アルトゥーロ・サンドヴァルは、クリント・イーストウッド監督作『運び屋』の音楽を作曲した。彼はキューバ生まれであり、ジャズの世界でトップ・トランペッターやレコーディング・アーティストとして知られている。現在、69歳を迎え、彼は自分のキャリアの転向を考えている。『運び屋』は、アメリカ中西部の年老いた園芸家がメキシコのカルテルのためにコカインを運ぶ仕事を請け負う物語であるが、サンドヴァルはそのスコアがその転向への大きなステップとなることを望んでいる[#1]。

サンドヴァルは、イーストウッドの新たな映画のために、ひとつの楽曲を書くことを頼まれると思ったが、ワーナー・ブラザースにあるイーストウッドのオフィスに着いたとき、イーストウッドは彼を座らせて映画全編を観せた上で、「君に(全体の)スコアを書いてもらいたいんだ」と述べた。サンドヴァルは迷いなく承諾し、「ご利用できます。お手頃です」と笑いながら答えた[#2]。

サンドヴァルは、ポータブル・キーボードを持ち込み、映像を背景に数曲を即興で演奏した。「その瞬間に彼は作曲家として私を雇うことを決めたのだと思います」とイーストウッドについてサンドヴァルは話した[#3]。

これまでイーストウッドは、ピアノでジャズを演奏し、自身の映画のテーマ曲を作曲してきた。さらに、『ミスティック・リバー』、『ミリオンダラー・ベイビー』、『チェンジリング』のように、全体のスコアを作曲することもある。HBOの伝記映画『さらば愛しのキューバ』でサンドヴァルを演じたアンディ・ガルシアのおかげで、イーストウッドとサンドヴァルはワーナー・ブラザースで出会うことができた。ガルシアは、『運び屋』で麻薬密売組織のボスを演じたからである。まずは、ガルシアが演じるキャラクターの豪華な貸間でのパーティに必要なラテンのソース・ミュージックの創作から話し合いは進んだ[#4]。

イーストウッドは、サンドヴァルのスタジオに一週にわたって毎日訪れ、サンドヴァルが所有するグランドピアノに座った(かつて、オスカー・ピーターソンが所有していた)。彼は、サンドヴァルのデモを聴き、音楽について提案をした。サンドヴァルによれば、イーストウッドはすごくシンプルで、あまり展開しない楽曲を好んでいた[#5]。

「クリントは、非常にシンプルな音楽を求めました。複雑であることを望まず、大規模であったり、反対のラインで進行を逸らして欲しくなかったのです。だから、右手でシンプルなラインを演奏し、左手で控え目なハーモニーや伴奏を演奏しました。」[#6]

全体の音楽の量もまたそれほど多くはなかった。『運び屋』には、約20分間ほどのアンダースコアがあるのみである。サンドヴァルによる甘美なトランペットと共に、温かく長閑な音楽で幕を開けて幕を閉じる。また、家族とぎくしゃくした関係のイーストウッドのキャラクターのための静かな弦楽器の楽曲、徐々に危険なドラッグのボスたちを巻き込んでいくシーンのための暗い楽曲がある[#7]。

この映画のテーマ、すなわち、家族の大切さは、サンドヴァルの心に響いた。1990年に、彼は師のディジー・ガレスピーと共にヨーロッパのツアー中、アメリカに亡命した。妻と息子は彼と一緒であったが、自分の両親を残してきたことに悩んだ。フィデル・カストロによってキューバを離れることを拒まれたため、彼らは最終的に漁船で国を逃れて、マイアミに何年間も留まった。「家族は、最も大切です」と彼は話した[#8]。

もうすぐ、サンドヴァルがキューバからアメリカに渡って30年間が過ぎようとしている。彼は、アメリカ政府の保護を求めたが、自分が望んでいても、キューバに戻ることはできないと思っている[#9]。

「まったく興味がありません。そこで起こっている状況を見たくありません。酷いこと、つまり、国が完全に壊されるのを見ることで苦しみたくはないのです。その国の状況は、刻々と悪くなっているからです。人々は絶望して、希望がありません。誰も、トンネルの終わりに光を見ることはないのです。トンネルすらも見ることがないからです。」[#10]

サンドヴァルは、自分の人生が40歳になってはじめて始まったかのようであると述べる。彼がアメリカにたどり着いたときである。彼が家族を育てた場所であり、チャンスに恵まれた大陸である[#11]。

「アメリカで私たちに起こったすべてに感謝の意を表するのに、言葉では表現できません。夢を超越しているのです。」[#12]

全体のスコアは、2週間半で書かれて、レコーディングされた。サンドヴァルは、トランペットを演奏するだけでなく、82人編成のオーケストラを指揮した(当然、ワーナー・ブラザースにあるイーストウッドのスコアリング・ステージである)。また、ソース・ミュージックやジャズナンバーのための20人編成のビッグ・バンド(マリアッチ楽団によるクンビア)も指揮した[#13]。

『運び屋』は、サンドヴァルが映画音楽の作曲家であることを大いに示すが、彼にとってこれは初めての映画音楽ではない。彼の人生を描いた物語『さらば愛しのキューバ』があるからだ。また、彼はオーケストラの初心者でもなかった。クラシック音楽に詳しいミュージシャンで、トランペット協奏曲やケネディ・センターのためにバレエ曲を書いているからである。彼は、デイヴ・グルーシンやハンス・ジマーによる映画のスコアでは演奏を担当しながら、数十年にわたって、映画音楽の一部となっている[#14]。

