きな映画が一緒だったとか、あるいは逆に新鮮な発想に驚かされたりとか、こうした体験は何にも変えがたいのではないかと私は思います。お金の問題ばかりに支配されがちなこの世界の中で、しかし、確かに映画の世界が存在すること、そしてそれが国境を越えて拡がっていることを感じることができます。
ダミアンは、これまで短編を数本、そして処女長編をこの7月に完成させたばかりの新人監督です。しかし、彼はそれらによって既にジャン・ヴィゴ賞やカンヌ国際映画祭批評家週間での賞、そしてロカルノ国際映画祭でスペシャル・メンションを受けています。いや、それ以上に、連絡を取って実際に作品を見せてもらったところ、これが本当に素晴らしかった。個人的には、もうずっと長い間見ることのなかった新たな才能であり大きな発見だと思いました。ものすごく輝きのある作品を作る監督さんだと思います。だからこそ、スケジュールを無理矢理空けて関西まで彼に会いに行ったのです。
ダミアンとは二日間一緒に過ごし、京都や大阪に住む映画人を紹介したり映画館を一緒に見に行ったりしました。彼にとっても過去最長だったという2時間のロング・インタビューもさせてもらいました。そして、今度は東京に来ることを決めたダミアン(彼は人混みが嫌いで、あまりこちらには来たがらなかったのです)と、今日このあとまた会ってくる予定です。
もちろん、海外の映画人と交流するには語学も必要です。とは言え、多少英語が喋れればそれで十分。映画という共通言語、共通の話題があり、映画についての自分の意見や考えがある。それは相手にとっても興味深いものなのですから。だから、自分の殻に閉じこもらず、仲間内で自足することを良しとせず、自分たちもまた相手への興味を持ち、それを言葉として相手に伝え、少しの勇気を持ってこうした交流の場所へと足を踏み出してみること。国境を越えた友人関係を作ろうと努力すること。それだけで、私たちの世界は大きく変わると私は思います。
そう。話は簡単。後は、実践してみるだけです。
大寺眞輔(映画批評家、早稲田大学講師、その他)
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