[273]モロッコで女性映画監督になるということ


「生まれてからずっと26年間、モロッコで育ってきた。それ以外今の私に話せることはないわ」そう答えるのはモロッコの若手女性映画監督、Rim Mejdi。モロッコの小規模な映画業界で映画を作る若い女性、という逆境に直面しながらも、彼女の勢いは止まらない。制作した短編映画『2 = 1 = 0(原題)』は2010年、『En dehors de la ville』は2014年にロカルノ国際映画祭で上映されただけでなく、世界各国の若手映像作家を支援するプログラム「ロカルノ映画制作者アカデミー」にも参加。今年のロカルノ映画祭にて、進出気鋭の映画監督として、女性として、モロッコ出身としての課題を語った彼女のインタビューを紹介したい。

そもそも、初めてモロッコ人による映画が作られたのは1958年とかなり遅い。数名のモロッコの若者たちがソ連、フランス、ポーランド等ヨーロッパ諸国に映画を学びにいった当時がその幕開けとなったが、その先十年は成長をみせた。映画を学んだ彼らがモロッコに戻ってきてからが問題で、祖国での映画制作には苦戦した。彼らがヨーロッパから持ち帰った抽象的で理論的な作品に国民は引き寄せられるはずもなく、1990年代まではモロッコの映画業界は冬眠期間に入っていた。現在は少しずつ勢いを見せ始めていて、今では年間映画制作本数は20本、アフリカで三番目に映画の生産を行う国となり、小規模ながらも成長している。

モロッコの映画業界での最大の課題は―――いままさに映画を撮り始めようとしている人たちにとっては特に厳しいのだが―――想像し難くはないだろう、政府の資金確保である。 映画制作の資金を得るためには、まずは“認定”されなければならないのだ。
「(認定に必要な条件は)映画学校に通っていた、とかいうだけではないの。例えば、映画学校で作った映画は、作品にカウントされない。認定されるには正式に映画を作る必要がある。なんてトリッキーなビジネス」とMejdiは語る。政府の資金援助なしで作られるモロッコの映画は殆どない。しかしMejdiは楽観的。それもそのはず、世界中の映画制作者がモロッコで映画を撮っているのと同様、モロッコの学生などの若い世代は国外に出て認定や資金援助を待たないまま、映画を作り始めているからだ。

「私がアラブから来たってだけで、ある特定の意味合いで女性を語ことをよく期待されるの」。映画業界の女性としてMejdiは、他人の期待を満たさなければいけないという圧力をよく感じる、と述べる。

「21世紀になった今でも、西洋でも、女性が映画を撮ったり女性の課題について語ることは未だに受け入れられていない。女性が映画を作るということに対してみんな非常に具体的なものを期待していて、期待通りの答えが得られなければ怒るわよね」。
Mejdiは、モロッコ人としてこうあるべきだろうという圧力、ある一定の話をするだろうという圧力があるとも述べた。「私がアラブ世界から来たというだけで、いつも一定の考え方を期待される。特に女性ということに関しては。いつも同じようなタブーな話題を扱わなくちゃないといけないし、時にはあなたが語りたいだけなんでしょう?っていうほどに深刻な話題を振られるときもある」と彼女は説明した。彼女がただ映画作家として語り手となる時、宗教や社会的状況に紐づけてその女性性を描いているにちがいない、と人々は期待するが、彼女はまず第一に自由にものを語る映画作家として、性別も倫理も宗教も関係なく真剣に捉えられたいだけなのだ。

Mejdiは斬新な演出と古典的なスタイルで、ありふれた手法で馴染みのない物語を生み出すことに長けている。『En dehors de la ville』(2014)は、町の郊外で人を待つ女と、彼女について詳細を知る見知らぬ男の話であるが、それがドラマでありスリラーの要素も強く持つ。作品の雰囲気やキャラクターの演出のために異常な環境を使用する方法は清々しい。

現在初めての長編映画に取り組んでいる彼女だが、新たな課題に直面している。短編映画で培ってきた“アイデアを絞り、それを濃く密に”する過程が必要なくなったからだ。「今はペースダウンして、長編を撮れる喜びを精一杯享受しなきゃね!」と語る。しかし同時に、よりグローバルな大勢の観客に向けた長編映画を作るという圧力も増えそうだ。
「やりたいなら、やるべき。いま若い映画制作者たちは自分の国内だけでなく、他国の作品とも競合にするけど、これまで以上に映画を作ることはお気軽になったし、誰もが世界中で作品を作り新しいことをしようとしているのだから、自分は自分と考えて作品を作るべきね」と語った。映画制作者アカデミーの経験によって、彼女は世界各国の映像作家の独特な挑戦を目の当たりにすることができたという。「どの国の人にもそれぞれの苦悩があるけど、大切なのはそれを突破するパッションよ」。

引 用
Here’s what it’s like to be a female filmmaker in Morocco
http://www.indiewire.com/article/heres-what-its-like-to-be-a-female-filmmaker-in-morocco-20150818

http://www.pardolive.ch/de/pardo/program/person.html?pid=817372

内山ありさ World News部門担当。1991年生まれ、広島出身、早稲田大学卒。特技は80年代洋楽イントロクイズ。


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