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インターネットメディア・VICEが、映画の分野で躍進しようとする動きが見られます。VICEは、6月に米国で公開される『The Wolfpack』(2015)を配給元のマグノリア・ピクチャーズと共同で宣伝に着手すると発表しました。(*1)公開に先駆け、同サイト上では映画の紹介とともに予告編が公開されています。(*2)

『The Wolfpack』は、マンハッタンで暮らす6人兄弟の生活を描いたドキュメンタリー。一見素朴な若者に見える彼らにカメラが向けられたのは、彼らが年に数回も狭い部屋から外に出ることができないという衝撃的な事情によるものです。

「本作の主役は英国系米国人の6人兄弟。彼らは暴虐な父の手によって、少年時代をニューヨークの安アパートに閉じ込められて過ごした。私たち一般人が、メディアの情報を消費して世界のあり方を把握するのと同様に、彼らは数千本の映画を通じて対話をする。それが、彼らにとって外の世界を理解する唯一の術だったのだ。」

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「一家は町に知り合いもおらず、子供たちは決して家の外に出ることが許されない。その代わりに彼らは日々テレビで見るものを、苦心して作り上げた小道具と衣装で自ら演じ直す遊びに興じていた。ところがある日、兄弟のうち一人が脱走を図ったことで、それまで家を支配していた権力構造が一変する。残された兄弟たちも遂には部屋から逃げ出し、外の世界へ飛び出すのだった…」(*3)

マンハッタンの低所得層の現実を描き出した本作は、2015年の第31回サンダンス映画祭でUSドキュメンタリー部門グランプリを受賞しています。歴代のサンダンス映画祭ノミネート作品には『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999)から『ユージュアル・サスペクツ』(1995)、そして現在日本でも公開中の2014年W受賞作『セッション』(2014)までビッグタイトルが名を連ねており、本作もそれらの仲間入りを果たすことが期待できそうです。(*4)

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今回の宣伝協力にあたり、マグノリア・ピクチャーズの代表を務めるエイモン・ボウルズは、「VICEは利用者層である若者たちを、『The Wolfpack』の理想的なプロモーターに仕立て上げる未曾有の可能性を秘めている」と語っています。(*1)

VICEはこれまでにも、次回作『The Bad Batch』の日本公開が決定しているアナ・リリー・アマポアーのデビュー作『A Girl Walks Home Alone at Night』(2014)や、ソマリの海賊一味に加わった男を描いた『Fishing Without Nets』(2014)などをプッシュしており、後者は2014年のサンダンス映画祭で監督賞を勝ち取っています。 (*3)

  → 参考:[212] 注目の新人作家 アナ・リリー・アマポアーの次回作『The Bad Batch』最新情報 

マグノリアが提供するオリジナル・コンテンツを用いてVICEがいかなるメディアクロス的戦略を展開していくのか、そしてその膨大なフォロワーに与える訴求力がいかなるものか。

作品の内容が必見に値すべきはもちろんのこと、その宣伝手法もまた今後のネットメディアの訴求力を提示してくれる良き一例となることでしょう。

参照
*1 http://variety.com/2015/film/news/vice-promoting-sundance-winner-the-wolfpack-1201494970/

*2 http://www.vice.com/read/watch-the-trailer-for-the-sundance-award-winning-doc-the-wolfpack-861

*3 http://blogs.indiewire.com/thompsononhollywood/vice-media-believes-in-must-see-2015-sundance-doc-the-wolfpack-20150513

*4 http://www.indiewire.com/article/watch-the-wolfpack-brothers-reenact-sundance-classics-the-usual-suspects-clerks-more-20150204

西山晴菜
WorldNews部門担当。早稲田大学文化構想学部卒。大学では主にフロイト精神分析と映画理論を研究。三度の飯よりカレーが好き。映画・放送業界の片隅で駆け出しの一年生。


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