「世代間ギャップを埋める女性たち-フランスのニュー”ヌーヴェル・ヴァーグ”」という記事が、「ガーディアン」に掲載されました。(*1)(2014年4月20日、署名はキム・ウィルシャー。)これは、イギリスのアンスティチュ・フランセで開催された「フランス映画とのランデブー」(*2)という特集上映について述べたもので、特集自体はアラン・レネやポランスキーらの作品を含む多彩なラインナップですが、とりわけ女性監督による作品にスポットを当てたものとなっています。

フランス映画が黄金時代を迎えたヌーヴェル・ヴァーグから半世紀が経過し、トリュフォーやシャブロル、ゴダールといった男性映画作家がメインであったそのムーブメントに変わって、今や女性作家たちが数の上でも質の上でも注目すべき存在となっている、というもの。

ただし、上映作品の分析やその中での女性監督作品の特異性が明らかにされるわけではなく、威勢の良いタイトルはやや内容的な裏付けを欠いているというのが正直なところです。ファニー・アルダンやエマニュエル・ドゥボス、サンドリーヌ・キベルランといった女優たちへのインタビューや記述もその紹介以上の内容はありません。

(特集としても、日本のアンスティチュ・フランセで行われた女性映画監督特集の方が質的に上だったように感じます。)

とは言え、この記事が面白いのはデータ部分であって、つまりフランス映画では確かに女性映画監督が(正当なとまではまだ言えないものの)一定の地位を得ている。記事によると、フランスで作られた長編映画作品のうち、現在では23%が女性監督によるもので、これは2008年の18.4%から大きく増加しているとのことです。

こうした数字は他国との比較においてその意味が明らかになるものであって、例えば圧倒的に男性社会であると言われるハリウッドでは、2002年から2013年の間に成功した作品の内わずか4.4%のみが女性監督によるものであったとのこと。ユニフランスのイザベル・ジョルダーノによると、最近の調査ではフランスの映画プロデューサーの内25%が女性であったのに対し、アメリカではわずか3%に過ぎず、顕著な違いがあるとのことです。

「ヌーヴェル・ヴァーグは、何よりもまず(デビューした若手映画作家の)数の勝利であった」という言葉を引き継ぐのであれば、ここでもまた女性映画の躍進は、まず数の勝利としてフランスにおいて顕著となりつつあるのかもしれません。

さらに、別の調査(*3)によると、ハリウッドよりも女性の割合が多いとされる米インディペンデント映画界では、2002年から2012年の間にナラティブ・コンテンツに関わった映画人(監督、脚本家、プロデューサー、撮影、編集など)の割合は、サンダンス映画祭出品作品から算出したところ、フィクション映画で25.3%、ドキュメンタリー映画で39.1%になったとのこと。

また、IMDBに登録されている監督の性別を国ごとに比較した場合(*4)、フランスはおよそ26%で平均を大きく上回っているようです。近年、フランス映画や米インディペンデント映画が新鮮なスタイルと内容の作品を多く排出している背景には、こうした要素も大きく影響しているのかも知れません。
一方、女性映画監督の割合が19%にとどまったアルジェリアは平均を下回り、さらに14%にしか達しなかったのは、何を隠そう日本でした。

大寺眞輔(映画批評家、早稲田大学講師、その他)
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*1
http://www.theguardian.com/film/2014/apr/20/french-film-new-wave-women-bridge-gender-gap#start-of-comments
*2
http://www.institut-francais.org.uk/cine-lumiere/whats-on/festivals-series/rendez-vous-with-french-cinema/
*3
http://www.sundance.org/pdf/press-releases/Exploring-The-Barriers.pdf
*4
http://namesorts.com/2014/04/16/assessing-the-gender-gap-in-the-film-industry/


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