[684] ヨルゴス・ランティモス最新作『女王陛下のお気に入り』は誰か?


ヨルゴス・ランティモスという名前を聞き脳裏に浮かぶのは太陽の光が燦々と輝く下で不気味な動きを繰り出す家族たちの姿。ほとんど白に近い色で光り輝く畑を縫うように寄り添って歩いていく禁断の恋人たち。心臓の底辺に響いていくような足音と共に階段を登り下りする狂ってしまった歯車を持つ人間。欲望や私たちの無意識に沈んでいるなにかをすくい上げ、それを映像化していく彼の作品には不気味さと同時に人間の根本的な存在意義について考えさせられるテーマや言葉、ダークなユーモアが漂っている。

Emma Stone stars in Fox Searchlight Pictures’ “THE FAVOURITE.”

そんな彼の最新作『女王陛下のお気に入り』(原題:The Favourite)が今年度のベネチア国際映画祭でプレミア上映され銀獅子 審査員大賞と主演オリヴィア・コールマンが女優賞を受賞という大快挙を果たした。

18世紀イギリス王室を舞台に繰り広げられる人間ドラマの中心を歩くのは3人の女性たち。オリヴィア・コールマン演じる英国女王アン、レイチェル・ワイズ演じる女王の友人であり側近であるセーラ。フランスと戦争の真っ只中にある英国だが女王アンにとって鴨競争とパイナップルを食べることの方が重要である。また、病気がちであり女王に代わって政治を動かしているのは側近のセーラでありアンはあまり女王の仕事には向いていないようだ。物語はエマ・ストーン演じるセーラの従姉妹であり新しい召使いとして登場するアビゲルによって新たな展開を遂げていく。彼女は密かに力を獲得するべく静かに、しかし確かに女王の心の隙間に入り込んでいく。揺らぐ絆と人間の欲望、そして彼女たちの気分によって翻弄される国単位の人間たち。彼らの運命はたった3人の人間たちの感情の波に託されている。


今作は初めて監督以外によって書かれた脚本での作品となったが彼自身の脚本との関わりの有無は作風に大きな影響は与えていない。
「脚本として存在していた今作の物語を映像化するまでに9年かかりました。私が一番映像化したかったのは物語の中心で動いていく3人の女性たちです。最初にこの脚本を読んだ時に惹かれたこの3人の人物たちを撮りたいと思いました。」

本作は史実を元にしているがそこに存在している政治や歴史的事象自体ではなくあくまでも3人の女性たちがどのようにその世界を見ていたのかというのが今作の大きなテーマであり世界観となっている。
「彼女たちの小さな感情の波や日常の変化というものがどれほど大きな影響を与えていたのかということを描きたかった。これは普遍的なテーマであり時代を超えていきます」

主人公が女性3人でありそのうち二人が愛人関係であるということから#metooのムーヴメントや女性たちの権利への関わりを意識しているように感じられるが監督はそこにあまり注目しすぎて欲しくないと述べる。
「女性たちが主演であり彼女たちの周りに存在する世界や人間関係を描いています。でも同時に映画というのは受け取る人間の数だけの世界があると思っている。それぞれの背景や文化、育ってきた環境によってまったく違ってきます。だから私の作品はユニバーサルな物語だと言いたいし、そう思いたいしそうあってほしい。私は3人の女性たちを人間として描こうとしました。映画界であまりにも多くの女性たちが「彼女」であったり「妻」であったり欲望の対象としてしか描かれてきませんでした。それぞれ複雑で美しく、時にはゾッとするようなことをやってのけてしまえるただの人間であること、そこに注目してほしい」

時代といえば今作は18世紀イギリスを王室を舞台にしており、『シンデレラ』や『キャロル』などの衣装デザイナーとして知られるサンディ・パウエルによる錨のように重いコルセットやカツラなどの中世特有のスタイルと色を兼ね備えた衣装にも要注目だ。

撮影監督には柔らかなタッチの中に時折浮かぶ人間の冷酷さを写し出していくロビー・ライアンを迎える。『フィッシュ・タンク』や『わたしは、ダニエル・ブレイク』の撮影監督として知られる彼の今作での特徴はやはり広角レンズの使用だろう。ミラノで活躍した画家カラヴァッジオのタッチを思わせるというレビューを書かれた雰囲気を醸し出す今作では広角と魚眼の描く異空間が印象的だ。
「撮影のスタイルというのは監督のセンスやものの見方などとても直感的なものに託されています。孤独を抱える人たち、大きな空間というコントラストを視覚的に捉えたかった。大きな空間に佇む一人の人間の姿というあまり歴史映画では見られない撮影の仕方を使用したのもこのためです。でも同時に鏡の凸状型を利用し描かれた歪んだ絵画も存在することから新しいスタイルでありながら同時に時代に適っていると思います。」

そして彼の作品に必ずと言っていいほど登場する(あるいはテーマや概念として使われる)数々の動物たち。動物と人間との関係に魅了され続けてきた監督は友人であり、愛の対象であり、そして殺して食する対象でもある動物という存在と人間との関係性に惹かれて続けている。今作では可愛らしいうさぎが出演している。監督の過去の作品たちに登場する動物たちは(『聖なる鹿殺し』『ロブスター』『籠の中の乙女』)彼の作品に散らばる人間的な闇とコントラストになったり、あるいはそれらをつなぎ合わせる役割を担っているようだ。このうさぎが王室のカギを握るのかもしれない。

11月23日からアメリカで劇場公開が決まっている。

参考
https://www.theupcoming.co.uk/2018/08/30/the-favourite-press-conference-with-director-yorgos-lanthimos-and-stars-olivia-coleman-and-emma-stone/

http://emanuellevy.com/pick-of-the-week/favourite-interview-with-director-yorgos-lanthimos-and-stars-emma-stone-olivia-colman-nicholas-hoult-and-joe-alwyn/

https://www.indiewire.com/2018/07/the-favourite-trailer-yorgos-lanthimos-emma-stone-rachel-weisz-1201982108/

https://www.filmcompanion.in/fc-at-venice-2018-yorgos-lanthimoss-the-favourite-plus-orson-welless-last-work/

https://mubi.com/notebook/posts/venice-ruthlessness-rules-in-yorgos-lanthimos-tragicomic-the-favourite

http://www.bbc.com/culture/story/20180831-film-review-the-favourite

mugiho
夜の街を彷徨い、月を見上げ、人間観察をしながらたまにそれらについて書いたり撮ったり


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