「生活の中で毎日、飛行機に乗らなくてもよいので、自分の夢は忙しくなるくらいに映画音楽のスコアを書くことです。もちろん、演奏するのは好きです。ただ、年間を通してこれを行うには年を取り過ぎているのです」とサンドヴァルはノンストップで行われるツアーのスケジュールを挙げながら話す[#15]。

イーストウッドの長きにわたる音楽エディターのクリス・マクジアリーはスコアのプロデュースを担当したが、彼はサンドヴァルの将来が映画のスコアリングにあることに同意する。「我々は、彼が思いつくことに驚きました。彼は尊敬に値する存在です」とマクジアリーは太鼓判を押す[#16]。

イーストウッドが『運び屋』にテーマ曲を作曲していたことをマクジアリーは明かしたが、イーストウッドはサンドヴァルのテーマ曲をより気に入った。そして、「君のでいこう。私のものに構わなくていい」と[#17]。

【参考: Scoring “The Mule” トランペッターのキース・フィアラ(アルトゥーロ・サンドヴァルのアシスタント)が制作した『運び屋』の音楽に関する映像作品[#18]】

 

参考URL:

[#1][#3][#4][#5][#7][#8][#13][#14][#15][#16][#17]https://variety.com/2019/film/news/arturo-sandoval-score-clint-eastwood-mule-1203097859/

[#2][#9][#10][#11][#12]https://www.latimes.com/entertainment/arts/la-et-cm-arturo-sandoval-mule-movie-20181220-story.html

[#6][#18]https://www.allaboutjazz.com/scoring-clint-eastwoods-latest-the-mule–an-interview-with-arturo-sandoval-arturo-sandoval-by-nicholas-f-mondello.php

https://www.allaboutjazz.com/scoring-clint-eastwoods-latest-the-mule–an-interview-with-arturo-sandoval-arturo-sandoval-by-nicholas-f-mondello.php?pg=2

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


16 Comments
  1. エンディングの音楽と詩がステキだったのでサントラ盤を探しましたが…残念見つけられない!
    彼がカーラジオに合わせて歌うシーンもなかなかでした。
    サントラ盤が発売されるといいなー、と思ってます。

    • 記事を担当しました宍戸です。コメントをくださり、ありがとうございます!

      エンディングの歌曲ですが、AmazonやiTunesでダウンロード販売されています。
      Toby Keithによる”Don’t Let the Old Man In”というタイトルの楽曲です。
      また、こちらはYouTubeで映画本編映像と共にお聴きいただけます。
      https://www.youtube.com/watch?v=yc5AWImplfE

  2. 最後に流れる曲にさらに涙流し、すぐサントラ探しにいきました。
    でもなくて。ネットて探してもなくて。
    有難う御座いました。
    すごーく助かりました。

    • こちらこそ、記事をお読みいただきましてうれしく思っております。ありがとうございます!

      • 今日 映画観てきました。私も曲が知りたくてずーっと探して探してなかなか見つからなかった…>_<…やっと探し当てました。サウンドトラックCD出してください‼️

  3. 映画のエンドロール曲 とても感動したのですが、映画で、日本語字幕読みながら聞き、涙はらはら┉┉ その日本語訳を知ること出来ないでしょうか。
    私達も年齢を感じるこのごろ、心にしみた訳詩を知りたいのです。
    何か方法ないでしょうか。

    • 現在、歌詞の日本語訳は、映画をご覧いただいて確認するしか方法がないようです。または、しばらくの間、お待ちいただかなければなりませんが、Blu-rayやDVDがリリースされると思いますので、そちらで再度ご確認ください。

  4. なるほどー そうですね 笑われるかもですが 再度映画を見ながら、暗闇でノートとるか!とさえ思いました。
    DVDリリースされるのを待つという方法ありでした。
    知りたい一心で冷静さ失ってました。
    有難う御座います。
    心に響く映画たくさん見たいです。
    またご指導くださいませ

  5. ありがとうございます。
    ほんとに ありがとうございます。日本語訳の歌詞
    読みました。ペーパーに書き写しました。
    何度もよみました。イーストウッドとトピー.キース
    絶妙なコンビですね。
    心に響く映画は、エンディング曲もぐっときて泣きます。
    穴戸さんに出会えて よかったぁー。
    ほんとにありがとう。

  6. さっそく 開いて ペーパーに写しました。
    ありがとうございました。
    お礼のお返事書いたのですが
    とどいてないようで、ご免なさい。
    ほんとにありがとうございます。

    • こちらのコメント欄は承認制となっておりまして、承認にお時間をいただく場合がございます。お手数をおかけしまして申し訳ありませんでした。
      ご投稿いただきましたコメントにつきましては、すべて拝読いたしました。とてもうれしいです。ご丁寧にありがとうございます。

  7. こんにちは。素晴らしい記事と映像です。内藤正典先生のところにいらっしゃったんですね。

    • はじめまして、記事を担当しました宍戸です。
      お書きいただきましたように、内藤先生がいらっしゃる研究科で学んでいます。とてもうれしいお言葉、ありがとうございます。今後ともよろしくお願い致します。

  8. 映像美、音楽、そして、素晴らしい俳優人による、本当に本当に素敵な映画でした!!
    ぜひ、日本語対訳付きで、劇中音楽の全て(クリント イーストウッドの鼻歌も)、収録したサントラ盤の販売を熱望いたします!!!(TдT)!!!

    • はじめまして、記事を担当しました宍戸です。コメントをくださり、ありがとうございます。
      全体のスコアの量がそれほど多くはないので難しいかもしれませんが、私もサントラのリリースを待ち望んでいます。そのときは、是非ともソースミュージックなどもすべて収録してほしいです。

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