2017年の『ゲット・アウト』と、2019年の『アス』で、作曲家のマイケル・エイブルズは、ジョーダン・ピール監督と組んでいる。

『ゲット・アウト』が公開されてから、脚本家で監督のピールは、スティーヴン・スピルバーグからの電話を思い出す。スピルバーグはエイブルズについて話した。「君は彼をまた起用しなくちゃだめだよ。僕とジョン・ウィリアムズのようだからね」と。ピールはすでに、エイブルズと仕事をしようとし、そのことを決めていた[#1]。

「彼のスキルは計り知れないです。多くの異なるジャンルの音楽を習得していました。自分の映画が新しいと感じるための最良の施策とは、サウンドトラックが聞き覚えのあるだけでなく、まったく聞いたことがないと感じることなのです」とピール監督はエイブルズについて話す[#2]。

エイブルズはフェニックスで生まれ、南ダコタの農場で祖父母に育てられた。彼は、すぐに音楽を書くことに興味を持ち、南カリフォルニア大学で作曲を勉強した。エイブルズは、オーケストラの作曲、オペラの作曲、あらゆる職務で音楽を書くことで、過去の30年間を過ごした[#3]。

2017年に、ピール監督がアフリカ系アメリカ人の映画音楽作曲家を探していたとき、エイブルズはサンタモニカの私立学校の音楽学部を運営していた。その産業には、アフリカ系アメリカ人はほとんどいなかった。ピール監督はYouTubeに頼り、“Urban Legends”という弦楽四重奏団、オーケストラのライヴ・レコーディングを見つけた。彼はその作曲家を見つけ出し、会ってコーヒーを飲みに行った[#4]。

それはシンデレラ・ストーリーを思い起こさせるが、そこには暗い意味も含まれている。1984年に南カリフォルニア大学を卒業した後、エイブルズは、映画音楽を作曲する仕事を探したが見つからなかった。エイブルズが夢を叶えるのには何十年もかかった[#5]。

参考【“Urban Legends” 演奏:Inner City Youth Orchestra of Los Angeles】

「映画を撮る前に、ジョーダンは脚本を読ませました。これは『ゲット・アウト』と似ているプロセスです。彼は音楽と映画の力をとても意識しています。特にサスペンスとホラーにおいてはそうです。彼は私に自分が考えている音楽のタイプを伝えます。『アス』において、彼は『全体の物語は、鏡のイメージと別のイメージについてなんだ。調和しないサウンドで実験をしてみてはどうか、わざとふたつの型にとらわれない選択を試して、どうなるのかを見てみよう』と。それを行い、いくつかのデモを思いつきました。そのサンドボックスで彼にそのことを言われなければ、私は実験をしなかったであろう例です。」[#6]

上記のようにエイブルズは説明する。その実験の結果は、メインタイトルの“Anthem”のようなトラックで聞くことができる。その歌曲は、マーチの拍子を使っている怖ろしさや身震いを増大するトラックであるだけでなく、そこには子供がハーモニーを奏でて記憶に残る声が用いられている。ピール監督とエイブルズのインスピレーションは、二重性を対立させている。子供の優しさと無垢さと、恐怖で動けなくするようなサウンドである[#7]。

「私は、メインタイトルであるアンセム(“Anthem”)を書きました。子供の合唱団が邪悪なマーチを歌っているのを聞くことから始まります。彼らが歌っている言葉を理解することはできません。しかし、明らかに善良ではありません。その子供の合唱団は、ジョーダンによって提案されました。彼は、人々は優しさであると思うが、一方で気味の悪い効果へと使うことができると考えました。[…] 彼は正しかったです。映画が撮られる前に、その楽曲を書きました。彼はどこかで自分が使いたい楽曲であると分かっていました。私に音楽のインスピレーションを与えてくれた共同のプロセスです。たぶん、その映画の別の側面において、彼が着想を得て利用するために活用できる音楽を私は提供できたと思います。」[#8]

また、この二重性において、ピール監督はヴァイオリンとツィンバロムのような調和をしない楽器を試すことを提案し、映画の中で機能している。さらに、一箇所で、カリンバ、ビリンバウ、ディジュリドゥーが同時に響く。ここでもまた、ピール監督が、「同類ではないものを試せ」と言ってくれなければ、エイブルズは決して思いも付かなかったであろうと述べる[#9]。

新たなサウンドの創作は、エイブルズにとって待ち望んだ挑戦であった。エイブルズは、アデレードともうひとりの彼女のレッドの具体性へと入っていき、自分たちの方法でどのようにそれぞれを目立たせるかを考え始めた。それぞれのキャラクターには、もうひとりと区別をする独自の音色がある[#10]。

