[725]インドを舞台にした、ミア・ハンセン=ラヴ最新作『Maya(原題)』




ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した『未来よ こんにちは(原題:L’avenir)』(2016)や、『エデン(原題:Eden)』(2014)、『あの夏の恋人たち(原題:Le Père de mes enfants)』(2009)などで知られるフランスの映画作家ミア・ハンセン=ラヴ。インドを物語の舞台とした作品『Maya(原題)』が、今年9月に開催された第43回トロント国際映画祭SPECIAL PRESENTATION部門にて上映された。



物語として成立させながらも、映画に独自の雰囲気やトーンを用いて美しい叙情的な作品を作ってきたハンセン=ラヴは、現在既に次回作の『Bergman Island』を製作中であったりと、近年ヨーロッパ映画界でも目が離せない映画作家である。そこで本稿では、Cineuropaによる彼女へのインタビューを紹介したい。





中東で活動する30歳のフランス人戦争記者であるガブリエルは、シリアで人質として囚われた過去を持ち、その解放後もストレス障害に陥っていた。そこで彼は休養も兼ねて彼の名付け親を訪ねるべくインドへ旅行し、そこでマヤという一人の少女に出会う。10以上の年齢の差があるのにも関わらず、二人の間には徐々に新しい感情が沸き上がる。ガブリエルはゆっくりと安全な生活とインド社会に適応し、普段の生活を取り戻していく。



『Maya』は、ハンセン=ラヴの映画の特徴である柔らかな語り口が最も際立つ作品でありながらも、戦争記者に焦点を当てているだけに、同時に過激さを秘めている作品である。この物語の着想はどこから得たのかについての質問に対し、以下のように語っている。



『Maya』の最初のアイデアはどこから得たものなのですか?

ー不可能な愛についてや、インドで映画を撮影すること、戦争記者の人生に焦点を当てたものなど、いくつかのことが同時に頭の中に降ってきました。また、インドに行ってからの自分とはまったく異なる文化に向き合った経験は、私にとって根本的にも全く新しい方向性を生み出すきっかけとなりました。そして、私のキャリアの中で初めて、全く伝記的でも自伝的でもない映画へのアイデアが湧いてきたのです。



戦争記者に物語の焦点を当てたのは、彼のどんなところに惹かれたからでしょうか?

ー彼らが体現する勇気や、彼ら常に自分の命のリスクを負っているという事実です。私はそれに感嘆するし、魅了されています。しかし私は、勇敢な人々を賞賛するために映画を作っているわけではありません。監禁から身を解放された後の彼らには、ある謙虚さや距離感を感じます。彼らはいくつかについては話をしますがその一方で、話す権利がない、あるいは必ずしも話したくない、決して話し合うことのないこともあります。映画の中ではあまり目にすることのない苦しみとの関係もあります。私が実際に会った戦争記者には、ある種の謙虚さや、プライドのようなものを見ることがありました。彼らは内省に囚われ過ぎることがないのです。



劇中では、ナイフを持ち歩いているガブリエルが、警官に取り調べを受けるシーンがある。「旅行中は常に携帯するようにしているんだ」と言い訳をするガブリエルに対して、「君は旅行客じゃない。」と指摘する警官に、ガブリエルは何も答えることができず黙ってしまう。IndieWireのDavid Ehrlich氏はレビューの中で、このシーンを特筆すべきシーンであると強調し、故郷など自分が属する土地にいないときは常に旅行をしているような感覚を持つことを指摘する。そして、ガブリエルが危険を冒してまで戦場に身を置くのは、彼の感じる恐怖を誰かに伝えることが正当化されているからであり、彼の感情がそのまま仕事として、有用なものとなるからだと続ける。
ある意味中毒的とも言える、危険を顧みつつも戦場に何度も足を運ぶ戦争記者について、ハンセン=ラヴは以下のように語っている。



戦争記者は自身の仕事に対して、アドレナリン中毒のようなものを持っているように思います。

ー彼らは大抵いつも現場に戻りたいと思うのです。そこには、身を捕らえられてしまう危険性と常に隣り合わせであるにもかかわらず、動物的な本能、依存や抑えきれない欲求など、彼らを動かす目に見えない力があるのです。私はこの矛盾と、職業にしばしば中毒性が伴うことに興味を抱きます。信じられないほど強い感覚を与え、それは障害を乗り越える時に助けてくれるけれど、それと同時に自己を破壊するような力にもなり得ます。私の描く登場人物には常に二重性があるのです。



また、ハンセン=ラヴは映画の中で、愛というテーマを多く扱ってきた。『未来よ こんにちは』では、一人の中年女性にカメラを向け、しなやかに美しく年齢を重ねる彼女の自由に溢れた人生を愛おしく描き出し、『エデン』では、90年代フランスのクラブシーンを背景に、ひとりのDJの成功とそこからの衰退を、周囲の人間の愛や友情とともに描いた。彼女にとって重要な愛というテーマは、『Maya』でも引き継がれている。



映画の中にあるもう一つの注目点は、年齢と文化の異なる2人の間における不可能な愛です。愛はあなたの好きなテーマの一つですね。

ー感情というテーマは、私の映画の中に常にあります。近年の作家映画において、感情について語られることは少ないです。なぜなら、有名な俳優を出演させずに、感情や愛についての映画を作ることは簡単ではないからです。私はインド人ではないので、この作品は私の物語ではありません。しかし私も若い頃に、私よりずっと年上の男の子に猛烈に恋をしていました。それも一種の不可能な愛だったので、私が理解することのできる感情なのです。と同時に、脚本を書くときには、ある種の禁欲主義に没頭しているガブリエルの性格にも共感することができました。物語では、マヤはガブリエルに、愛することの可能性を認識させることで、ある意味彼の人生に彩りを取り戻させているのです。



一方で、あなたの作品の中で初めての、スリラー的な描写が含まれていますね。

ーガブリエルはゴアへと、自分のルーツを見つけるため、その一つとして母親を探しに行きますが、ゴアはもはや牧歌的な場所などではなく、むしろ失われた楽園のようであり、ガブリエルは複雑な状況にあるインドの現実に直面することになります。外部からの攻撃や脅迫、追跡は、現実世界から逃れることの不可能さや、別の場所で家のようにくつろぐことの不可能さを突き付けてくるのです。世界の果てまで旅をしても、暴力や残虐行為、敵意は必ずあるからです。それは非常に具体的であると同時に、比喩的でもあります。私はインドの過酷な現実と夢のような牧歌的な部分、その二面性を見出します。夜にガブリエルを攻撃するキャラクターは幽霊のようで、燃える家は彼の運命を表しています。インドはガブリエルの中に、仕事に戻る必要性を思い出させ、よって彼はそこにとどまることはできないのです。



現在は既に『Maya』の次作に当たる最新作『Bergman Island(原題)』の製作中であるミア・ハンセン=ラヴ。彼女の精力的な活動に今後も注目したい。



参考文献
https://www.cineuropa.org/en/interview/364531/
https://www.tiff.net/tiff/maya/

‘Maya’ Review: Mia Hansen–Løve Goes to India for a Beguiling Story of Romance and Rootlessness — TIFF

三浦珠青
早稲田大学文化構想学部四年生。熊本育ちの十一月生まれ。趣味は映画と読書と銭湯


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