[299] リンクレイターが語る、映画体験のいま


皆さんは「Austin Film Society」(オースティン映画協会、以下AFS)という組織のことをご存知でしょうか? AFSは1985年に映画監督のリチャード・リンクレイター、撮影監督のリー・ダニエル、「サウス・バイ・サウスウエスト」(毎年オースティンで開催されている音楽祭&映画祭)の創始者のひとりであるルイス・ブラックらによって設立された非営利団体で、映画の上映活動、地元の映画作家たちへの助成、映画スタジオ(オースティン・スタジオ)の運営などを行っています。もともとはリンクレイターらが自分たちが観たい映画を上映しようという動機で始まったAFSは、数々の特集上映、レトロスぺクティブなどを企画しながら、これまでに約2000本以上の作品を上映してきたといいます。例えばクエンティン・タランティーノがプログラミングを担当し、自身が所有するフィルムを上映した「QT-Fest」(クエンティン・タランティーノ映画祭)などもAFSが主催して実現したものです。
そのAFSが先週から創立30周年を記念した上映イベント「30 Years of AFS」を開催しています。このイベントではこれまでAFSで上映してきた作品の中からリンクレイターが選んだ6本の作品――『男性・女性』(ジャン=リュック・ゴダール監督)、『忘れられた人々』(ルイス・ブニュエル監督)、『スリ』(ロベール・ブレッソン監督)、『Bildnis einer Trinkerin (Ticket of No Return)』(ウルリケ・オッティンガー監督)、『ニューヨーク・ニューヨーク』(マーティン・スコセッシ監督)、『儀式』(大島渚監督)――が35㎜フィルムで上映されるとのこと。[*1] 今回はこの上映イベントに際してIndiewireに掲載されたリンクレイターのインタヴュー記事[*2]をご紹介したいと思います。その記事で中心となっている話題は、AFSで数々の名作をフィルムで上映する機会を設けながら、自身の映画を作り続けてきたリンクレイターが、30年前とは大きく変わった現在の映画をめぐる環境、映画を観るという体験についてどう考えているかというものです。
「30年前、私たちは映画を観ることで成長した。そこにはあらゆる映画を観ること、あらゆる映画を観る能力を持とうとするシネフィル的な探求心があった。ビデオでは観られない作品も多かった。その後多くの作品がDVDになり、今ではほとんどの映画を観ることができるようになった。だから今はほとんど全ての映画を様々なフォーマットで観ることができるようになったのに、その中からずっと探し求めていた映画を見つけられないという苛立ちが存在していると思う。つまりずっと探し続けていた本当に観たい映画を除けば、あらゆる映画は視聴可能という状況。僕自身はこの状況を楽しんでいるけどね。ホームシアターの設備もすごいやつを持ってるし、それで楽しんでいるよ。でもそれ以上に楽しいのは2、300人の観客と一緒に35㎜プリントでこういった(「30 Years of AFS」で選んだような)作品を、暗い劇場の中で一体感を感じながら観ること。それはこれからも絶えず重要な体験であり続けると思う」
「少し前に“ああ、フィルムの時代が終わってしまう”といった(悲観的な)論調が過熱したことがあったけど、私はそうは思わない。私の映画がニューヨークやロサンゼルスで公開になった時、その作品がオハイオであるとか他の小さな町に行くことはなかった。でも私自身は何の映画もかからないような町に住んでいた。映画を観るためには車で70マイルも移動しなければならなかった。それが全世界どこにいてもボタンを押せばすぐに観たい映画を観れるようになるなんてクールじゃないか。いろんな選択肢がある都会に住んでいると忘れがちになってしまうが、選択肢を持てない人々はたくさんいる。だから自分に一番合った視聴環境で観てもらえればいいと思う。(中略)『スキャナー・ダークリー』を作った時、私はこんなことを言っていた。“この作品は劇場で観て欲しい――でも深夜2時に誰かの家で見られることになるだろう”ってね。それもまた映画のひとつの側面だ。あの作品が公開になった当時にもっと複合的なフォーマットで観ることができればよかったとも思う」
このように、このインタヴューでは映画の視聴環境の変化を楽観的に受け入れ、その中で自分が観たい映画を観るには、自分が作った映画をより多くの人に観てもらうにはどうするべきかを最優先に考えるリンクレイターの姿勢が窺えます。そして、こうした映画を観る上での柔軟な思考は、実写映画にいち早くロトスコープを取り入れた『ウェイキング・ライフ』や『スキャナー・ダークリー』、あるいは同じキャストで12年間をかけて一人の少年とその家族の変遷を描いた『6才のボクが、大人になるまで。』といった彼自身が作ってきた作品にも通底しているのではないでしょうか。
ちなみに、Indiewireでは「30 Years of AFS」で上映される6本の作品についてリンクレイター自身が解説している記事[*3]も掲載されていますので、お時間のある方は読んでみてください。

*1
https://www.austinfilm.org/retrospectives-and-themed-series/series-essential-cinema-30-years-of-afs-programming

*2
http://www.indiewire.com/article/richard-linklater-on-the-promising-future-for-film-distribution-20151105

*3
http://www.indiewire.com/article/richard-linklater-on-6-essential-films-he-cant-wait-to-screen-20151103

エラー&リンクレイター

黒岩幹子
「boidマガジン」(http://boid-mag.publishers.fm/)や「東京中日スポーツ」モータースポーツ面の編集に携わりつつ、雑誌「nobody」「映画芸術」などに寄稿させてもらってます。


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