「それはシンプルではありません。アデレードを見て、彼女が歌っているのを聞きます。少しすると、ソロのヴァイオリンが聞こえます。自分にとってそれは、レッドの邪悪な精神と正義の探求を表しています。彼女がスクリーン上にいるとき、時々、とても角のあるソロのヴァイオリンのラインを聞きます。」[#11]

映画音楽を作曲するときに映画世界を創造することへの決定は困難を極め、常に変化する。それは、シーンの長さ、トーン、物事を予期する役割を果たす始めのシーンでバタフライ・エフェクトを持つ映画において、後から起こる何かに基づいている。ルーニーズの“I Got 5 On It”は始めから意図されてはいたが、しかし、予告編が公開されてから、フィードバックをするまで、力強くて頂点となるダンスバトルの中に、作曲されていたというわけではなかった[#12]。エイブルズによれば、最初の予告編で“I Got 5 On It”を使うことで成功を収めたため、彼とピール監督はその楽曲を映画本編のそのシーンの中でも使うことを考えたという[#13]。

「もともと、最後のバトルのシーン、ダンスの闘いは、『くるみ割り人形』からチャイコフスキーの“Pas De Deux”を使用することになっていました。それは、映画の最後に配置されたままですが、数秒だけです。予告編での反応で、ジョーダンはフィードバックへ対処するのがうまいのだと思います。彼は本当に観客を求めています。彼は反応を見て、それを曲げることを厭わないのです。」[#14]

『くるみ割り人形』の“Pas De Deux”のように美しく上品な音楽に取り組み、冷たく怖がらせるダンスに変えることが、独自性を生み出す。しかし、クラシックのヒップホップを通じてもうひとつのレイヤーを加えることは、さらなるフィーチャリングである。映画の観客にとってだけでなく、ヒップホップ・カルチャーのファンとっての数え切れないほどの文化を組み込み、ホラーのジャンルで革新性をもたらしたのだ。それはオークランド出身のふたりのラッパー(ルーニーズのヤックマウスとナムスカル)によって創作され、彼らはローカルシーンのアンセムとして表現している。“I Got 5 On It”では、1986年のクラブ・ヌーヴォーのヒット曲“Why You Treat Me So Bad”からの拍子をサンプリングしている。また、同楽曲は、ヨー・ガッティ、ディディ、ミーク・ミル、ビッグ・ショーン、その他約50人のアーティストが自身の歌曲のリードサンプルとしてクレジットされている。しかし、ピール監督は、『アス』のトラックに自分のヴァージョンを求めた[#15]。

「彼は、その映画の“I Got 5 On It”の驚くべき約束を遂行しなければなかなかったのです」と、エイブルズは“Pas De Deux”をヒップホップクラシックのオーケストラヴァージョンへと差し替えるというピール監督の決定について話した。「私たちはそのシーンに取り組み、『“I Got 5 On It”のクライマックスを試して、どのようになるのかを見てみよう』と決めました。レッドとアデレードがにらみ合いのダンスを始めたとき、彼はストリングオーケストラのヴァージョンを聞きました。彼は眼を輝かせて『やった、これはうまくいくだろう』と述べました。」[#16]

ピール監督は、エイブルズを優れたホラーの作曲家にしているのは彼の心であると述べる。「マイケルは深く共感をしてくれる人です。とても穏やかな話し方をして、とても優しく、とても愛情があります。優れたホラーは、共感に通じている人によって創り上げられると思います。それこそが彼なのです」と[#17]。

参考【映画『アス』のサウンドトラックより“Anthem”】

参考【映画『アス』のサウンドトラックより“I Got 5 On It”】

参考URL:

[#1][#2][#3][#4][#5][#17]https://www.npr.org/2019/03/25/705503569/michael-abels-composer-of-jordan-peeles-us-balances-terror-with-empathy 

[#6][#7][#10][#11][#12][#14][#15][#16]https://uproxx.com/music/us-movie-soundtrack-composer-michael-abels-interview/

[#8]https://nofilmschool.com/michael-abels-us

[#9]https://slate.com/culture/2019/03/us-movie-music-composer-michael-abels-interview.html

[#13]https://www.businessinsider.com/us-composer-on-creating-creepy-i-got-5-on-it-remix-2019-3

http://www.filmmusicmag.com/?p=19499

https://birthmoviesdeath.com/2019/04/09/scorekeeper-and-composer-michael-abels-invites-you-to-admire-us

http://collider.com/us-composer-michael-abels-interview/

http://www.mtv.com/news/3119774/us-film-michael-abels-interview/

https://www.flickeringmyth.com/2019/06/exclusive-interview-us-composer-michael-abels-on-playing-with-silence-collaborating-with-jordan-peele-and-more/

https://www.billboard.com/articles/news/8503740/michael-abel-jordan-peele-us-composer

https://filmschoolrejects.com/us-composer/

https://www.nytimes.com/2019/03/25/arts/music/us-jordan-peele-i-got-5-on-it-luniz.html

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


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