今月、世界60カ国で公開され、好評を博し、日本でも8月5日の公開が心待ちにされている「ジュラシック・ワールド」(2015)。本作は、一作目の続編という内容を強調した宣伝や、「ジョーズ」(1975)にはじまる超大作のホットシーズンである6月の公開というタイミングがノスタルジアをさそい、中高年から若者までの動員に成功し、興行収入は最初の週末だけで約5億2400万ドル(約640億円・歴代1位)を記録しました。#1

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このように好調の「ジュラシック・ワールド」ですが、作品中の描写をめぐって本作が性差別的なのかどうかの議論がおこっています。ことの発端は、「アベンジャーズ」の監督や「バフィー〜恋する十字架〜」の脚本をつとめるジョス・ウェドンのツイッターへの投稿。今年の4月のはじめごろ、「ジュラシック・ワールド」のExtended Movie Clip 1をみた彼は、「この動画の表現が70年代の性差別でないことを願わずにはいられないよ。堅苦しい女性と、活発な男性・・・本当に?いまだに?」とツイートしました。

自身の作品のなかで、パワフルな女性のキャラクターや、フェミニスト的テーマを扱ってきた彼にとって、この動画の表現は特に気になったのでしょう。彼は、自身の発言への予想外の反響をうけて、「あのツイートはディナーパーティーのプライベートな会話にとどめておくべきだった」ともコメントしていますが、「動画に違和感を感じたことは事実だ」ともつけ加えました。#2

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一時、収束したかのようにみえたこの議論ですが、映画が公開された現在、再び活発になっています。本作の監督、コリン・トレボロウも、「正直にいうと、僕の意見も彼(ジョス・ウェドン)と同じなんだ」とコメント。

「僕自身も、なぜユニバーサル・ピクチャーズ(製作・配給)があのシーンを宣伝に使ったのか不思議に思っている。はじめにキャラクターを典型的な男女像で描いて、物語が進むにつれて、そうしたイメージが解体されていく、というのが重要なのに、ストーリーラインから孤立させてあの場面だけを見せるなんて。」#3

さらにトレボロウ監督は、映画の本当の主人公は、クリス・プラット演じるラプトルの調教師オーウェンではなく、ブライス・ダラス・ハワード演じる恐竜のテーマーパークの運営者クレアだといいます。

「物語の本当の立て役者はクレアなんだ。ストーリーの展開の中で、彼女の女性らしさも受けいれられていく。僕は、男性のキャラクターと同じことをする女性のキャラクターは必要ないと思っている。それは女性の登場人物をおもしろくする方法ではない。ブライスと僕は、彼女の人格のこれらのコンセプトと要素についてたくさん話しあってキャラクターを作っていったんだ。」#4

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一方、オーウェン役のクリス・プラットは、社会や映画が伝統的に女性を見るものとして対象化してきたのと同じくらい男性を対象化することができるならば、性が平等に扱われるだろうとインタビューで答えました。6ヵ月で27キロ減量して出演したマーヴェル・コミックスの映画化、「ガーディアン・オブ・ギャラクシー」(2014)で有名になった彼は、自分が体つきによって評価されることは歓迎だといいます。

「自分のキャリアは自分の外見、つまり自分がいかに見られるための体を作れるかによって変わった。自分の体は、完全に対象化されたといえると思う。」#5

「僕は、(自分が対象化され、肉体が注目を浴びることは)OKだと思う。そのことに対して愕然とはしなかった。僕は長い間、女性だけが対象化されることにぞっとしてきたから。本当に平等を唱えたいのであれば、女性を対象化するのと同じくらい、男性を対象化してもいいと思う。外見でキャリアを得ていった女優と同じように、僕も外見をアドバンテージにしているんだ。結局のところ私たちの体は、ただの’物’。僕は、身体は人間が動けるように神が与えた入れ物にすぎないと思っているんだ。」#6

彼は、2012年の「ゼロ・ダーク・サーティ」では海軍の役のために体をしぼり、逆に2013年の「Delivery Man(原題)」ではだらしない弁護士を演じるために、20キロ以上太ったこともあります。当時のインタビューで、彼はこうコメントしました。

「僕はいま、太りたくて、痩せたい。まるでジェットコースターみたいだ。でも、これは自分がやりたいことなんだ。僕は、こうした行為を通して神に触れたいんだ。」#7

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このように、さまざまな議論を巻き起こしたジョス・ウェドンは、その後、自身の作品である「アベンジャーズ2」(2015)のブラック・ウィドウ(スカーレット・ヨハンソン)の描写が性差別的だとの批判を受け、かねてからツイッターの運営に疲弊していたこともあり、アカウントを削除してしまいました。#8

これに対して、「ジュラシック・ワールド」のトレボロウ監督は、「僕は、彼の映画に対する人々の反応に狼狽したよ」とコメントしました。

「ジョスは、途方もない量の怒りのコメントを送られた。しかし、彼はそれには値しない。なぜなら、彼の映画には女性に敬意を表したキャラクターが必ずいるから。僕は、彼が過ちをおかしたとは思わないけれど、もしそうだというなら、彼が性差別で非難されるハリウッドの最後の人物でなければならないと思う。」#9

「ジュラシック・ワールド」により提示された議論によって、映画の中の性差別的表現、俳優の身体の対象化など、ハリウッドのさまざまな論点が明らかになりました。公開から10日ほどが経ったいま、映画をみた人々はどのように感じたのでしょうか。また、日本の観客はどのように感じるのでしょうか。まずは、おかしさに気づき、考え続けることがこれらの問題に対する第一歩となりそうです。

JURASSIC WORLD | Extended Movie Clip 1 | MTV Movie Awards | 2015 HD

#1

http://www.theguardian.com/film/2015/jun/17/global-box-office-jurassic-world-spy

#2

http://variety.com/2015/film/news/joss-whedon-jurassic-world-sexist-tweet-1201472164/”>http://variety.com/2015/film/news/joss-whedon-jurassic-world-sexist-tweet-1201472164/

#3,4,9

http://www.theguardian.com/film/2015/jun/05/jurassic-world-director-backs-joss-whedons-criticism-of-sexist-clip

#5

http://www.theguardian.com/film/filmblog/2015/jun/10/is-jurassic-world-sexist-assessing-the-films-key-females-of-the-species

#6,7

http://www.theguardian.com/film/2015/jun/19/jurassic-worlds-chris-pratt-equality-means-objectifying-men-too

#8

http://www.theguardian.com/film/2015/may/05/avengers-age-of-ultron-director-joss-whedon-quits-twitter

掲載画像1

http://collider.com/jurassic-world-box-office-heading-for-big-100-million-opening-weekend/

2

https://www.theedgesusu.co.uk/features/2015/06/17/in-defence-of-jurassic-world/”>https://www.theedgesusu.co.uk/features/2015/06/17/in-defence-of-jurassic-world/

3

http://pop-critica.com/tags/jurassic-world/

4

http://people.premiere.fr/Photos-people/Le-Gardien-de-la-Galaxie-Chris-Pratt-sacre-Homme-de-l-Annee-par-GQ-4085810

北島さつき World News担当。早稲田大学卒業後、現在は英国、レスター大学の修士課程 Film and Film Cultures MAにて世界各国の映画作品、産業、文化について勉強中。


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