[224] カンヌ映画祭2015 賈樟柯と侯孝賢の新作が上映


本年度のカンヌ国際映画祭が現在開催中だ。河瀬直美監督の『あん』(「ある視点」部門オープニングフィルム)、是枝裕和監督の『海街diary』(コンペティション部門)、黒沢清監督『岸辺の旅』(「ある視点」部門)と、例年にもまして日本からの参加作品が多いことも本年度の特徴だが、この記事では特に台湾出身の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)・中国出身の賈樟柯(ジャジャン・クー)の作品に注目してみたい。Guardian誌などで、既にいくつかのレビューを読むことができた。

「The Assassin」(原題:聶隱娘)というのが、侯孝賢の新作のタイトルだ。『ホウシャオシェンのレッド・バルーン』(2007)以来、短編を除いてはプロデュースなどの仕事に集中していた監督による、約7年振りの作品ということになる。唐時代に書かれたという小噺を原作とする、官僚間の裏切りや政略を軸にすえた物語で、主人公の殺し屋を『ミレニアム・マンボ』や『百年恋歌』にも出演してきた女優・舒淇(スー・チー)が演じる。(※1)

一方、初期から侯孝賢に大きな影響を受けていたという賈樟賈の新作は「Mountain May Depart (原題:山河故人)」と題された、1999年、2014年、2025年をそれぞれ舞台とした三部の大作だ。映画は冒頭で、ペットショップボーイズの「Go West」にあわせて乱舞する人々をとらえ、やがて、世紀末の到来とともに、急速な西洋化を通過して現在に至る、中国の「近過去」を描く。長年製作をともにし、監督のパートナーでもある女優・ツァオ・タオ(趙濤)が今回も主演している。賈樟柯は任侠をひとつのテーマに据えた『罪の手触り』(Touch of Sin 原題:天注定)が昨年公開、カンヌでは脚本賞を受賞し、賈の映画を長く観てきた人々に新しい感覚を与えたばかりだったが、この作品で、さらなる新しい境地を切り開いているということができそうだ。Guardian誌のPeter Bradshaw氏は本作を次のように評している。

「賈樟賈の作品が、初期の現在よりもっと婉曲的な作品、例えば「プラットフォーム」(2000)や「青の稲妻」(2002)から、現在までいかに変わり続けてきたかを考えるのは特別な感慨を与えてくれる。監督の近年の作品は、より感情を直接的に表現しているものになってきているのだ。」(※2)

また、Indiewire誌も似通った論調で本作を評している。「『Mountains may depart』は、(90年代からの)複数の世代にわたる「誤った幻想」によって損なわれてしまった、中国の労働階級の家族に光をあてている。それは、『罪の手触り』とは異なったかたちで、中国の近代化における市民の苦悩に親密な考えを与えてくれるだろう…(中略)… もちろん『罪の手触り』と様々な問題を共有してもいる作品だが、より魅力的な構造と、より複雑な驚きを本作は携えている」(※3) 

 個人的な話だが、賈樟柯と侯孝賢という作家は、映画鑑賞者としての私の記憶のなかで同じ脈絡に連なっている。実際には侯孝賢の方が、活躍を始めた時期が15年ほど早く、これは自分が作品を観た時期によるものが大きいのだが…。しかし、作風や、根拠とする主題が異なるとはいえ、とりわけ初期の作品には、似通ったところが少なからずあると思う。台湾と中国という言語的には同じ由来を持ちながらも、全く異なる20世紀を送った二国から現れた二人の作家は、映画を見始めた頃の自分にとても新鮮な感慨を与えてくれた。この記憶が、その後、楊德昌(エドワードヤン)や王兵(ワンビン)に受け継がれもしたのだが、そういう鑑賞の記憶を二人の監督に持っている人は、案外多いのではないかとも思う。 

その二人も既にベテランの域さえも出ようとしている。その一方で、東京国際映画祭などで一部日本にも紹介されているとはいえ、中国・台湾の若手作家について、あまりに入ってくる情報が少ないという思いを持っているのは、筆者だけだろうか。 カンヌ映画祭には、このほか、ガス・ヴァン・サントやトッド・ヘインズ、ソレンティーノといった欧米のベテラン監督の新作も出品されている。日本時間の25日、ある視点・コンペティションともに受賞作品が発表される。

(※1)Guardian紙 5月20日 “The Assassin review – enigmatically refined martial arts tale baffles beautifully”http://www.theguardian.com/…/the-assassin-review…

(※2) Guardian紙 5月20日 “Mountains May Depart review: Jia Zhang-ke scales new heights with futurist”  http://www.theguardian.com/…/mountains-may-depart…

(※3) Indiewire誌 5月21日 “Cannes: ‘The Assassin’ and ‘Mountains May Depart’ Present Exciting New Visions of the Far East” http://www.indiewire.com/…/cannes-the-assassin-and…

(追記)Guardian紙には、賈樟柯の記事を書いたのと同じ記者による是枝監督へのインタビューが掲載されていた。記事タイトルは「人々は僕を小津になぞらえるが、自分ではケン・ローチに似ていると思っている(“Hirokazu Kore-eda: ‘They compare me to Ozu. But I’m more like Ken Loach’”)」http://www.theguardian.com/…/hirokazu-kore-director-our…

井上二郎
上智大学英文科卒業。「映画批評MIRAGE」という雑誌をやっています(休止中)。ニュース関連の仕事をしながら、文化と政治の関わりについて(おもに自宅で)考察しています。趣味は焚き火。


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