今年もアカデミー賞の時期がやってきたが、そのなかでも注目は『ルック・オブ・サイレンス』(ジョシュア・オッペンハイマー、2014)ではないか。ジョシュア・オッペンハイマー監督の作品は過去にも『アクト・オブ・キリング』(2012)がノミネートされたが、受賞には至らなかった。『ルック・オブ・サイレンス』は『アクト・オブ・キリング』の続編として制作され、同じくインドネシアの9月30日事件についてのドキュメンタリー映画となっている。『アクト・オブ・キリング』は事件の加害者にその様子を再演させる、という衝撃的な手法で様々な方面から評価を受けて数多くの賞を受賞し、多くの観客を得ることが出来た。『ルック・オブ・サイレンス』では、兄を虐殺された被害者側の視点から加害者たちの言動を見つめることになって行く。

しかし、『ルック・オブ・サイレンス』は興行的にはあまり成功しなかったようである。たとえばIndiewireによると「『ルック・オブ・サイレンス』は今年の夏に公開されたが、『アクト・オブ・キリング』の半分にも満たない10万ドルちょっとしか興行収入を得ることが出来なかった。このことは、観客というものは初めて公開されたときに作品を取り逃すことがよくあることを現している」*。何故、前作と違い『ルック・オブ・サイレンス』は多くの観客に受け入れられることが無かったのか明確な理由は分からない。それは、作風が大きく変化していること、あるいは過激な演出が1回目は興味をそそるものであったが、それ以上のものでは無かった、などなどいろいろと邪推することは出来る。まだ作品は多くの人に見られていないし評価は曖昧なままである。

しかし、劇場公開を終えて、より多くの人に見られる機会が出てきた。「喜ばしいことに、PBSはこうした間違いを書き換えようとしている。」*アメリカのPBSというテレビ会社が、この映画をアメリカの視聴者へときちんと届けるべく、POVという番組の中で『ルック・オブ・サイレンス』の放映権を獲得した。エグゼクティブ・プロデューサーであるジャスティン・ネイガンはこう述べる「『アクト・オブ・キリング』の続編として、『ルック・オブ・サイレンス』では一人の男が勇気を持って彼の兄を殺したものに立ち向かうことが、虐殺の真実を暴く重要なステップになっている。オッペンハイマー監督は、著しく個人的な物語が、深遠なまでに感動的な物語を通じて、普遍的な対話へとそれを開いて行きます。彼の最新作は高度なストーリーテリングの典型で、視聴者が私たちの番組に求めているものなのです。」*

 『アクト・オブ・キリング』だけが評価されるのではなく、『ルック・オブ・サイレンス』も広く見られることで、ジョシュア・オッペンハイマー監督の試みが一過性のものに留まらず、幅広い方法論で問題にアプローチしていることを理解してもらいたいとわたしは願う。

 

*http://www.indiewire.com/article/the-most-powerful-oscar-nominee-you-probably-havent-seen-will-air-on-pbs-for-free-20160212

三浦翔
アーティクル部門担当、横浜国立大学人間文化課程4年、映画雑誌NOBODY編集部員、舞踏公演『グランヴァカンス』大橋可也&ダンサーズ(2013)出演、映画やインスタレーションアートなど思考するための芸術としてジャンルを定めずに制作活動を行う。


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