[World News #190]  ”Citizenfour”がアカデミー賞を受賞。Unknown

少し前の話題だが、ローラ・ポイトラス(Laura Poitras)の作品 “Citizen Four”が、アカデミー賞のドキュメンタリー部門で最優秀賞を受賞した。劇場公開は昨年の10月。この作品は、元NSA(国家安全保障局)職員のエドワード・スノーデンが2012年におこなった「内部告発」(whistleblowing)を映像におさめたものである。スノーデンは、ガーディアン誌の記者、グレン・グリーンウォルド(Glenn Greenwald)を介して、合衆国のいち機関がいかに市民の生活を監視し続けてきたかを暴露した。一連の内部告発を記事として報じたGuardianとWashington Postの両誌は、その報道にたいして2014年のピューリッツァー賞を与えられるに至った。
本年度のアカデミー賞ドキュメンタリー部門のノミネート作品には、“Citizenfour”以外にも、写真家のセバスチャン・サルガドの生涯を追ったヴィム・ヴェンダースの新作”Le sel de la terre”、同じく写真家の仕事にせまった“Finding Vivian Maier”(ジョン・マルーフ、チャーリー・シスケル)などが名を連ねていた。授賞式には、ポイトラス、グリーンウォルドのほか、スノーデンの恋人であり、現在はともにロシアにすんでいるとされるLindsay Millsも登壇した。司会者は「特定の理由のため、スノーデン氏は式に参加できなかった」とかたり、会場から笑いがおこった。
ポイトラスのスピーチは以下の通り。

まず、ドキュメンタリーに関わる多くの人たちに感謝します。危険をおかしながらも、深い協力関係をもつ人々とともに仕事ができたのは大きな喜びでした。ここに立っているのは私達だけではありません。知られるべき物事を開いていこうとする私たちの仕事は、勇気ある多くの機関に支えられています。Radius, Participants(ともに配給会社)、BritDocs、そしてこの映画製作を支えた、たくさんの組織に感謝します。
エドワード・スノーデンが暴露した事実は、単に私たちのプライバシーへの脅威であるだけではなく、民主主義そのものへの脅威でもあります。私たちすべてに影響をあたえる重要な決定が秘密裏になされるとき、私たちは、私たちをコントロールする権力を抑制する能力を失います。エドワード・スノーデンの、そして多くの内部告発者たちの勇気に感謝します。わたしはこの賞を、グリーンウォルドと、そして真実に光を当てようとする多くのジャーナリストたちと共有したいと思います。

Thank you so much to the Academy. I’d like to first thank the documentary community. It’s an incredible joy to work among people who support each other so deeply, risk so much, and do such incredible work. We don’t stand here alone. The work we do to (unveil?) what needs to be seen by the public is possible through the brave organizations that support us. We’d like to thank Radius, Participant, HBO, BritDoc, and the many, many, many organizations who had our back making this film.
The disclosures that Edward Snowden reveals don’t only expose a threat to our privacy but to our democracy itself. When the most important decisions being made affecting all of us are made in secret, we lose our ability to check the powers that control. Thank you to Edward Snowden for his courage, and for the many other whistleblowers. And I share this with Glenn Greenwald and other journalists who are exposing truth.(※1)

本作はポイトラス氏が「ポスト9・11三部作」とする「The Oath」(2010)とイラク戦争下のイラク市民の生活をあつかった「My Country, My country」(2006)に続く、一連の三作品の最後を飾るものだ。映画は、グリーン・ウォルドとポイトラスの乗った車が、スノーデンとの密会にあてられた香港市内のホテルに向かっている場面から始まる。メールの文面を読み上げるポイトラスの声がそこにオーバーラップする。メールの内容は、実際にスノーデンがポイトラスに送ったものだ。「ローラへ。告発しようと思っていることがある。Guardian誌の記者、グリーンウォルドに連絡をとってほしい」。走行中の車の窓のカットは本編のなかでたびたび現れる。全編にわたって、光の濃淡がはっきりとした、スタイリッシュな映像だ。
本作のいちばんの魅力は、29歳のスノーデン氏の繊細な一面がありのままに映し出されていることだ。映画の中の彼を見ていると、知的な雰囲気こそあれ、
とても国家を揺るがす内部告発をおこなうような人物には見えない。むしろ、とてもありふれた、快活ながらも内向的な20代の青年に見える。
ポイトラスはニューヨーク映画祭の記者会見で、スノーデンからのアプローチがあったときどう思ったかと問われて、こう述べている。

「私はドキュメンタリーというものをジャーナリズムとストーリーテリングのどちらでもあると考えています。彼と手紙をやりとりしているとき、私はどちらかというと、ジャーナリストとして振る舞っていたと思う。けれどそのあと、香港に行ったとき、これからおこることをそのまま記録すべきだと感じたんです。そして、編集の段階で、どう語るかを考えようとした」(※2)

本作は、こうしたストーリーテリングとジャーナリズムのちょうど間にある映画であるように思える。香港での部屋のカットは監督がひとりで撮影したということだが、本編中、時折彼女は自分から声を出して、スノーデンに質問を投げかけてもいる。客観と介入、観察と参加を同時に進行させた作風も作品の魅力になっている。
また、この映画が緊張感を絶やさない理由は、ひとえに部屋のなかだけで物語が進行している点にある。国家を揺るがす情報の暴露が、香港の人気のないホテルの一室でたった二人の記者にたいして明け渡されるというのはとてもスリリングであるし、映像にも常に緊張感がもたらされる。狭い空間で記録されることで、細やかな動作や、声の微妙なニュアンスが大きな意味をもつことにもなる。そして、カメラによって記録されたそうした繊細さは、スノーデンが、そしてポイトラスとグリーンウォルドが公のものとした「事実」を、なにか事実以上のものに変質させているように感じられる。

余談だが、Guardian誌に、先日スノーデンが「合衆国に戻りたがって」いるという記事が、ロイター通信を通じて掲載された(※3)。ロシア国籍の弁護士が実現に向けて動いているという。合衆国の検察は「不可能である」としているほか、ケリー国務長官は「勇気を出して戻ってくるべきだ」と述べている。

(※1) https://www.eff.org/…/laura-poitras-acceptance-speech-when-…
(※2) http://www.washingtonpost.com/…/citizenfour-and-the-power-…/
(※3) http://www.theguardian.com/…/edward-snowden-lawyer-return-b…

 

※Citizenfourはthougtmaybeで無料でストリーミング鑑賞が可能(https://thoughtmaybe.com/citizenfour/)

井上二郎
上智大学英文科卒業。「映画批評MIRAGE」という雑誌をやっています(休止中)。ニュース関連の仕事をしながら、文化と政治の関わりについて(おもに自宅で)考察しています。趣味は焚き火。

 

 

 


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