[722]マカオ国際映画祭 3周年を迎えて


 今年の12/8から12/14まで開催されていたマカオ国際映画祭(IFFAM)は、今年で3周年を迎えた。カジノの町として知られるマカオだが、今新たに映画文化の発信地となろうとしている。
 映画祭の運営トップであるローナ・ティーは、映画祭に際したインタビューの中で、マカオには映画文化の歴史があまりないと述べている。マカオを舞台にした映画や、この地で撮影された映画は多々あっても、マカオの映画文化自体はあまり育ってこなかったようだ。
 そこで生まれたのがこの映画祭である。映画祭ディレクターのマイク・グッドリッチは、隣の大映画都市香港と比べ、次のように語る。

「香港は豊かな映画の歴史があり、マカオの素晴らしい映画達もみな香港の制作者たちによって作られてきた。私はマカオが行政としてもそのような状況を変えたがっているのもわかっているし、 この映画祭も嬉しいことにその一部です。」(2)

 ローナ・ティーも、インタビューの中で、「私たちはマカオの映画監督たちに、彼らが外の世界に出て名を挙げるためのプラットフォームを作る方法を探してきた。 足がかりを作ることによって、マカオが活気にあふれた映画のコミュニティーを作ることの力になりたい。」と述べる。(2)

 この映画祭には、世界とアジア映画を繋ぐという大きな目標があるが、アジアの若手の監督の支援をしたり、映画産業そのものを活性化させながらも、マカオの観客たちに世界の映画を楽しんでもらうというのが狙いだ。
映画祭の基盤は固まりつつあるが、どのような取り組みがなされているのだろうか。

 

 東洋と西洋の懸け橋に

 映画祭の中でも注目すべきなのは、今年新設されたコンペ部門「New Chinese Cinema」だ。このセクションでは、新進気鋭の中華系の監督たちによる6本のインディペンデント映画が上映された。中国から3本, 台湾から2本 マレーシアから1本の作品が選出された。(1・4)
グッドリッチは言う。

「この企画は、今年の6つの最高の中国語映画を心から楽しむためのものであり、これらの映画をマカオの人々や国際的なゲストに観てもらうことが、『彼らが、あなたが知っておくべき中国語文化圏の監督達だ』 と伝えることもできる。とても多様な映画がそろっていて、タランティーノが作りそうなマレーシアのスリラー映画も上映される。」(2)

 この映画祭は世界中の人が中華系の監督たちに出会える絶好の機会でもあるのだ。ローナ・ティーは、マカオの、アジアでありながら国際性を持つという特徴が、西洋からのゲストにも東洋からのゲストにも心地のいい環境を作り出せると言う。
 加えて、「Directors Choice」という部門では、6人の著名な監督が選ぶ、自身に影響を与えたクラシック映画を上映した。3人のアジアの監督はアジア映画ではないものを、もう3人のアジア人でない監督はアジア映画を、それぞれ選ぶ仕組みだ。今年は、メイベル・チャンがセレクトした『アラビアのロレンス』の他、ベン・ウィートリーは『ハード・ボイルド 新・男たちの挽歌』(1922・香港)を、フィリップ・ノイスは『女盗賊プーラン』(1994・印)をセレクトしたようだ。(3)
 こういった部門は、アジア、中国語文化圏と世界の懸け橋を目標にする映画祭ならではのものだろう。その他の上映作品を見ても、彼らの趣旨は見て取れる。
 映画祭全体としても、世界的な話題作とアジア映画を織り交ぜたラインナップになっており、アルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』や、ルカ・グァダニーノ監督のホラー映画のリメイク『サスペリア』、ジル・ルルーシュ監督で、 フランスで興行的にも成功した『Sink or Swim(原題)』、ヨルゴス・ランティモス監督の『女王陛下のお気に入り』 など多くの話題作が集まる一方、食をテーマにしたインドネシアの映画『Aruna And Her Palate』や、マカオの作家による小説を原作とする『Nobody Nose』、韓国のスリラー映画 『Default,』、イヴォ・フェレイラ監督がマカオで撮影した『Empire Hotel 』、インドレシアのアクションコメディー『212 Warrior』、といった多くのアジア映画が上映された。

 

 映画産業の活性化

 映画祭期間中には、映画業界の人々の交流の場としてIndustry Hubが開催された。31の国と地域から、240人を超える業界人が参加し、カジュアルな場でのビジネスの発展を目指している。

