変革の起こし方 ~ハリウッドへの道、そしてその先へ~

今回のinside Indie Tokyoでは、『スター・トレック/宇宙大作戦』シリーズでおなじみ、ハリウッドで最も成功した日系人俳優といわれるジョージ・タケイ氏の6月5日の来日講演【後編】をレポートします!

イベント後半は、司会者との対談形式でジョージ氏がファンから寄せられた質問に答えていきました。

最初の質問は、「日系アメリカ人の運動が盛り上がっている60年代半ばに『スター・トレック』のような「多様性」がテーマの作品に出るのはどのような感じでしたか?また、何かアジア的なものを取り入れましたか?」というものでした。「アジア的なものと言えば、この顔こそ!(笑)でも、どこかの国に肩入れしたくはなかったので、役名の「スールー」はフィリピンの海からとりました。また「魔の宇宙病(The Naked Time)」 という回では、作家に侍の刀を振り回すように言われたのですが、私は民族の歴史ではなく、民族的なつながり、地球の歴史を反映したいと考えました。そこで、実際に私も子供の頃にやっていたフェンシングを取り入れたのです。このエピソードは一番のお気に入りです、脱いだほどですしね!(笑)」ヒカル・スールーという役名には、そのようなメッセージがこめられていたのですね。日本語吹き替え版の「カトー」という役名を少し残念に思ってしまいました。

現在は、カミングアウトをしてLGBTの活動にも力を入れているジョージ氏ですが、どうやってマイノリティであることを克服してきたのでしょうか。「若い頃は、同性愛者であることに罪悪感を、日系人であることに引け目を感じていました。しかし父は、自分らしさを恥じずに自信をもつべきだと教えてくれました。私はこの教えのおかげで克服できたのだと思います。それでも長い間、キャリアを守るためにゲイであることを隠してきましたが、カミングアウトをして本当にすっきりしました。自分自身であるということは素晴らしいことです」。「家族は社会の核となる最も大切なユニット」とも言うジョージ氏。親がLGBTの子供を愛し、自分らしくいることを肯定してあげることが最も重要だと語りました。

その後、話題は現在の日本社会へとうつります。Twitterからは、「LGBTや福島の被災者に対する差別など、日本のマイノリティの問題にどのように取り組んでいけばよいか」という質問が多く寄せられました。

「人種差別とLGBTに対する差別はよく似ています。理不尽で、非合理的なものだからです。まずは、そのことに気づくべきです。福島の被災者による差別はこれとは少し違うと思います。この差別は、無知ゆえに生まれるものでしょう。安全である、という正しい知識を皆がもつことが大切だと思います」。

それでは、日本のマイノリティ自身が自分たちのために活動するにはどうしたらいいのでしょうか。彼は、人々の模範となるようなロールモデルが必要だと言います。

「まずは、どう活動していけばいいかを知っている人と話すことが大切です。また、LGBTに関して言えば、尊敬を集める社会的地位の高い人のカミングアウトは非常に重要です。LGBTが社会のいろいろな場所にいるということを知ってもらうのです。もしくは、社会的地位の高いストレートの人のサポートも必要です。たとえば、同性婚に反対していた米国のある議員は、自分の愛する息子がゲイだと知って考えをあらため、同性婚に同意しました」。

残念ながら、まだ日本にはあまりロールモデルがいません。それは、LGBTや、女性の社会進出などさまざまなことにいえます。そのため、こうした活動家の生の声にふれる機会はとても貴重です。まずは、国籍を問わずロールモデルにふれることが、日本のロールモデルの誕生にもつながっていくのではないでしょうか。

このほかに、日本のマイノリティの活動をもっと活性化させるには何が必要なのでしょうか。ジョージ氏は、「日本の皆さんに足りないのは「怒り」かもしれません。「怒り」の感情をもち、それを表現すること…日本には、みなさんを怒らせる人が必要なのかもしれないですね。私のカミングアウトも、ストーンウォールの反乱*も「怒り」がきっかけでした」と語りました。たしかに、私たち、特に最近の日本人は、「怒り」を表現することが少々苦手なのかもしれません。民主主義の長所は、意見を言う機会が平等に与えられていることです。しかし、これは同時に短所でもあります。民主主義は参加の意思に頼っているからです。社会の一員として考え、意見をもち、時には「怒り」、それを表現することが大切なのかもしれません。

最後は、会場の学生でした。「僕は日本では珍しい、オープンリーゲイです。一年いたカナダに比べ、日本は生きづらく感じます。友達もなかなかつくれないし、ゲイのコミュニティに参加するのも簡単ではありません。ですが、変革を起こすのは僕たちの世代なんだ!と強く思いました。今日はありがとうございました」。学生からのあついメッセージに、ジョージ氏は「がんばれ!」とエールを送りました。

さまざまな逆境をのりこえ、今なお精力的に活動するジョージ・タケイ氏。これからも、世界中の人々が彼から希望とパワーをもらうでしょう。

「長寿と繁栄を!」

お読みいただき、ありがとうございました。

Posted by 北島さつき

*ストーンウォールの反乱

1969年、NYのゲイバー、「Stonewall Inn」が警察による踏み込み捜査を受けた際、居合わせた同性愛者が抵抗した事件。同性愛者が権力による迫害にはじめて立ち向かった事件とされ、これをきっかけにLGBTの権利獲得運動が本格的に始まった。

アメリカ大使館主催:変革の起こし方 ~ハリウッドへの道、そしてその先へ~

http://connectusa.jp/upcoming/2014/0605_001130.html


コメントを残す