第68回ロカルノ国際映画祭(8月5日~15日開催)のラインナップが、7月15日に発表されました。
カンヌ国際映画祭と同じ1946年に始まったこの歴史ある映画祭は、特に新しい才能の発見の場として定評があり、また、映画関係者で埋め尽くされるカンヌ・ヴェネチア・ベルリンの三大映画祭に比べて一般の観客が足を運びやすい“開かれた”映画祭としても知られています。
主要なコンペ部門は「国際コンペティション部門(Concorso internazionale)」「新人監督部門(Concorso Cineasti del presente)」「短編映画部門(Pardi di domani)」の3つで、各部門の最高賞には「金豹賞(Pardo d’oro/Golden Leopard))が与えられます。国際コンペ部門の過去の金豹賞受賞作には、ロベルト・ロッセリーニ『新ドイツ零年』、ミケランジェロ・アントニオーニ『さすらい』、スタンリー・キューブリック『非情の罠』、ジム・ジャームッシュ『ストレンジャー・ザン・パラダイス』、クレール・ドゥニ『ネネットとボニ』などがあり、昨年はラヴ・ディアス監督の5時間を超える大作『昔のはじまり(Mula sa kung ano ang noon)』が受賞しました。コンペ部門以外にも、メイン会場となるピアッツァ・グランデ広場の野外劇場(収容人数8000人!)で上映される特別招待枠「ピアッツァ・グランデ部門(Piazza Grande)」、功労賞に当たる「名誉豹賞」受賞監督や「エクセレンス賞」を受賞した俳優の作品を中心に上映する「映画史部門(Histoire(s) du cinéma)」などが設けられています。
さて、これらのコンペ&非コンペ部門の上映作品が昨日発表されたわけですが、ほんとに全ての仕事を投げ打ってでもロカルノに行きたくなるような作品が目白押しなんです!

何と言っても一番のニュースは、濱口竜介監督の『ハッピーアワー』が国際コンペ部門に選出されたことでしょう。同作は現在神戸を拠点に活動する濱口監督が、デザイン・クリエイティヴセンター神戸が主催する「即興演技ワークショップ in Kobe」の参加者たちとともに作り上げた5時間を超える作品です。濱口監督の作品がロカルノで上映されるのは、12年の『なみのおと』(東日本大震災を機に制作された「東北記録映画三部作」の1本、酒井耕監督との共作)以来ですが、コンペ部門にノミネートされるのは初めて。2011年に同部門に出品された空族の『サウダーヂ』に続いて、日本の若い映画作家によるインディペンデント作品がロカルノのような伝統ある素晴らしい映画祭で紹介されることは、同じ国に暮らす一映画ファンとして本当に嬉しいことです。また、日本からは想田和弘監督のドキュメンタリー作品『牡蠣工場』もコンペ外(Fuori concorso)でセレクションされています。
国際コンペ部門には、『ハッピーアワー』を含む18本の作品がノミネート。シャンタル・アケルマン”NO HOME MOVIE”、ホン・サンス”JIGEUMEUN MATGO GEUTTAENEUN TEULLIDA(Right Now, Wrong Then)”、ベン・リヴァース”THE SKY TREMBLES AND THE EARTH IS AFRAID AND THE TWO EYES ARE NOT BROTHERS”、リック・アルバーソン” ENTERTAINMENT”など、気になる作品がずらり揃っています。

ピアッツァ・グランデ部門のラインナップも豪華。ジャド・アパトーとエイミー・シューマーがタッグを組んだ”TRAINWRECK”、ジェイク・ギレンホールがすごい体になってボクサーを演じる”SOUTHPAW”(アントワン・フークア)、サンダンス映画祭グランプリの”ME AND EARL AND THE DYING GIRL”(アルフォンソ・ゴメス=レホン)など今夏アメリカで公開される話題作、バーベット・シュローダーの久々の監督作” AMNESIA”、ワールドプレミアとなるフィリップ・ファラルドー” GUIBORD S’EN VA-T-EN GUERRE”、セルジオ・マシャド” HELIOPOLIS” などが上映されます。
そして、映画祭のオープニングを飾るのはジョナサン・デミの最新作”RICKI AND THE FLASH”。家族を捨てた女性ロック歌手が、久しぶりに家に戻り子供との絆を取り戻そうとする物語で、主演のメリル・ストリープが実の娘メイミー・ガマーと共演することでも話題になっていますが、ジョナサン・デミの作品をオープニングに持ってくる映画祭……渋いです。

その渋いセレクションを行った張本人と思われる映画祭のアーティスティック・ディレクター、カルロ・シャトリアン氏は今年のラインナップを「イメージの家 The home of images」と題したイントロダクションとともに紹介しています。
「”RICKI AND THE FLASH”はアメリカ映画にとって驚くべき物語を語っています。自分の夢を追いかけるために家を捨てた母親が家族の危機に際して帰ってきます。そして薄氷を踏む思いをしながらも、彼女の人柄やスタイル、生命力によって家は活気づけられるのです。(中略)そう、家です。かつて家は父系権力が表現される場所としてあり、また、社会を変えようとする欲望に伴って起こる映画のムーブメントにおいても重要な対象として存在していました。そして今、家は感情を掻き立てる場所となってきました。それは私たちが今体験している不確実な状態といかに関係しているのでしょうか? (中略)夥しいイメージに取って代わられた映画(シネマ)はもはや世界にとっての家ではないかもしれません。そしてそれでもなお世界は是が非でも家を必要としています。家という言葉がどう共鳴するかを最も明確に述べているのがシャンタル・アケルマンです。彼女の”NO HOME MOVIE”はある関係の終わりについての映画であり、それが家の終わりのイメージとなる映画です。同時に特別な資質がなくとも情緒的な価値に恵まれた場所としての家に最高の賛辞を送ってもいます。家はひとつの感情を共有する場所です。そういう意味で、家はある空間や時間を切り取るフレームのような役割も果たしています。つまりすごく混沌とした今の時代を読むことができるという点で、おそらく映画は今の私たちに欠けている家なのです(後略)」

このように述べるシャトリアン氏が「家という主題を想起しやすい映画作家」であり「この監督の映画は世界中の数多くの人たちがその作品を自分のものにしているという意味でも家のような存在となっている」と紹介するのがサム・ペキンパーです。なんと今年のロカルノではペキンパーの監督作品(50~60年代に手がけたテレビドラマの西部劇作品も!)や関連作品が30本以上も集められた特集上映(レトロスペクティブ)も併催されるのです。
さらにさらに、ラインナップに先立って発表された今年の名誉豹賞は、マイケル・チミノとマルコ・ベロッキオ! もちろんこのふたりの監督の作品も4本ずつ上映され、『ディア・ハンター』と『ポケットの中の握り拳』はピアッツァ・グランデ広場に設置される26m×14mの巨大スクリーンで観ることができるとのこと。
8月5日~15日のロカルノは映画の楽園となるでしょう。ああ、ロカルノに行きたい!!

ロカルノ国際映画祭公式サイト
http://www.pardolive.ch/en/Pardo-Live/today-at-the-festival

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黒岩幹子
「boidマガジン」(http://boid-mag.publishers.fm/)や「東京中日スポーツ」モータースポーツ面の編集に携わりつつ、雑誌「nobody」「映画芸術」などに寄稿させてもらってます。


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