 この企画の中の一つ、マカオ・フォーラムでは、「インディペンデント映画の配給」等、3つのテーマでディスカッションが行われた。
 同じく企画の一つであるプロジェクト・マーケットには、投資家や配給会社、企画のパートナーを探している14の新作の短編映画が集まる。14作品のうち、多くがアジア映画であり、半数は女性監督によるものだ。プロジェクトでは、これらの映画の中からパネル審査で4つの作品にそれぞれ賞と賞金が与えられ、セレモニーで上映もされた。
 また、今年から始まった新たなプログラムでは、完成した映画、もしくは完成間近の映画を抱えている3人の監督たちを招待し、さらなる制作などに関して、彼らのビジネスのパートナーに巡り合う機会を作っている。(4・5)

 映画祭やこういった企画はすべて、ゆとりを持ったスケジュールで組まれている。ローナ・ティーによれば、

「西洋と東洋にとって交流の場です。その交流も、他の映画祭のように狂ったように走り回るストレスフルな場でなく、和やかな環境で自然に行われるのです。」

 実際にこういった姿勢により、一年かけてまとめようとしていた話し合いをこの場でまとめることができた、カジュアルな話し合いの場で制作者たちが映画の資金を得ることができた、等、ビジネスの観点からも成果が表れているという。(2)

 

 多くの観客が楽しめる映画祭に

 更にこの映画祭には、映画業界だけで終わらせずに、マカオという都市全体の映画文化を盛り立てていきたいという狙いがある。現地の若い人々の映画文化を反映して、映画祭のプログラムは挑戦的というよりも、むしろ大衆的な人気作やジャンルの作品を取り入れた、わかりやすく気楽に楽しめるものにしている。
マイク・グッドリッチも、プレミア上映を行うといったステイタスにこだわるのではなく、世界の最高の映画を提供することが目的だと言う。(3)
 世界の映画祭で話題になっている作品や大ヒットした作品なども多く上映されるのもそのためだろう。ローナ・ティーも、「形式ばらずにやることが鍵です。 皆には大ヒット作から美しいインディペンデント作品まで様々な分野の映画を楽しむ時間を過ごしてほしい。あらゆるジャンルを扱いたいと思っていますが、そこが他の映画祭と少し違っているところだと思います。」と語っている。
 そして前年と同じく、豪華なレッドカーペットも映画祭の目玉となる。今年公開の『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』で話題のニコラス・ケイジに加え、香港のスター、アーロン・クオックや、韓国で注目されている女優のイム・ユナ(アイドルグループ少女時代のメンバー、ユナとしても知られる)も映画祭のアンバサダーを務める。中でもヤオ・チェンは、大ヒット作にも出演している最も著名な女優の一人だろう。グッドリッチは、このような大スターを映画祭に呼ぶことが、地元の観客、批評家やジャーナリストを巻き込むにはなくてはならないイベントになったとも言う。(3)

 

 こういった試みには映画祭としては賛否両論あるだろう。第1回マカオ国際映画祭の際には、世界各地の名だたる国際映画祭でディレクターを務めるマルコ・ミュラーが、映画祭ディレクターを辞任した。映画祭はあくまで監督や作品のためのものであり、マカオの観光や商業的な活性化には結びつけたくなかったようだ。(6)
 マカオ国際映画祭は、世界とアジア、中国文化を繋げる役割を果たす一方で、地元の映画監督や観客にも目を向ける。彼らはマカオの映画文化を築いていこうという目標の下に様々なプログラムを組んでいるようだ。
 映画祭は今月14日に閉幕し、最高賞に韓国の『Clean Up』が輝いた他、日本からは奥山大史監督の『僕はイエス様が嫌い』がスペシャル・メンションを受賞した。映画祭についての更に詳しいラインナップや受賞作は公式サイト(https://www.iffamacao.com/)を参照していただきたい。

 

(1) https://www.cineuropa.org/en/newsdetail/364204
(2) https://www.hollywoodreporter.com/news/iffam-2018-interview-mike-goodridge-lorna-tee-1167363
(3) https://www.screendaily.com/features/macao-film-festival-2018-preview-/5135024.article
(4) https://www.iffamacao.com/
(5) https://zolimacitymag.com/events/international-film-festival-and-awards-macao-2018/
(6) https://www.cinematoday.jp/news/N0087795

小野花菜 早稲田大学一年生。現在文学部に在籍しています。趣味は映画と海外ドラマ、知らない街を歩くこと。


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