2019年の興行収入は現時点で前年から9%落ち込んでいる。低予算映画の苦境はさることながら、有名タイトルですら興行的に失敗する状況を受けて、大手映画スタジオらは互いを食い合うような状態だ。Netflixが映画の鑑賞方法を変えていく一方で、アップルやディズニー、ワーナーなどがストリーミングサービスに近々参入する。映画産業はそのあらゆる面を問われている。

 NY Timesは映画産業の今後を考えるにあたって、J.Jエイブラムス、ルッソ兄弟、ジェイソン・ブラム、リナ・ウェイスなど、ハリウッドを代表する人物から意見を募った。以下、簡単に抜粋をしていく。(1)(2)(3)

「ブロックバスター映画以外を扱う映画館に未来はあるのか?」

 ジョーダン・ホロウィッツは『インディペンデント映画における伝統的な映画体験については、特に楽観的になれない』と回答。クメイル・ナンジアニは『人々が映画館に行くのは年に平均4回だと読んだことがある。大作が公開されると他の作品は押し負けてしまう。コメディの興収などはここ数年で特に振るわない。ある特定の種類の映画だけが、映画館で見る価値のあるものと思われているのかもしれない』と分析する。エイミー・パスカルは『自分たちに自らルールを押し付けるようなことはしたくない。「誰も見ないだろうから、この作品は映画館にかけない」。もし、私たちがそのような決断を下したら、実際にそういう状況になってしまう』と語った。(1)

「映画館で上映することは依然として重要なのか?」

  ポール・フェイグは「『アラビアのロレンス』の最も優れたショットの一つに、主人公が広大な砂漠の地平からラクダに乗って現れるというものがある。この時、主人公は点のようになっている。このような優れたショットを撮りたいと思っても、(仮に映画館がなければ)「結局、人々はこれを携帯で見るのだから、何も見えやしない」と諦めることになる」と指摘。ジョン・M・チュウは「映画を家族や友人、あるいは見知らぬ人と共有するという社会的側面は、私たちの伝統の強力な一面だと思う」とコメント。バリー・ジェンキンスは「5年前、パソコンをつけてクレール・ドゥニの映画を見つけるなんてできなかった。それが今ならできる。これは確かに素晴らしく、世の中にとっても良いことだが、それと引き換えに差し出さなければならないものもある」と語る。(1)

「仮に映画館が衰退したとして、ストリーミング時代はどんなふうになるだろうか?」

 エイリザベス・バンクスは「ストリーミング業者が、大手のスタジオが劇場公開することに興味をなくした中規模の作品を製作することができるのではないか」と言う。ジェシカ・チャステインは「従来のスタジオシステムで恵まれなかった多くの女性監督がNetflixやAmazonでチャンスを手にしているのを見てきた。だから私は、今業界が取り始めている新たな形をとても嬉しく思ってる」と述べた。(1)

 NY Timesの記事を受けて、IndieWireは映画館の存続危機に対して、地元のアート・ハウス(非ハリウッド映画を扱う小規模な映画館)が観客の生活の質を向上させているという調査を紹介している。また、NY Timesの記事に招かれた映画人の中に、インディペンデント系の人物が少ないことを指摘した上で、劇場経営者や映画祭のディレクターなどから募った意見を載せている。こちらも簡単に抜粋する。(2)

 Andy Bohn(Greenwich Entertainment 共同代表取締役)は「誰かが『どうして映画館に行くのに15ドルも払わないといけないんだ?Netflixなら無料で見られるのに』と口にするのを何度耳にしただろう。明らかに、ストリーミングサービスは無料ではない。しかし、サブスクリションが個々の映画を見る際の費用計算を抹消しているのだ。」と指摘。Ryan Kampe(Visit Films 社長)は「私は、小規模な映画にとっての伝統的な上映方式は破綻すると信じている。アメリカでは毎年、若干数の映画がヒットを飛ばすが、大半は劇場公開にこぎつけないか、興行収入が3万ドルを割るかだ。更に少ない幾つかの映画は、VODかTVに売りに出される。このように、劇場公開に費用をかけることへの誘因が全くないことがしばしばある」と語った。(2)

 ストリーミングサービスの勃興は映画をどう変えていくのだろうか。抜粋した意見にもあったように、映画を観る環境が、映画館の大きなスクリーンから、スマートフォンの小さな画面に遷移していくと、映画の演出自体も変化を余儀なくされる。産業構造にとどまらない変化の波が、将来どのような結果をもたらすのか引き続き注視したい。

参考

(1)NY Times

https://www.nytimes.com/interactive/2019/06/20/movies/movie-industry-future.html

(2)IndieWire

https://www.indiewire.com/2019/06/movie-exhibition-distribution-future-1202152832/

(3)Box Office Mojo

https://www.boxofficemojo.com/yearly/?view2=ytdcompare

貳方勝太 (にのかたしょうた)迷える社会人。大学在学時は映画の制作に耽るなどして徒らに過ごし、現在は重度のヘヴィ・メタル好きが高じて作曲に手を出す。好きな監督はハル・ハートリーやマルコ・ベロッキオなどなど。文化に触れる時間を確保するのが日々の課題。


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