[054]デジタル時代の映画脚本術


 アメリカ人はフォーマット作りが得意です。ベースとなるフォーマットをまず作り、その上で個人が自由に想像力を羽ばたかすことができる、そうした環境作りを進めるのが、アメリカ的なものの考え方の基本にあるように思います。

 もちろん、フォーマットというものは時にフォーマルでありすぎます。堅苦しく感じる。映画を見る人間/作る人間は直感的な把握を好む場合が多く、こうしたフォーマット作りはしたがってあまりウケが良くありません。とりわけ日本では、むしろ積極的に嫌われたり馬鹿にされる場合も多いように感じます。しかし、そればかりではありません。長年にわたってルーカス・フィルムやピクサーなどで脚本コースの教師を務め、「Screentakes」(#1)というサイト主催者でもあるジェニーヌ・ラヌエットは、映画業界が長年使用してきたフォーマットが酷く退屈であることにも理由があると述べています。(#2)

 因習的ドラマ構成が多く、コミックの映画化や実話ものばかりが横行するハリウッドに対して、インディペンデント映画の製作者は、本来コマーシャリズムから離れた様々な実験が可能な場所である筈です。ところが、そうした場所でこそ映画脚本の問題があまり語られない、脚本で実験することの意義が正当に受け止められていないと彼女は言います。これは、シド・フィールドの脚本術(#3)であれ何であれ、つまりは従来の映画脚本コースが三幕構成を基本にした古き良きお馴染みの枠組みでしかなく、それ以外はノイズとして自らの責任と感性のもと勝手に冒険するか、あるいは何も考えないという選択肢しか存在しないのが原因であるとのことです。

 原稿を書くための装置がペンとノートのアナログからパソコンなどのデジタルに移行したように、また、文章を読む媒体が活字からインターネット上のハイパーテクストに移行したように、映画脚本の創造術もデジタル時代のツールや想像力を活用すべきではないか、こうした提案こそがラヌエットの主張の本質であるように思われます。

 結局の所、物語とはAからBへの移行なのだ、と彼女は語ります。それをプロット構成の中で分析したのが古典的な三幕構成の脚本術である、と。しかし、実際には映画にはプロット以外にも重要な物語展開がある。それは、キャラクターと世界観だ、と彼女は言います。キャラクターもまた、映画の展開の中でAからBへと変容していく。そして私たちの世界観、あるいは映画作家が私たちに見せようとする世界の姿も、AからBへと映画の展開の中で変化していく。そして、これらはいずれも等しく重要であり、他の二つと密接に関わり合いながら一つのストーリーを編み上げて行くのです。

 私たちは、この三つのいずれから出発しても良い。そしてその他二つの要素とどのように連関していくか、どのように刺激し合い、どのポイントで変化を遂げ、具体的な場面を作り上げるかによって、創造的な脚本が無数のバリエーションとして生み出されていくのだと彼女は主張します。ここで、とりわけ世界観の変容を脚本構成の大きな要素として彼女が指摘しているのは、大変興味深いと思います。アメリカ的な脚本創作術とは無縁に作られたように見える、ある種の日本映画を分析する際にも、これは非常に有効な考え方ではないでしょうか。

 この三つのプロセスのダイナミックな連関は、アナログ的・単線的な思考ではとらえにくいものです。したがって、実際のところ、真にオリジナルな脚本創造では無意識的な作業こそが重要になると彼女は指摘します。しかし、その無意識的な作業もまた、デジタル的アプローチによってより深く開拓できるのではないか。単に感性の飛躍に任せるのではなく、ある種のデジタルな、あるいはハイパーテクスト的なフォーマットやツールをそこに導入することができるのではないかと彼女は主張します。ストーリーを構成する多重のレイヤーを一気に見通すためのデジタル時代のツールが必要であると。その目的のため、ラヌエットは「Meditation on Character, Action and Theme(キャラクター、アクション、テーマのためのメディテーション)」と名付けた立体的でインタラクティブなチャート(#4)を発案し、それを映画脚本の創作に活用することを勧めています。

 現在、ラヌエットは映画脚本術を解説したeブック作りを進めており、そのためのキックスターターキャンペーンを行っています(#5)。上記チャートのインタラクティブバージョンは、そのキャンペーンのキックバックとして資金提供者に対し配布されるとのこと。興味を持たれた方は、チェックして見るのも良いのではないでしょうか。経験が重要であり、感覚的に全体を把握するしかないとされてきた複雑な創作の世界でも、こうしたデジタル時代の新たなフォーマット作りを進めようとする試みは、とても興味深いものだと思われます。

大寺眞輔
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#1
http://www.screentakes.com/
#2
http://filmmakermagazine.com/86203-on-finding-new-screenplay-structures-for-independent-films/
#3
http://ja.wikipedia.org/wiki/シド・フィールド
#4
http://static.filmmakermagazine.com/wp-content/uploads/2014/06/Meditation-Chart-2014-Screentakes2-01.jpeg
#5
https://www.kickstarter.com/projects/jenninelanouette/screentakes-media-rich-ebooks-on-screenplay-analys


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